僕の、新しい旅の始まり、一九九八年・夏 ❹/六分割
(注:括弧〔 〕は漢字の振り仮名、また欧文の振り仮名の指定。)
Ⅳ
クリスチーナ Christina へ ―
とうとう一人旅に出ました。シンガポールは熱帯なのだと知りました。
着いて早々〔そうそう〕、昼のひなかに熱帯地方を散歩していて、気がいきそうになりました。街並みは極彩色〔ごくさいしき〕! 何やら良い匂いまでしてきます。スカート姿の男の人が歩いてきます。
(…クリスチーナは今頃どうしているだろう、姉ちゃんに似た、とびきり美人になったろう、一緒に旅などしていたら、さぞかし悩ましかったろう、クリスチーナを連れて来ればよかった…)
そこのスーパーはクーラーが効いているから、少し頭を冷やしなさいと、T シャツ屋のおばさんに叱られました。真っ黒なインド人のおばさんです。T シャツを買いました。二枚で三百二十円。一回洗ったら、肩のところがほころびました。
コインランドリーなどシンガポールに無いというから、自分で洗濯するのです。小包ひもを買ってきて、風呂場と窓際〔ぎわ〕、二か所に吊〔つ〕るします。窓の外は建設予定の空き地。赤土の上で、真っ黒なインド人労働者たちが遊んでいます。
T シャツは、もう乾いてる。
またひとり、スカート姿の男の人が歩いて行きます。そして雷が鳴り、長雨となりました。
*
オランダ北辺の島・テルスヘリング島にやって来ました。あんまり寒くて、最初の二晩、ろくろく眠れませんでした。昼間でも、度々〔たびたび〕尿意を催します。そして、トイレまで一分以内に走って行きます。ここはキャンプ生活です。いつもテントが風で揺れてる、草も伸びない、雨が降る。
この島の人たちは、僕の名前をユッキ・タッキ・タロと発音します。Yucitaci Taro とつづります…
一九九八年六月十六日 オランダ・テルスヘリング島にて
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https://note.com/tarafu/n/n6db2a3425e5c