僕の、新しい旅の始まり、一九九八年・夏 ❺/六分割

(注:括弧〔 〕は漢字、また欧文、またその他の振り仮名の指定。)

 Ⅴ

 フー(Fou)ちゃんへ ―

 フーちゃん、見送りありがとう。僕はシンガポールが大好きになりました。君のおかげです。

 *

 シンガポールは暑かった! シンガポールは赤道直下です。この時期、太陽は北を廻〔まわ〕っていたようです。

 この赤道直下の小さな島に、中国人・インド人・マレー人、色んな人種が混ざり合って暮らしています。インド人のお医者にかかり、中国人のアシスタントは僕を助け、本当に良く働いてくれました。マレー人というのは、まだうまく見分けられない。ゲルニカに混じってた、あの子がマレー人だったヨと、アグネスが教えてくれた。スーパ-の棚には、ライム・グワバ・カラマンシ、色とりどりなフルーツ・ジュースが仲良く、混ざり合って並んでいます。

 スーパー・ホテル・アパートメント、建物の中は皆冷房が効いてる。子供たちは外で遊ばない。テレビやゲームに熱中している。高層建築・植樹・道路・信号機の行き届いた清潔な街。

 そんなモダンの街のあちこちにある大小の屋台村には、中華・ムスリム・インド、いろんな料理が混ざり合って軒を並べ、村々の真ん中の広場には、いろんな色のテーブル・椅子が、スープの湯気が、食器の音が、タバコの煙が、人の話し声・ささやく声・叫び声が立ちのぼり、それらを、高い高い天井からぶら下がった旧式の大きな羽根が、ゆっくりと・ゆっくりとかき混ぜている。…ここはちっとも涼しくないヨ! インド料理のターキー・スープは(少し・ぼられた)辛くておいしい。骨と肉とがくっついて、上手にかじれない。汗が出る。アグネスが笑う。英語、中国語、タミル語、マレー語、何もかもが混ざり合い、それでも所をわきまえて、仲良く暮らし合っている。仲良く混ざり合い、響き合っています。

 *

 オーチャード・ロードという、東京の銀座のような繁華街の、でもどこかひなびたCDショップで、“ MONTEIRO, YOUNG & HOLT and friends ‘LIVE’ at the Montreux Jazz Festival '88〔モンテイロ・ヤング・アンド・ホルト・アンド・フレンズ・ライヴ・アット・ザ・モントルー・ジャズ・フェスティヴァル・88〕” というカセット・テープを買いました。四百円。ジャズ(Jazz)の棚に、ピンク・フロイド・坂本龍一・喜太郎〔きたろう〕まで混ざってる!

 今、オランダ北辺の島・テルスヘリング島のキャンプ場で、雨に降られ・風に吹かれ・寒さに震えながら、ジャズを聴きながら、このフーちゃんへの絵葉書を書いている。そして、シンガポールから、早速〔さっそく〕、次の仕事の依頼が届きました…

 一九九八年六月二十五日 アムステルダムにて清書・投函〔とうかん〕(明晩はいよいよ▭▭▭▭〔バラック〕、バルセロナ!)

⦅僕の、新しい旅の始まり、一九九八年・夏 ⑥/六分割⦆ に続く


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https://note.com/tarafu/n/n6db2a3425e5c


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