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ぶつかりおじさん




先日はじめて「ぶつかりおじさん」に遭遇した。
夕方の池袋駅でのことだった。


主要駅で帰宅ラッシュの構内は混み合っていて、乗り換えのために移動している時もたくさんの人とすれ違う。


私は歩道を歩いている時に、向こうから人がやってくるとどっちに避けたらいいか迷って、結局相手にフェイントをかけがちなので、こんなにたくさんの人がいる駅で迷惑をかけられないと思い、緊張しながら壁際を歩いていた。

田舎から観光にきていた私は、必死であった。


なんとなく流れで複数の列ができ、私は前を歩く知らない人の後ろを着いて行った。

するとすぐ横を通り過ぎる人の列で、前方から体の大きなおじさんが腕を振りながらズンズン進んでくるのが目に入った。


邪魔になるかも、、と咄嗟に少し体をななめにし、小声で「すみません」と言う。


その時左胸に強烈な痛みが走った。


おじさんの肘がわたしの左胸にぶつかったのだ。

何が起きたのかわからず振り返るも、そのおじさんは私にぶつかったことを気に止める様子もなく、相変わらず腕を振り堂々と進んでゆく。

遠ざかる後ろ姿を見ながら、わざとだ、と気づいた時には言いようのない嫌悪感が襲った。


ぶつかったと書くと衝撃が伝わらないかもしれない。
おじさん渾身のエルボーが決まった瞬間だった。


初めて知ったが、人は急に胸をどつかれると、呼吸が止まりそうな痛みとともにじわじわと苦しさがやってくるようだ。

しかもしばらく後を引く。


理不尽な悪意に怒りが込み上げ、一方的な暴力に言い返しもできない悔しさが襲い、知らない他人のサンドバッグになるくらい私はダメな人間なのかと落ち込んだ。




滑り込んだ満員電車で考えた。



あの人は一体なんだったんだろう。

Twitterでは聞いたことがあるけど、本当に存在していたんだ。

常習犯なのだろうか。

日常のストレスをすれ違い様に他人にぶつけて、それでストレスは解消されるのか。
気持ちは満たされるのか。

私が派手髪で、屈強な体で、見た目が強そうな人間だったらあんな思いはしなかったのか。

もしかして、見た目にはわからないハンディキャップを抱えているのか。

だとしても、私が嫌な思いをしなくてはいけない理由にはならないんだけど。

もらい事故にあったと思うしかないのかもしれない。





疲れ切った空気と一緒に、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた電車に揺られながら、東京、向いてないなと思った。




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