見出し画像

”平川武治のノート・ブログ/The Le Pli” アーカイヴー4 /その2:

「”過ぎてゆかない過去”の中で漂っている僕たちの21世紀からの逃   
僕たちはもう、既に21世紀で生活しているというのに!!
―――ヨーロッパに於けるファッション環境の新しさとは?ーその2。」
文責/平川武治:
投稿日/2003-08-26 版; 

今回のインデックス;
6)[誰が21世紀のYSLになるか?真剣に探し始めたパリ。];
7)[ゲイマーケットが冷め始め変革を迫られているメンズ界。];
8)[一ファッション企業Diesel社のプロモーション事業でしかなかった
イタリー発のファッションコンテスト、”IT’S#2”];
9)[みやげ物ブランドを考える価値がある東京アパレル。];
10)[21世紀の新しい環境とランドスケープとしてのプラダビル];
番外) [次期パリ・コレでのトレンドは‘92,3年が再び???];
◯おわりに、”もう一度、再確認してみよう。”

***
<本原稿は前回掲載分の”アーカイヴー4 /その1”からの続きです。>
5)[誰が21世紀のYSLになるか?真剣に探し始めたパリ。];
 老舗エルメスがJPゴルチェを次期デザイナーにした事はこの街にとっても、正論過ぎるほどに正論であった。
 今、巴里のモード関係者たちは”誰が次の、YSL的存在になれるか、誰を推そうか?”と必死に詮索している。言い換えれば、フランス人デザイナーで、フレンチテイストをフレンチモード的に演出できるYSL的中心デザイナーを物色しているのだが、殆んど誰もいない状況に気が付き始めたのも今なのである。「フランス人、フレンチテイスト、フレンチエレガンスそして若手ゲイ。」これが条件であろうがG・ユーキヴィッチやアレキサンダー・マチュ―でも未だ、不十分。では誰?エルメスにおけるJPゴルチェの起用は既に、彼が同系列会社のデザイナーであるため最も、当たり前すぎるほどの選択であった。しかし、彼を推すしか今は若手(?)が居ないというのが現実なのだ。僕も次期デザイナーの件ではエルメスの友人へ僕なりの候補デザイナーリストを作ったのだが、この時もゴルチェは彼の作風から言っても、本命中の本命で面白くなかった。
 日本のモード関係者たちはどれだけ本意に、21世紀のモードを背負って立つ“ポスト川久保玲やヨウジ“を育てる気はあるのだろうか?または、もう必要ないのだろうか?

6)[ゲイマーケットが冷め始め変革を迫られているメンズファッション界。];
 確実に、2シーズン前から世界のメンズマーケットが変化し始めた。
この10年以上の間、そもそもは‘85年来、ゴルチェが登場し「オム・オブジェ論」をコンセプトにメンズ界の教祖的存在になって以来、特に’90年代の若手メンズデザイナー達は自らたちもそうであって当たり前のようにゲイ化し、ゲイマーケットをリードターゲットとしてビジネスを行ってきた。
だが、ここに来て“エイズ以降“彼等、ゲイたちの生活様式が変化し始めた。
 彼ら達もそれなりのライフスタイルそのものを楽しむ方向へ転化し始めたからだ。その主流は、健康スポーツ志向へ向い、高級スポーツ・ジムでの身体造りに励む事が彼らたちのライフスタイルでのプライオリティーになる。続いて、イベント参加、CD&DVDとライヴ・コンサートそして、バイクと旅行、ハイテク機器と料理とインテリア関連と続く。ファッションはH&MでO.K.という彼ら達の”NEW NORMAL“な時代が新しい。 
 その結果が、“ノーマルな男たちへの普段着を贅沢にオシャレさせよう“という魂胆が再び、メンズマーケットのメインになり、着易くコンファタブルなジャケット中心の”シンプル&ラグジュアリ―”がキーワードのコレクションへと変化し始めた。
 その兆候として女性デザイナーたちが、川久保玲、エルメス・オムのヴェロニックやS.リキエルたちが造るメンズ服が熱くなった。
 日本では“オカマ“マーケットがソフィスティケーテッド可能なのだろうか?

7)[一ファッション企業Diesel社のプロモーション事業でしかなかったイタリー発のファッションコンテスト、”IT’S#2”];
 昨年、イタリーの国境の街トリエスタで始まったファッションコンテスト“IT’S”に僕も昨年の第1回目の審査員でそして、今年もプレスとしての招待で参加させてもらった。ここで判った事は、このインターナショナルな規模のファッションコンテストはEUで幾つか行われている、代表的なものはフランスのイエール・コンテストなどとその最終目的が違っていることだった。考え様では、これも21世紀型といえよう。
 現在、行われているファッションコンテストの多くがインデペンデントなデザイナーへのパリコレへの登竜門的性格の“イエール・フェスティバル“のようなコンテストか、自分たちの国のファッション産業そのもののレベル・アップの為に行われる、スイスの“GWAND“や素材メーカーがバックアップして自分たちの素材を若いデザイナーたちに使ってもらい新たな可能性をプレゼンテーションし、問うためのイタリーの“ミッテルモーダ・コンテスト“等の種類に分けられるファッション・コンテストなのだが、この“IT’S#2“はスポンサーであるイタリーの”Diesel社”の広告販促と自分たちの企業へ、世界レベルで才能ある可能性豊かな人材を探し、見つける事が目的のファッションコンテストなのである。そのために、世界中のファッションデザインスクールの学生や新卒者を対象にし彼らたちを選ぶ審査員も世界中から招待した雑誌を中心にメデア関係者、有名バイヤー、ヘッドハンテイングオフィスそれに、デザイナーたちを巻き込んだ規模のものとなっている。
 従ってこのコンテストをオーガナイズしているのは地元の”広告代理店”と元ミッテルモーダでオーガナイズをしていた女性がイタリーの広告代理店と組んで“Diesel社“のための、なかなか強かな構造を構築したものである。
 この規模で、この様なファッションコンテストが出来る“Diesel社“は今、手中にした地元イタリーの幾つかの生産工場とマルタン・マルジェラブランドそれに、メインのデニムラインが好調な印なのであろう。ここにも生産背景を手中にした企業が強い証拠を見せてくれている現実がある。
 この勢いで行くと“Diesel社“はここトリエステに“Dieselタウン“を作ってファッションとストリート・スポーツとアートそれに勿論音楽、ゲームをエンジョイさせた21世紀型の「ファッション・アミューズメント・タウン」を環境化してしまえば面白いのにと僕は考えて、知り合いであるDiesel社の社長へ提言する。
 本当は,日本にこの様な21世紀発想の新しいファッション環境が街ぐるみの規模でプロジュースされれば面白いし、今後の対中国戦略とアジアにおけるファッション・キャピタルとしての可能性が考えられるのだが。
 21世紀も10年を過ぎる頃には僕たちの国、日本は今後、「観光立国」としてしか国際的には立場が無くなるであろうから余計である。
 東京アパレルが自分たちの新たな人材を捜す時にこれだけの心意気で“規模とリスクとコスト“を掛けてやるだけの企業が在るだろうか?

8)[みやげ物ブランドを考える価値がある東京アパレル。];
 僕の思い込みでの将来の日本は先にも書いたように「観光立国化」するしかないであろうと真剣に想っている。
 勿論、「日本的新・観光国」である。ファーイーストとしての、伝統的なる日本、世界遺産の日本各地、ポスト・モダンの先進国としてのハイテク・日本そして、アニメ・ゲームと風俗をも含めた東京・アミューズメントこれに新たな産業、お台場カジノがやがて加わるであろう。
 この根拠は2008年の北京のオリンピックゲームと2010年の上海での万博以降の中国がかつての日本よろしく確実に、物的欲望を喚起する「大衆消費社会」構造へとイデオロギィーに関係なく、“様変わり“をしてゆくと読ん時に、この発想が一つ考えられる。
 僕は世界のファッション ラグジュアリー企業の最近の東京進出ラッシュによるこの街の様変わりはその殆んどが、対中国へのプレゼンテーション機能も考慮された“サンプル都市化“状態がその根幹だと認識している。なので、その中国からの観光客を呼び寄せることがこれからの「日本的新・観光立国」化と、インバウンドには欠かせない”お得意様”であろう。
 そこで、「日本的新・観光国」の”土産物マーケット”が気になり、日本のみやげ物の実態をTVで見た。全国のみやげ物菓子で一番が歴史的にも江戸時代から在る、お伊勢名物の[赤福]で年商約90億円。続いて比較的歴史の浅い最近の商品、北海道の[白い恋人たち]、これはJリーグ誕生と関連があり、これで年商約85億円。すごい事である。東京の[東京バナナ]も新興みやげ物ではトップ。これらはワンアイテム・ビジネスである。
 もしかしたら、[消費されないデザイン]というコンセプトが適応されるであろう世界だ。これをファッション業界で考えてみたらどうだろうか?
多分、[古着 ]や[裏原]ブランドそれに「竹下通りブランド」が僕はこの分類に入ると思っている。この街へ来たら買って帰るT-シャツそして、馴染みになるブランドそのもの。言い換えれば、[街ブランド]である。そして、この手の元祖は大川ひとみの原宿の[MILK]であろう。その証拠に今の[裏原]系ブランドのデザイナーと称されている藤原ヒロシを始めとした連中の多くは、ひとみさんに可愛がられて社会へ出てきた連中が多い。当然、彼らたちのメディアとの関わり巧さも大いに手伝っているが。
 40年近くの歴史の戦後のこの国のファッションアパレル産業も気が付いてみると未だ、[ナショナルブランド]といえるブランドが無い。例えば、”ブルックス ブラザース”、”ラコステ”、”バーバリー”などなどである。
 日本の大手アパレルが売上を競っても所詮、ワンブランドの最好調期は3,4年周期しか継続しないのが現実である。日本には、戦前からの素材メーカーと生産工場が構造化された産業環境によって再発展してきた戦後アパレルと、それに続くデザイナーブランドとキャラクターブランドそして、“裏原“系の1発屋ブランドの現在に至るまでそして、最近では“SPA型“という小売業が、その生産背景を中国方面へ発展させた「大量生産と大量販売」構造をグローバル時代の波に乗ってモノつくりを行い、ワンシーズンにより回転数を多くし、実質の売上を伸ばして来た「SPA型」アパレルが現在までの日本のファッション産業の変革であろう。
 そして、そのための情報量と速度はインターネットによって加速し、従来のMDは今ではより消費者へ近づき、店頭MDが大切な情報源にもなっている。しかし、我が国のファッション産業の最終コンセプトは40年経っても変わらず、「消費されるデザイン」と「差異としての時間差的価値観」でしかない。 ”グローバリズム”と言う汎世界的経済構造を構築された現在、この辺でファッションデザインも「消費されないデザイン」というコンセプトで新たなビジネス方式を考えてもよさそうである。
 ならば、今後の「観光立国化」と「スーベニィール・ファッション」という新たなビジネスコンセプトも考えられるであろう。

9)[21世紀の新しい環境とランドスケープとしてのプラダビル];
 最近、“六本木ヒルズビル“が出来たが、これは残念ながら[遅れて来た20世紀のショッピングテナントビル]でしかない。美術館を併設しているが、所詮”貸しビル業”出身の仕事である。従って何一つ、新しいさ在る商業施設としての21世紀を予言し、それを構造化していないしまた、”21世紀の風景”も作り出してはいない。規模が大きいだけで環境もアクセスも都市機能もそして、テナントとそのデベロップメントも20世紀型の延長でしかない。
 その一方で、遅れて出来上がった青山“プラダビル“は21世紀の顔をしている。建築そのものだけではなく、使っているマテリアルもそうだし、敷地の使い方、ユーティリテイとしての空間の使い方そのものが新しい。幾つかの勾配斜面を作り上手にゾーニングし決して、大きくない敷地を見事に豊かに新しい“ランドマーク化“している。地元の従来からの風景を、横裏に当たる所に在る地元、“マニマンダラ“のハーフチェンバー様式の建物を上手に取り込んでもいる。
 そして、僕が1年前に提案していた「垂直のガーデニング」をここでは苔/モスをネット上に仕込んだバイオ・タイルを作ってこの敷地境界面をゾーニングしている。強いて、欠点を言えば地下への導入部のエントランスのデザイン的こなしと素材感が今一貧弱である。この建築設計はバーゼルの建築家ユニットが請負った。
 これから、表参道界隈は日本人建築家の作品ラッシュになる。伊東豊雄のTOD’Sから黒川紀章の赤十字に、妹島和代のDIORそれに向かい側に安藤忠雄。さて、どんな21世紀を彼らたちが”環境とランドスケープ”として見せてくれるのであろうか? 
 決して、東京をニューヨーク化する事が”21世紀”ではないことに気が付かなければならない。

番外) [次期パリ・コレでのトレンドは‘92,3年が再び???];
 湾岸戦争、ジェンダー、フリーダガーボ、レゲエミュージュック、パンキー、不確実性、不安、グランジ、リ・メイク、厚底、デ・コンストラクション、フィット&ルージイ―、プリント、ニュー・迷彩等などと、何でも有りのモードの世界のトレンドと称されて発信された”環境とランドスケープ。”
 そして、クリエイティブ・コンセプトは「ネオ・プロテクション/ネオ・カモフラージュ」。イメージング・ソースは仏映画「レオン」であろうか?

◯おわりに、”もう一度、再確認してみよう。”
 『僕たちは既に、21世紀に生きている事を❗️❗️そして、僕たちの未来を豊かにポジティブに考え、次世代の子供たちのための「大いなる空想旅行」を❗️そして、「新しい環境とランドスケープ」を思惟してみよう。』
 ならば、それから逆算して今を考えたとき、本当に今、ファッションデザイナーたちは何をデザインしなければいけないか?この新たな方法とは?
この発想と順序付けが大切なこと、それ自体が時代性ではないだろうか?
 これが21世紀型「アヴァンギャルド、再び!!」の真意と根幹であろう。
  [過ぎてゆかない過去]の中で漂っている僕たちの21世紀から大きく窓を開け、未来をポジティブにかつ、思慮深く感じ考えてみよう。そのための
“深呼吸“も忘れないように!!
合掌。
初稿/2003-08-26:
文責/平川武治:


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?