心霊スポットを創造した話
中学高校時代の俺はオカルトに飢えていた。特に心霊スポットや廃墟などに付随するあの体験型の生々しさに強烈に惹きつけられていた。誰にだってそんな時期はあるのだが、ど田舎に住んでいた事もありインターネットで著名な心霊スポットというのは地元では時代を超えメジャー過ぎて少し冷めるタチで、まだ明確にフォークロア化していないスポットを名所化しようという意識で学校帰りなど独自に探索を続けていた。チャリで独自取材するという行動がジャーナリストみたいで凄いカッコいいと思っていた。勿論部活に入っていない。
そして怪奇ダンジョン探しについて数少ない友人を一切介入させる事なく、何故か完全に独自の動きを取っていた。「インディーズでマニアックなバンド知ってっけど、お前らに良さわかんねーよなあ」みたいな嫌なスノビズムを心霊スポットに対して何故か持っていた。俺だけの誰にも定義化されてないオカルトみのある場所を求めることに快楽を得ていたのだ(クリスタル)
地元の神社が心霊スポット化していたが、実はその裏手の坂を登ったとこにある戦没者の慰霊碑がある広場の方がオカルトレベル高いんじゃないのかなど、時代や歴史的背景に準えた由緒ある「怖さ」をリアルだと捉えており、お化けなど見えないのにそういう逸話をデコレートしては噂を流す活動が好きだった。そうやって自分が先行して定義化した半分フェイクオカルトニュースが別の出所から回って来るのを期待してのささやかな活動であった。
因みに小学生の頃、その広場にはベタに大量のエロ本が捨てられていて良く読みに行っていたので性欲は恐怖に打ち勝っていた。エロの力は下校時のルートを逸らされるほどのパワーに溢れかえっている。ある時いつものようにみんなでエロ本観に行ったら、その行動を誰かが先生にチクって無茶苦茶怒られた。真っ直ぐ下校していない事に関する指導ならまだ納得できたが、「エロ本の中でもエグい内容だった」という理由で怒られたのは今思っても意味不明過ぎる。不健全なコンテンツに触れるというだけで問題化するのは変過ぎる。「そんなエグくは無かったけどなあ〜」と謎のイキリと理不尽が交錯する衝突地点、あの先公を思い出す体感温度である。(東京事変ってバンド名改めてカッコよ過ぎ)
そんな中でも地元の外れの農業道路沿い田んぼのど真ん中に聳え立つ「白い家」というのは中々の個人的ホラースポットであった。中学の同級生が住む最果てみたいな集落に向かう途中の軽トラしか走って無いような田んぼと鉄橋しかない道にその家だけポツンと現れる。
行政が介入しているようなバリゲートで囲まれ、庭も荒れ放題で恐らく廃墟なのだろうと思われるが、そこだけ意味深に残り続けている不気味な一軒家であった。地元の友達に取材しても「昔からずっとあの状態だけど誰も住んで無い廃墟なだけなのでは」という回答を得られるのみだった。しかし何かこの取り残される一軒家の違和感は痛烈に臭う。いわくが必ず存在するはずだと、自分の地区からあまり売り出されてない堂々としたホラースポットが出現した興奮があった。
廃墟なら廃墟としてそれはまた別の魅力がありいいのだが、やはりオカルティズム溢れる心霊スポットであって欲しい。そんな願いを込めながらそいつの家に遊びに行く道中などに意味もなく訪れて、遂にはバリゲートを突破し敷地内に侵入するに至った。人が住んでいるかもしれない恐怖と私有地への住居侵入というモラル的スリル、なにかホラーな展開が起きるのではというワクワクであそこらへんの脳汁は凄まじい勢いで放出されていたと思う(初めてコストコ行った時ぐらい)
玄関まで辿り着き引き戸を引いたが、案の定鍵が掛かっていて内部探索は不可能だった。(田舎ハウスは玄関の鍵閉めないがデフォなので、ちゃんと閉まっている場合は何かしらの不在の意思が感じ取れる)この時点でやっぱ廃墟か?という説が支配的になる。
入り口が意味深なバリゲードで固められているのも相まってやはり何か差押えや管理者不在で行政介入してるような誰も住んでいない廃墟かとやはり思ってたが、玄関の郵便受けには大量の書類が挟まっていた。老人でも住んでて亡くなってしまい、諸々手続きが為されずそのまま残されるという具合かなと思い、その郵便物を引き抜き何か過去の痕跡を探そうとした。今思うと不在有在に関わらず人の書類読むのはちょっと逝ってるジャーナリズム精神である。俺は巨大資本に頼らず自発的にマスゴミ精神を発揮していたのだ(洋次郎)
その郵便物の束の大半は電気水道ガスの公共料金の明細であった。やはり契約処理が放置されずっと明細だけ送られて続けているのかなと各月の使用量を確認したところ明らかに各種インフラ明細にブレがあり少しゾクっとした。しかもそれは先月分の使用量でもあったからである。ずっと廃墟のような佇まいの「白い家」というのは明らかに誰かが住んでいる。新たな視点の恐怖が脳内を巡り、住民や警察とかが怖くなりダッシュでそこからは脱出した。やはりお化けより公権力や生きた人間の痕跡の方が怖い。地検特捜部はもっと怖い。
そして俺はこの体験談を意気揚々と仲間内に演説して回った。「誰もいない廃墟のはずなのに公共料金がリアルタイムで変動し続けている」という人怖系のオカルトスポット誕生の瞬間である。これがどこまで伝導するかも楽しみだったし、やはり内輪で終結してしまうような強度かもしれないと小手試しな気分だったが、ある程度は満足できた。
段々と受験勉強に忙殺される事になり、その手のオカルトジャーナリズムの熱意も無くなってしまった高三ぐらいの時にふと気晴らしを兼ねてその「白い家」を再訪した事がある。通学ルートは基本電車→チャリというのが最速であるが、一応少し時間を掛ければチャリオンリーで自宅からも山越えを伴えば可能であり、丁度そのルートが白い家があるあの農業道路でもあった。
相変わらず「白い家」はバリゲートに包囲されたまま廃墟らしい姿として残留されていた。夕方なのに電気も付いていないし人の気配もない。そのリバイバル訪問時は流石にかつてのようにゲート侵入する胆力は無かった。これが受験というシステムに取り込まれた悲しき体制配下の人間の心の変化である。しかし玄関を遠巻きに確認すると相変わらず郵便受けにはモッサリと各種伝票が詰め込まれていたのが確認できた。相変わらず何かが生きているのだという昔から変わらない商店街の店を発見したような満足感がありその日は帰って行った。
チャリ通学ブームが到来していたので何度もその「白い家」の前を通って行き帰りを行うようになった。流石に毎日通るので流しながら横目に確認する程度であったが、ある日の帰り道に衝撃を受けた。白い家の2階の窓がフルオープンになってたいのだ。
確実に人間が介在している!というオカルトときめきと窓の中に電気スタンドが見えたときはパンチラぐらい嬉しかったとともに、自分が余裕で敷地内侵入していた罪悪感も絶妙に感じとれた。しかし単に窓が開いているだけであくまでも人間の気配は一切ない。相変わらず行政バリケードで封鎖されているその物件は変に怖かった。
そして別日の通学中に再度確認したら今度は余裕で2階の窓は閉まっていた。やはり何かしらの意思が感じられる変化であるが相変わらず人間がいる気配はなかった。地味に怖い結末を得れたことで自分は満足した。一応あの白い家の続報という形で仲間内の与太話として消化して行った。別に特段お化けが出るとかあからさまに変な現象が発生している訳でもなく、なんとなく不気味な家あったわー真相はよーわからんぐらいの最終調査報告であった。
結局そっからはジャーナリズムよりもセンター試験の方が新たなオカルトの対象となってしまい、進学で地元を離れた事もありそんなスポットの存在も忘れ去って5年の歳月が経った。(ストレートで大学卒業してないというオカルト)
色々就活も怠くなり地元リターンで実家からヌルく働くという結果に陥り、コソコソと地元で労働を始めた。同級生たちも家庭を持ったり労働に支配されていっており、パチンコで緩やかに繋がってるらしかったので自分はなんか部外者が帰ってきたような切ない気持ちになり地元の友達とは連まなくなった。こういう時にお母さんネットワークで先行して「あいつ結婚したで」みたいな情報が入ってくると絶妙に辛い。もう俺は彼らとは蚊帳の外なのだ(聖子)
しかし就職した会社で高卒の同期と出会い年齢を超越した新たな友人ができた。(他の記事にその事書いてます)そいつは5個下の隣町のアホ高校出身で基本校区的にも世代差的にも自分ら周辺とは交わらない感じであった。自分が大学に行っている間のローカルな事情を教えてもらうという確認作業は面白く、特に彼が通っていたアホアホ高校のエピソードは偏差値の低さが本当に漫画を読んでるみたいで面白かった。「決闘」という文化が中世でもないのに存在したらしい。
そしてオカルトジャーナリストの感覚も戻ってきて最近の心霊スポット事情も聞くようになった。相変わらずオールドスクールな心霊スポットが世代を超えて共有されている事実は柳田國男的で愉快だったが、自分の地元の話になると「ホワイトハウス」という心霊スポットの話は聞いた事があると告げられた。
「白い家」ではなく「ホワイトハウス」という若干の改変がまず噂の変形捻れを感じなかなかテンションが上がった。流石に心霊体験談の中身については知らないようであったが、「あの地区にはホワイトハウスがある」という事実はまさに自分が創り出した心霊スポットがひとり歩きし出し、噂を形成させ5学年下の別地域の人間に伝わって戻ってきたのである。「その話俺が作ったよ」という興奮は今でも語り草となっている。
そして改めてインターネットで地元の心霊スポットを色々探ってみる。なかなかオカルトスポットはローカルレベルでも各種まとめサイトで体系化しているようで、YouTuberによる全国津々浦々探索活動も相まって充実しているようであった。かつて自分が取材目的で書き込んだ「◯◯の白い家って知ってる?」という書き込みも細分化地域別カテゴリに鎮座していて少しインターネットやるじゃんという気分になった。
しかし何より噂もついにここまでデカくなったのかと思ったのは、2021年ごろにヤフー知恵袋に書き込まれた「◯◯にホワイトハウスという心霊スポットがあるそうですが何か知ってますか?」というものであった。実際に地元の具体的地名も明記しているし確実に自分が放った「白い家」というフォークロアが「ホワイトハウス」に変容し、地元各種で結構伝播しているようであった。少しあの頃のジャーナリズムが報われた気持ちになり嬉しくなった。ホワイトハウスなる心霊スポットは各県にあるあるネタのように存在するのでそれの仲間入り出来た。
この記事を書くに当たって改めて当時の記憶を手繰り寄せながらストリートビューで「白い家」を捜索してみた。あの牧歌的な農業道路は相変わらずの雰囲気を保っていたがあの歪な白い家の姿は痕跡すらなく消えていた。通学ルートを辿っても一向にそれらしき痕跡もないのはちょっと怖かった。
流石に物件取り壊しされていても空き土地な区画は残るだろうと思うが、マジでそんな痕跡もなく砂漠のように広がる田んぼに飲み込まれてしまっているようで、それっぽい場所を細かく観ても何も思い出せないし、ちょっと遡った時代のストリートビューで確認してもまったくそんな建物ありませんというような状況であった。この個人的後味の悪さ。
ここから新たな伝説が始まる事に期待したい。