NHKとの死闘

大学生の頃NHKの集金人がやってきて興味本位でバトルを仕掛けた事があった。N国党が政党要件を得る遥か前の話である。受信料は受信機器がある限り法律で支払う義務があるのでズッ友である。U-NEXTでNHKオンデマンド課金してるから許してくれ。(宮崎駿のプロフェッショナルがアーカイブされていて助かった。bilibiliなんて日本男児として軟弱者である)

構造を理解した今思うと、その集金人はNHKより委託された罪のない仕事人だったのだが、そんな相手の事情より受信料を払うという儀式に反抗したかったそんな時期である。法律を重んじるのか不当な水際徴収と闘うのかは人間に許された権利である。各種税金のように天引きするぐらいパワープレイしてくれた方が全員ハッピーになれるのではないかと現在では思案する。それかニュース番組以外強制的なスクランブル掛けるみたいなのも技術的に合理性が高そう。

集金人たちは前提として身分を偽装してインターホンに現れる事がある。当時の自分はそんなアンフェアなやり口が気に入らなかった。まんまと扉を開けると、NHKの契約を法律を盾に押し付けられ、「遂に来たか」と絶妙にテンションが上がったものである。(「テレビ持ってます？」に対してテレビに火を放ったらどうなっちゃうんだろうか)

個人的には受信料を払う行為自体は別に利用もしてるし良いんだけど、彼が訪れたのは月末近い昼下がりであった。今月もあと数日で終わるのにその月の料金から全額発生するというロジックに納得がいかなかった。

「来月の頭にもう一回来てくれ。契約時期で日割り適用されないのは納得いかない」
そんなケチくさい論法で攻めたのだが議論は並行戦を辿る。向こうがどんな正当性を主張してもこちらは頼むから来月きたら絶対契約すると押し問答を繰り返した。人生で一番無駄なコミュニケーションである。

20回ぐらいそのやりとりを経た後に遂に集金人がブチ切れ、「絶対来月払えよ！」と自ら撤退していった。偏屈な勝利を収めたワケだが、人をブチ切れさすという自分の行動に少し罪悪感を覚えた。法律で規定されている徴収に対して漠然と不安を覚え、怒りに付随する行為の最終的に不幸になる結末を何故か想定してしまった。人間というのは未知なる存在に拒否反応を示してしまう動物なのであると自らの思考を総括した。

しかし一日寝ればそんな不安が吹き飛ぶ楽天的な生き物でもあるのは良かった。若干「来月マジでやってきたら半分詰んでる」と思考が揺らいだが、それ以降集金人が我が家にやってくることはなかった。受信料払った方が無駄な諍いを避けれて効率的だとも思うが、やっぱりいきなり金払えは合理的ではない手法である。こっちは心の奥底で気持ち良く受信料を払いたいのだ。

しかし上記のような突発的な来客にはひとつだけ有効な手段が存在する。
「今お母さんいないので分かりません」
成人男性が上記のような判断能力を欠いた言動を大真面目に主張すると相手は必ずたじろいでくる。母に感謝ラップよりも言葉のウェイトという点で研ぎ澄まされたエクスカリバーロジックである。たまにやってくる勧誘や契約行為に対してはこれで全て容易に無力化する事が可能である。