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ヘビ咬傷 -ヘビに噛まれたときのファーストエイド-

当地域では山間部でのヘビ咬傷が散見されます。毒ヘビでない場合には大きな問題になりません。
ヘビの模様は千差万別で種類を特定することは困難です。毒蛇かはわからないことがほとんどです。
夏は山間部のレジャーであったり、帰省で慣れない土地を訪れたりする季節です。
噛まれたらどうしたらよいか、どのようなときにヘビ咬傷を疑うか、病院では何をするのか。今回はヘビ咬傷の対処法に関してまとめてみました。


日本における毒ヘビ

日本国内の毒ヘビとして主にマムシ、ヤマカガシ、ハブがあげられます。
マムシやヤマカガシは日本の広い地域で、ハブは沖縄県で確認されます。
以下にアオダイショウ(無毒)との比較を示します。
ハブに関してもマムシ同様に噛まれた部位の腫脹が特徴的です。

治療においてはヘビの特定は重要ですが、実際にはほぼ不可能です。
同じ種類であっても見た目が異なる場合があります。
写真があれば専門家に見せることで特定できることもありますが、医療機関であっても判別できるスタッフはいないと予想されます。
無理に撮影したり捕獲したりすることでの二次被害が考えられます。
噛まれた場合には速やかにその場を離れるほうが無難です。

噛まれたときのファーストエイド

不運にも噛まれてしまった場合、まずは落ち着いて行動しましょう。
症状が出てくるまで数時間~半日はかかるとされています。十分な時間の猶予があります。
ただし、アナフィラキシーに関しては異なります。分単位で症状を来す場合があります。顔面の紅潮や呼吸困難、冷や汗、嘔吐/腹痛などアナフィラキシーを疑う症状があれば救急要請を行いましょう
アナフィラキシーに関しては前回のハチの記事に記載しています。参考にしてください。

ヘビ咬傷におけるその場でできること、ファーストエイドを以下に提示していきます。

【指輪やブレスレットを外す】
噛まれる場所の多くは手足です。日本での毒ヘビ咬傷のほとんどはマムシです。噛まれた箇所が腫れてくる可能性があるため、まずは指輪なアクセサリー類を外します。腫脹してからでは外せなくなってしまうからです。
実臨床では、指の壊死を防ぐために指輪を壊すこともあります。大切な指輪を壊すことは我々にとっても非常に心苦しいので、必ず外すようにしましょう。

【腕を縛りすぎない】
以前は腕をきつく縛ることで毒がまわるのを防ぐ、ということが言われていました。現在は腕の神経障害につながるため勧められていません。
締める場合には指1本は入る程度がよいとされています。
また手は心臓の高さの位置に手をあげておくことのも有用です。

【噛まれたところを流水で洗う】
屋外での受傷では創部からの汚染が懸念されます。
受診した際に我々も洗浄しますが、事前に流水で5-10分ほど洗ってもらえると助かります。

病院受診したら何をすべきか

ヘビ咬傷のかたが受診したらまず創部を確認しながら問診をしていきます。
聞くべきポイントしては
・いつ噛まれてしまったか?噛まれてからの時間経過は?
・どこを噛まれたか?
・(見ていれば)ヘビの特徴は?
・アレルギーやアナフィラキシーを過去に起こしたことはあるか?
・今なにか症状はないか?
(例えばヤマカガシでは頭痛を伴う場合があります)

またこれはヘビ咬傷にかかわらすどんな傷であっても、創傷部位は写真に残しておくとよいです。
視覚情報はほかの医師に説明する上で有益であり、決定的な証拠になります。特にマムシでは腫脹の時間経過が臨床的な判断に関わってきます。

毒ヘビかどうかは前述のとおり判断は難しいです。典型的な症状としては創部腫脹、疼痛、持続する出血があげられます。また頻度は少ないですが、マムシでは腹痛や複視、ヤマカガシでは頭痛を訴える場合があります。この場合にはまず毒ヘビ咬傷として対応しましょう。
しかし症状がないからと言って安心はできません。
噛まれてからすぐに受診した場合には症状がでないことが多いです。採血での変化も同様です。怪しい場合にはその場で経過観察もしくは入院での観察が望ましいです。数時間おいての再検査も推奨されます。

実際の治療関して、頻度の多いマムシ咬傷の治療を見ていきます。
毒ヘビ咬傷が怪しい場合には1泊の経過観察入院を基本とします。
症状が軽度で帰宅せざるを得ないときでも翌日に悪化する可能性をお伝えし再受診してもらうのがベターです。
現在は特異的な治療として中等症以上(GradeⅢ)に血清療法が検討されます。以下のフローチャートが参考になります。

一二三亨:総説 血清療法. 日集中医誌. 2018;25(4):235-42. 参照し作成

※血清療法に関しては施設によって方針がかなり異なります。
自施設にそもそも血清があるか確認しておくべきです。

血清療法では副反応、アナフィラキシーが懸念事項です。
対応策として過敏症試験と除感作処置が提示されています。
以下のKMバイオロジクスのフローチャートが参考になります。
https://www.serum-therapy.com/cms/wp-content/uploads/2021/07/mamushi_inj_ip_2107_01.pdf

海外のRCTではアドレナリン0.25mg投与が副反応を減らしたというものがあります。残念ながら日本では適応外使用になってしまうため、同意を得たうえでの投与が必要です。

終わりに

ヘビ咬傷は国内で年間2-3000件発生し、未だに10名ほどの死亡例が報告されています。
慣れていない疾患だからこそ事前に準備しておきたいと考えました。

参考文献
・一二三亨 今すぐ知りたい血清療法の実臨床 謎となぜ55 日本医事新報社
・Steven A. Seifert et al.Snake Envenomation.N Engl J Med. 2022 Jan 6; 386(1): 68–78. PMID: 34986287

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