熱中症への対策
はじめに
日に日に気温が上昇しており夏が近づいていることを感じています。
実際に熱中症を疑う症例も散見されてきました。
熱中症は若年の方でも対策や治療が遅れると重症化する可能性があります。
どのように予防すればよいか、熱中症になってしまった場合にどうすればよいか、どんなときに受診すればよいか、まとめてみました。
熱中症にまつわる疫学
熱中症は「暑熱環境における身体適応の障害によっておこる状態の総称」と定義されます(熱中症ガイドライン2015)。
令和5年における救急搬送数は、95137人に近年増加傾向にあります(総務省.令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況の概要より)。
熱中症死亡数は1528人で増加傾向であり、65歳以上は86.1%を占めます(年齢(5歳階級)別にみた熱中症による死亡数の年次推移(平成7年~令和2年)人口動態統計(確定数)より)。
日本では年々猛暑日、真夏日は増えており暑熱の環境にさらされやすい背景があります。対策を立てて未然に防ぐことが重要です。
推奨されている対策
【暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)】
暑さの指標としてWBGTが知られています。
これは人体と外気との熱収支に着目した指標です。
気温も重要ですが、湿度のほうが大きく影響します。
環境省では熱中症予防情報サイトで国内の各地点でのWBGTを示しています。生活での活動がどこまで許容できるかの指標として活用できます。
以下の表やサイトを目安にその日の活動を決めていきましょう。
(参考:https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_data.php)
【水分補給】
熱中症の予防としてこまめな水分補給が推奨されています。
摂取するものにも注意が必要です。暑い時期はお酒、特にビールがおいしくなりますが、アルコールはむしろ体内の水分を減少させます。水分補給にはなりません。
また清涼飲料水、いわゆるジュースといった糖分を多く含むものだけを飲むことはお勧めできません。糖分が過剰になると尿量が増えたり、血管内の水分量が低下したりします。
水やスポーツドリンクをバランスよく摂取するとよいでしょう。熱中症診療ガイドラインでは塩分の含んだ水分を推奨しています。
熱中症を疑ったら
熱中症は暑い環境で何かしらの症状が出たときに疑います。
これといった特異的な症状ははなく、めまいや嘔気、筋肉痛や頭痛、けいれんなどさまざまです。
応急処置の仕方については以下のフローチャートを参考にします。
本邦の熱中症ガイドラインでは、熱中症の重症度をⅠ~Ⅲ度の三段階に分けています。Ⅰ度は現場での対応可能、Ⅱ度は病院での診察が必要、Ⅲ度は入院加療が必要という区分です。重症度を分けるものとして意識レベルがあります。集中力の低下や判断力の低下、JCS1相当ではⅡ度熱中症を疑います。JCS2以上、場所や日付を間違える場合にはⅢ度熱中症の可能性があります。熱中症を疑った場合には意識を評価し、清明でなければ病院での診察をすべきです。
熱中症の治療
【冷水浸漬】
熱中症は暑熱環境による体温上昇が根本の原因です。何よりもまず冷ますこと、暑い場所から離れることが第一です。
近年効果的とされるのは水の入ったバスに体を入れてあげることです。水風呂につけてあげます。病院外でも推奨されています。設備がなければ腋窩や鼠径部の冷却を行います。
院内では冷却した細胞外液を補液する。臓器障害を伴う場合やそれに準ずる場合には、早期の冷却を目的に血管内冷却カテーテルを行うこともあります。いずれも深部体温が38度になるまで冷却を続けます。
【臓器障害の評価】
体温上昇は多臓器に影響を及ぼします。実際に以下の4つの病態が互いに影響しながら、臓器障害を進行させていきます。意識障害、腎障害、肝障害、凝固障害がないか評価する必要があります(BMJ Med 2022 Oct 11;1(1):e000239.)。
特に凝固障害は急速に進行する場合があり、数時間おきに推移を確認すべきです。腎障害や肝障害は数日後に増悪することがあり、重度であれば緊急の透析や血漿交換といった処置が必要になります。
どういった症例が重症化するかは研究段階です。初期のSOFAスコアが予後に影響するという報告があり、12-13がカットオフ値と報告されています(Sci Rep. 2022 Sep 30;12(1):16373.)。
本当に熱中症なのか
これまで熱中症についてお話してきましたが、ほかの疾患の可能性も考える必要があります。
熱中症はあくまで除外診断であり、高体温や発熱を伴う疾患(感染症や自己免疫疾患、一部の薬物中毒など)を否定する必要があります。
実際に初期段階で除外することは難しく、病歴や検査所見からどの疾患の可能性が高いかを考えながら治療を行います。
終わりに
熱中症に限りませんが、予防や早期発見が肝要です。
何万人という方が熱中症により搬送されています。
無理をせず休むこと、正しく予防することがあなたの身を助けます。
この記事が少しでも役に立てば幸いです。
参考文献
・日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2015」
・日本救急医学会「改定第6版 救急診療指針」