薬物中毒 総論
今年度から毎週研修医の先生用にコラムをつくっています。
今回はその中で扱ったものを一部修正して共有します。
全身状態の安定化
まずは全身状態の安定化が最優先です。
中毒の疑いがある場合には薬剤を調べたくなるものですが、ABCDの評価からまず入ります。
特に嘔吐による窒息や自発呼吸の有無を確認します。問題があれば気管挿管を考慮します。
全身状態が安定化してから次の段階に入ります。
原因薬物の特定
薬物中毒では原因薬物の特定が重要です。
問診のポイントとしてMATTERSという語呂がよく使われます。
Medication Amount どれくらいの量か
Time Taken いつ服用したか
Emeris 嘔吐したか
Reason なぜ服用したか
Signs Symptoms 症状はあるか
目撃した人がいればよいですが、実際にはわからないことも多いです。
薬の殻や残物があればもってきてもらいます。
3つの検査
中毒を疑う場合には「心電図・血ガス・尿検査」を行います。
検査の所見から薬物を推定することができます。
心電図ではQRSの延長、QT間隔の延長がないか確認する
血ガスではアニオンギャップ(AG)開大の有無を確認します。
AG開大する薬剤の語呂としてCHEMISTが知られています。
C:CO、Cyanide(シアン)
H:Hydrogen Sulfide(硫化水素)
E:Ethanol(エタノール)、Ethylene Glycol(エチレングリコール)
M:Methanol(メタノール)
I:Iron(鉄剤)、Isoniazid(イソニアジド)
S:Salicylate(サリチル酸)、Seizure(けいれん)
T:Theophyline(テオフィリン)
尿検査では簡易薬物スクリーニングを行います。陽性となったものは原因薬物の可能性があります。
ただし①常用薬でも反応してしまう ②偽陽性、偽陰性となることがあるため、解釈には注意が必要です。
例えば、風邪薬に含まれるエフェドリンはメタンフェミン(覚醒剤などに含まれる)の項目で偽陽性となってしまいます。
陽性となっても身体所見と合わない場合には偽陽性と考えたほうがよいです。
中毒診療の3つの矢
治療として「吸収の阻害」「排泄の促進」「解毒薬・拮抗薬」の3つがあります。
吸収の阻害は胃洗浄や活性炭が該当します。
胃洗浄は胃内の薬物を吸収前に取り除きます。ただし行ってはいけないもの(灯油類や酸塩基類)があり、適応があるか事前に確認すべきです。
活性炭は薬物を炭が吸着することで血液内に吸収されることを阻害します。ただし一部の薬物では効果がない(吸収が早く意味がない)ものがあります。AFICKLEという語呂が知られています。
A:Alcohol(アルコール)、Alkalis(アルカリ類)
F:Fluorides(フッ化物)
I:Iron(鉄剤)、Iodide(ヨウ素)、Inorganic Acid(無機塩類)
C:Cyanide(シアン)
K:Kalium(カリウム)
L:Lithium(リチウム)
E:Ethylene Glycol(エチレングリコール)
排泄の促進は透析が該当します。
透析を行うことで血中の薬物成分を取り除きます。
ただし薬物により透析が有効なものとそうでないものがあるため確認が必要です。
有効なものとしてCATMEALで知られています。
C:Carbamazepine (カルバマゼピン)
A:Anticonvulsants (抗けいれん薬=フェノバルビタールやフェニトイン)T:Theophylline (テオフィリン)
M:Methanol(メタノール)
E:Ethylene glycol ( エチレングリコール)
A:Aspirin(アスピリン)
L:Lithium (リチウム)
解毒薬や拮抗薬はすべての薬物にあるわけではありませんが、あれば根本的な治療につながります。
施設によってはないこともあります。事前に何があるか確認しておくとよいです。
精神科での介入
薬物中毒では自殺企図による過量内服が原因であることが多いです。
まずは身体的な治療を行いますが、そのあとに精神的な介入も必要です。
日々精神科の先生方と連携をとっておくとよいです。
私がいた施設では入院1-2日目には精神科の先生方が診察してくださり大変ありがたかったです。
どういったタイミングで介入してもらうかは施設内で決めておきましょう。