競馬予想と期待値
競馬をやっていると「期待値」というワードを目にすることが多いですが、競馬における「期待値」とは何でしょうか。明確にイメージできる人は少ないのではないでしょうか。たしかにややこしい概念ですので、自分のためにもここで一旦整理しておきたいと思います。
確率
期待値を語るためにはまず確率の話をしなければなりません。少し抽象的になりますが後で競馬における具体例を出します。
A, B, C, D, E, F という独立事象があり、これ以外は起こらないと仮定すると、Aが起こる回数の(全体に占める)割合を「Aが起こる確率」といいます。少し具体化すると、ある(十分に大きい)試行回数をとったとき各試行に対して B, D, A, A, E, F, C, C, C, B, A, E, F, … みたいな感じで事象が1つ決まるわけですが、じゃあこのとき A はどれくらいの頻度で起こるの?ってことです。2回に1回起こるなら確率は 1/2 (= 0.5 = 50%)、100回に1回起こるなら 1/100 (= 0.01 = 1%) になります。確率の値は必ず0以上1以下になります(試行100回でAが101回起こったり-1回起こったりすることはない)。
ちなみに試行回数に(十分に大きい)と付けているのは、少なすぎると偏りが起きるからです。極端な話、試行回数が1回ならその1回で起こった事象の確率が 100%(=1)でそれ以外は 0 になりますからね。
さて、これを競馬の話に置き換えます。
例えば6頭立てレースの単勝を考えると、上記における独立事象 A, B, C, D, E, F は 1番の馬が勝つ, 2番の馬が勝つ, 3番の馬が勝つ, 4番の馬が勝つ, 5番の馬が勝つ, 6番の馬が勝つ となります。ただし各事象は独立と仮定しているので同着は無いものとします(厳密に考えるなら同着も考慮に入れる必要がありますが、レアケースなので無視しても差し支えないでしょう)。
このとき 1番の馬が勝つ確率 とは、十分に多いレース回数(理想的には無限回)を行ったときに 1番の馬が勝つ割合 ですので、理論上は同条件で無限回レースを行えば求められます。…と言ってもそんなことできるわけないですよね。ここが確率の難しいところで、要するに正しい確率は誰にもわかりません。
確率が予想できれば勝てる?
正しい確率が求められないのはわかりました。ではできるだけ正しそうな確率が予想できれば競馬で勝てるのでしょうか?もちろん勝ちには近づきますが、まだ不十分です。競馬で勝つためには、賭けたレースの 払戻額の期待値 が 購入総額 を上回らなければいけません。ここで「期待値」が登場します。
先程の6頭立てレースをもう一度考えましょう。わかりやすいように、ここでは単勝のみ購入するものとします。下の画像は実際に行われた6頭立てレースです。
このレースにおいて4番の馬の単勝を100円買うとき、オッズ・ベット額・各馬の勝つ確率 を表にまとめたものがこちらです。
各馬の勝つ確率はもちろん不明ですので、仮に P(n:馬番) とおいてあります。このとき払戻額の期待値はいくらになるでしょうか?
購入総額は100円ですので、払戻額の期待値が100円以上なら(正確に言うと、このような買い方を長期的に続ければ)勝てることになります。
期待値とは
じゃあ期待値って何なの?という話になるわけですが、端的に言うと「各事象に対して1つの確率変数が定義できるとき、各事象に対する確率変数と確率の積の総和」が期待値になります。とは言ったものの、かなり抽象的な表現でわかりにくいので再び先程の6頭立てレースを考えます。
先程の表
において、「払戻額の期待値」を求めるために使う確率変数は「オッズ × ベット額」です。「オッズ × ベット額」が「払戻額の期待値」につながるというのは直感的に(というか経験的に)わかってもらえると思います。上の例だと4番の馬が勝てば払戻額は180円になりますよね。
このとき、定義に従って期待値(Eとします)を求めると次のようになります。
E = (10.5 × 0) × P(1)
+ (11.1 × 0) × P(2)
+ (74.4 × 0) × P(3)
+ (1.8 × 100) × P(4)
+ (74.5 × 0) × P(5)
+ (2.3 × 0) × P(6)
上の表と見比べてみれば何をやっているかわかると思います。期待値Eは
確率変数(オッズ×ベット額) × 確率
を全て(1〜6で)足し合わせたもの
になっています。ベット額が 0 の項は 0 になりますので、上の数式を整理すると
E = 180 × P(4)
となります。これが4の単勝を100円買った時の払戻額の期待値です。今回購入総額は100円ですので、Eが100より大きければ
払戻額の期待値 > 購入総額
となり、プラス収支が期待されます。どれだけプラスかは
払戻額の期待値 - 購入総額
で計算できます。
期待値ベースで馬券を買う
購入総額と買う馬券は自分で決められますから、収支を上げる方法は「購入総額を決めたとき、その購入総額に対して払戻額の期待値が最大になるように馬券を買う」ことです。
始めに言ったように、確率は正確に求められないので期待値も求められません。そこは自身の予想でおおよその確率を見積もって、オッズとあわせて期待値を概算し、期待値が購入額を上回りそうな買い方をすればいいのです。このとき大事なのは、「必要なのは確率の正確さより期待値の正確さである」ということです。
予想力と回収率の齟齬
一般的な競馬予想はあくまで確率を求めるプロセス(どの馬が何着になる確率が高いかを予想している)に過ぎず、期待値まで考えないと収支には直結しません。これがいわゆる「的中率と回収率は別物である」要因です。たとえどんなに頑張って予想して勝つ確率が最も高い(と思われる)馬の単勝を買い続けても、回収率が上がるとは限りません。そもそも、様々な条件(それも非公開情報や不確定要素を多く含む)が複雑に絡み合った結果であるレース着順を、正確に確率予測することが非常に困難です。単勝ならまだしも、連系や3連系になれば精度はかなり落ちるはずです。
筆者の印
筆者はTwitter等で印を出したりしていますが、これらは正確には予想の印ではありません。期待値を考えたときに馬券に入れたい馬を入れたい順に書いているだけです(私情が入っていることも多々ありますが、、笑)。期待値ベースで考えると、券種とそのオッズによって買いたい組み合わせが変わるので、◎○のワイドは買わずに○▲のワイドは買う、みたいなこともあります。これは「能力や着順が ◎ > ○ > ▲ > △ > 無 だと予想している」のとは根本的に異なるからです。
余談:競馬AIについて
昨今、競馬AIが流行っています。競馬AIのアプローチは単純明快で「確率をより正確に求める」です。機械学習を駆使して上手くモデリングすれば人間よりは正確に確率が求められるでしょう。
しかしそれでも対象とする系の複雑さがAIの得意分野(完全情報ゲームや画像認識など)を凌駕しているため、確率予測の正確さに限界があると筆者は考えています。また、競馬AIは基本的に確率を計算するものであって、期待値すなわちオッズは(筆者の知る限り)考慮できていません。
オッズを考慮するのがなぜ難しいかというと、多数の馬券購入者の存在によってレース直前まで不規則に変動するからです。
確率を求めるだけでも難しいのに、オッズまで考慮して最適な馬券を提示するのは現代のAI技術をもってしても不可能だと思います。
さらにややこしいのは、馬券購入者がAIに影響され始めるとオッズがAI寄り状態になるので、AIが持たない(あるいは不得意な)ファクターで予想すれば期待値を上げる買い方ができるはずです。
結局、未来を完璧に予測できる恐ろしいAIが登場しない限り競馬AIにも隙は存在し続け、人間がそこを突いて儲けることも可能というわけです。
まとめ
要するに回収率に直結するのは期待値で、その期待値は確率だけでなくオッズにも左右されるのでオッズも考慮して馬券買いましょうってことです。
長くなりましたが競馬と期待値に関する考察でした。あざした~
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