輝き続けるための「感情労働」との向き合い方
エンタテインメントに関わる仕事には「人々の心を動かし、人生を豊かにする」という、かけがえのない喜びがあります。
その一方で、常に人前に立ち、感情をコントロールすることが求められる「感情労働」に分類される仕事でもあります。
今回の記事ではエンタテインメント業界で輝き続けるための「感情労働」との向き合い方についてご紹介します。
感情労働とは?
エンタテインメント業界では、笑顔で明るく振る舞うことが当たり前となっています。自身の感情を抑え込むことで、心身ともに大きな負担を抱えてしまうことも少なくありません。
このような側面を持つ仕事は「感情労働」と言われています。
✏️ 「感情労働」とは?
感情労働とは、自分の感情をコントロールすることが要求される労働のこと。 アメリカの社会学者であるHochschild(ホックシールド)によって定義されました
例えば、コンビニや飲食店などの接客業をしている方がお客様から理不尽なクレームを受けた時も、一人の人間としては「私のせいじゃない」「なんでこんな風に言われなくてはいけないんだ」という怒りや悲しみの気持ちがあったとしても、店員として「申し訳ございません」冷静かつ丁寧に対応しなければなりません。
この時、店員として自分の気持ちをコントロールする必要があります。これが感情労働です。
他にも以下のようなものが感情労働に含まれます。
感情労働はさらに2種類に分けることができます。
✏️ 2種類の感情労働
表層演技:自分の感情は変化させずに、表現だけを変える方法
深層演技:自分の感情そのものを変化させる方法
感情労働は「肉体労働」「頭脳労働」に続く第三の労働形態と言われています。また感情労働は、産業構造の変化に伴い、近年増加傾向にあると言われています。
エンタテインメント業界での感情労働
エンタテインメント業界では具体的にどのような場面で感情労働が行われているのでしょうか?
実は幅広い職種で日常的に感情労働は行われています。
【アイドルの例】
表層演技:体調不良で辛くても、ステージでは笑顔をつくって歌い踊る。
深層演技:ファンへの感謝の気持ちを思い浮かべ、自然と笑顔が溢れるようにする。
【俳優の例】
表層演技:プライベートでは悲しいことがあったが、稽古場では明るく振る舞う。
深層演技:実際に悲しい出来事を思い出し、その感情を演技に取り入れる。
【芸能マネージャーの例】
表層演技:本当はイライラしていても、タレントに対して優しく励ます。
深層演技:「この子を成功させるのが自分の使命」と思い、本当に尽くす。
感情労働頑張りすぎていない?チェックリスト
感情労働は、表面的な感情と内面の感情のギャップを生み、大きなストレスとなるリスクがあります。
放置するとバーンアウトをはじめ、不眠症やモチベーション低下などの問題に繋がります。
そこであなたの状況を知るために簡単なチェックリストをTAP公式LINE内のコラムにてご紹介しています。ぜひ取り組んでみてくださいね。
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「自分が感情労働をどれくらいしているのか?」「表層演技、深層演技どちらを多くしているのか?」を知り、自分の状態を把握することもケアへの第一歩です。
感情労働への対処法
感情労働そのものが決して悪いわけではありません。感情労働は人生に豊かな喜びをもたらすことも多くあります。
しかし、表面的な感情と内面の感情のギャップが大きくなると心は疲れてしまい、思いがけない不調をもたらすことになります。
「最近気持ち的に無理してるな」「気持ちがチグハグな感じがするな」と感じてしまうような時、どのように対処すればいいのでしょうか?
① 外部のワークショップやレッスンに参加してみる
外部のワークショップやレッスンに参加し、新たな視点を得ることも感情労働の負担の軽減に役立ちます。
表面的な感情と内面の感情のギャップは、日々の活動に行き詰まりを感じている時や「なんだかしんどいな」と思っている時に感じやすいとされています。
外部のワークショップやレッスンに参加し、今の活動を客観的に捉え直すことや、自分の今の課題や目標を明確にすることで、表面的な感情と内面の感情のギャップを減らすことができます。
② 仕事を始めた時の気持ちや初心を振り返る
日々忙しい中で仕事と向き合っていると、仕事を始めた時の気持ちや初心を思い出す機会はなかなかありません。
あなたがこの仕事を選んだのは、大切な理由があったはずです。 「なぜこの仕事を選んだのか」「どんな想いで仕事に取り組んでいるのか」を改めて振り返ってみましょう。
落ち着いた気持ちで向き合うことで感情労働ですり減っていた心を癒すことができると言われています。
③ 気分転換や趣味に取り組む
感情労働であるエンタテインメント業界での仕事は、常に気を遣い、自分の感情をコントロールする必要があります。
普段は意識していなかったとしても実は心に大きな負担がかかっている可能性があります。
気分転換や趣味に没頭することで、仕事に過集中することを避け、心身をリラックスさせることができます
④ 周囲の人に気持ちを話す
「職業柄こんなことを言ってはいけない」と思うこともあるかもしれませんが、信頼できる人に、自分の悩みや不安を打ち明けることで、気持ちは楽になります。
「しんどい時はしんどいと言ってみる」「解決するのが難しい問題だとわかっていても誰かに気持ちを吐き出してみる」ことで感情労働による負担を下げることができます。
「同じ業界の人には話しにくくて…」「話を聞いてもらいたいのだけれど、エンタテイメントの世界ならではの事情を知らない友人には言いにくくて…」という方はTAPサポーターへの相談も是非検討してみてくださいね。 10年以上の俳優・ダンサー経験のある心理師やトップアスリートをサポートしてきた守秘義務のある心理師・トレーナーがあなたを全力でサポートします。
最後に
感情労働はエンタテインメント業界の仕事において避けられないものです。 しかし、適切な対処法を身につけることで、心と体の健康を守りながら、輝き続けることは可能です。あなたが心身ともに健やかに長く活躍することを願っています。
この記事を書いた人
引用・参考
Sekiya Daiki&Yukawa Shintaro, 「Development of the Emotional Labour Scales Japanese version (ELS-J)」, JAPANESE JOURNAL OF RESEARCH ON EMOTIONS 21, no. 3 (2014年): 169–80, https://doi.org/10.4092/jsre.21.169.
土井裕貴, 「対人援助職におけるバーンアウト・感情労働の関係性 : 精神的な疲労に着目する意義について」 (大阪大学大学院人間科学研究科教育学系, 2014年3月), https://doi.org/10.18910/26905.
心理学用語の学習:https://psychologist.x0.com/terms/134