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COMPLETE | 第4話:再会

#創作大賞2023 #小説 #連載小説 #ヴァンパイア #ファンタジー

↑ 第1話はこちら(第1話の先頭に全話の目次があります)

「ハァ、ハァ……」

 待ち合わせの時間に遅れそうになって、駅から少し駆け足で目的地に向かう。こういう日に限ってヒールだし、もうちょっと余裕を持って時間設定してもらいたいもんだわ。こっちは仕事してるんですからね! 堂坂博士から指定された場所は、職場の最寄り駅から電車で二駅先の駅前ビル。そのビルの三階にある個室居酒屋だ。おしゃれなレストランなどではないところが彼らしいわね。まあ、私も堅苦しいのは苦手だからこっちの方が助かるけど。

 店の受付で彼の名前を告げると、店員が部屋に案内してくれる。まだ夕方六時前だと言うのに結構人が入っている様で、別の部屋からは時折笑い声が漏れ聞こえてくる。

「こちらです」
「ありがとう」
「ご注文の際は中の端末でお呼びください」

 案内してくれた店員は、丁寧に挨拶して小走りで戻っていった。部屋の中に入ると、手前に背中を向けて座っている男性。後ろから見てもそれが堂坂博士であることはすぐに分かった。

「待たせたかしら?」
「いやいや、僕も今来たところさ。すまないね、急に呼び出して」
「まったく、音信不通だと思ったら突然呼び出しなんて」
「ハハハ、それもゴメンよ。まあ、座ってよ」

 彼の対面に座ると、彼はササッと端末を操作して注文。私がビール好きなのは知っているハズだから、きっと冷えたビールを注文してくれたわね。程なくそれは部屋に運ばれてきて、まずは乾杯と言うことになった。

「それじゃあ、再会を祝して。あと、お仕事お疲れ様」
「有り難う。今日は色々聞かせてもらうからね、虎ノ介!」
「もちろん、そのつもりだよ」

 軽くグラスを合わせて一杯目の冷えたビールを胃に流し込む。クゥ~~たまらん! ……あ、オッサンっぽくなってるわね。

「それで? 一年以上も音信不通だった理由は教えてくれるのかしら?」
「スマホを壊してしまってね。その後すぐに海外に行っていたので連絡が取れなかったんだよ。先日帰国して、ようやく壊れたスマホを直せたってわけさ」

 そんなに都合のいい話……とも思ったけど、まあここは信じるしかない。他にも彼には聞きたいことが沢山あるのだから、スマホ云々を追求している場合ではないのよ。

「まあ、そう言うことにしておいてあげるわ。それよりも、あなたなら渋沢博士の……一斗の消息を知ってるんじゃないの?」
「いや、それは僕が聞きたいことでもある。海外に行っている間もアイツが消息を絶ったことは何度も耳にしたよ。場所によっては大騒ぎだったしね。知ってるだろう? アイツが遺伝子工学分野ではぶっちぎりの天才だってこと」
「もちろん……でも残念だわ。あなたなら何か情報を持っていると思っていたんだけど」
「その口ぶりでは警察も情報は掴んでないってことだね。まったく、アイツ、どこに行ったんだ……」

 どうやら、彼も聞きたいことは私と同じだった様子。少し重苦しい雰囲気になってしまったけれど、ビールを追加注文して仕切り直し。彼が注文してくれた料理の皿も運ばれてきて、お互いの近況などを伝え合う。

「虎ノ介はまだ独身なの? もう三十を超えてるし、そろそろ身を固めてもいいんじゃない?」
「いやー、ハハハ。どうも研究が忙しくてね。女性と付き合ってる暇がないんだよ。リリアナだって二十七なら適齢期じゃないか」
「ルーマニアじゃ遅いぐらいだわ。私も今は仕事が楽しいからなあ。大体職場じゃ『ヴァンパイア・プリンセス』なんて呼ばれて敬遠されてるみたいだし、男が寄り付かないのよ」
「ハハハ、君と一緒にお酒を飲んだら男性陣のイメージも変わるんじゃないか?」
「酒豪なことがバレたら、余計に敬遠されるわよ」
「日本人男性は金髪に弱いからなあ。高嶺の花だと思われてるんだよ」

 ヴァンパイアの血が混じっているからなのか、私はめっぽうアルコールに強い。父は普通だけど母は強いから、やっぱりヴァンパイアの血なのかしら。学生時代、私がヴァンパイアの混血だと知っている知り合いからは『血ではなく酒を飲んで力を得ている』とよく言われたわね。

 それからは昔話や他愛ない話題で盛り上がって、三時間ほど楽しい時を過ごす。久々にお酒も沢山頂いたわ。

「おっと、もうこんな時間か。そろそろお開きにしようか」
「そうね。今日は有り難う、楽しかったわ。虎ノ介はしばらく日本にいるの?」
「ああ。警察からも新しい弾丸の開発依頼が早速きていたしね。ますます結婚は遠のきそうだよ」
「フフフ、じゃあ私と競争する? どっちが先に結婚するか。まあ、私も相手を探さないとだから、賭けはフィフティー・フィフティーだけど」
「いいぜ。じゃあ、負けた方が飲み代を奢りだ」
「オーケー」

 そんな約束をして、勘定は『自分が誘ったから』と虎ノ介に出してもらって店を後にする。悪いわね、私の方が沢山飲んだのに。結婚云々は置いておいて、このお礼はまた改めてさせてもらうわ。

 自分の部屋に戻ってベッドに倒れ込む。ちょっと飲みすぎたかなー。寝てしまう前に化粧を落としてシャワーも浴びなきゃ……ノロノロと起き上がって水を飲み、服を脱いでいるとカランッ! と何かが床に落ちる音。それはさっき虎ノ介にもらった対ヴァンパイア弾の『空砲』だ。そっくりに作られているが中身は火薬のみで、派手に音がするだけの代物らしい。

「こんなもの何に使うの?」
「対ヴァンパイア弾は再利用できる様に作られてるのは知ってるだろう? 特殊な構造をしてるから値段も高いんだよ。だからこいつは重量も撃ったときの衝撃も同じだけど、銃口からは何も出ない練習用さ。誰かさんが練習でもバンバン撃ちまくるから、予算が足りなくなったんじゃないか?」
「私は練習の時は.357マグナム弾使ってるわよ! それに私はab弾もちゃんと回収してるんですからね。ウチの隊には使い捨て感覚の人も多いけど」

 そんな会話をした様な記憶が……いや、弾丸がポケットに入っていたんだから、きっとした! まあ、私は空砲を使うことはないとは思うけど、折角だから弾丸用のポーチに入れておこうか。