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COMPLETE | 第1話:ターゲット

 V-SAT(対ヴァンパイア特殊強襲部隊)の隊員であるリリアナは今、ターゲットである女子高生を目の前に頭をフル回転させていた。弾丸は残り一発。しかもターゲットの動きは人を凌駕しており、特殊能力まで使ってくる始末。何か手段は? 何故こんなことに? 様々な思考がリリアナの頭の中を巡る。

 『仕留めてみろ』と言わんばかりに挑発的な態度を取るターゲット。怪我をしながらも、冷静を装いつつ最後の弾丸をリロードするリリアナ。そして重苦しい張り詰めた様な空気を跳ね除けるかの様に、リリアナはトリガーを引いた。

「ズダァーンッ!!」

 教室内に銃声が轟く。果たして弾丸は、ターゲットを捉えたのだろうか?

あらすじ

#創作大賞2023 #イラストストーリー部門 #小説 #連載小説 #ヴァンパイア #ファンタジー

第1話 ターゲット(目次の下に本文あり)
第2話 リリアナ
第3話 任務
第4話 再会
第5話 美月
第6話 視線
第7話 対峙
第8話 完成体
第9話 事後処理
第10話 決意👈🆕
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目次(公開されている話はリンクが有効になります)

 逃げるターゲットを追って旧校舎の廊下を走る。時折廊下に置いてある掃除用具やら消火器やらが飛んでくるが、そんなものが私に当たると思っているの? いや、彼女もそれが効果的だとは思っていないだろう。ヴァンパイアならもっと有効な攻撃ができるだろうに、彼女はそれをやってこない。ふざけている!?

 ふざけていると言えば、制服姿の彼女が背負っているバッグ。どう見ても教科書や勉強道具を入れるには小さすぎる、コウモリのような羽根をかたどったヒラヒラが付いていて、それを追いかけている自分が少し馬鹿らしくなってきた。まったく、こんなターゲットは初めてだわ。

 やがてある教室の中に逃げ込んだターゲット。警戒しつつドアの陰から中を伺うと、彼女の周りにフワフワと机や椅子が浮いている。

「!!」

 ヤバい! 咄嗟に駆け出すと、それらが窓ガラスを突き破って廊下に飛んでくる。ガシャンッ! ガシャンッ! と派手な音が背後でしている中、開いていた反対側の入り口から教室の中に転がり込んだ。身を起こすと同時に彼女に向けて弾丸を打ち込む。弾丸と言っても対ヴァンパイア用の特殊弾。大きい教室のため射程はギリギリだが、並のターゲットなら仕留められる距離だ。

「ズダァーン! ズダァーン! ズダァーン!」

 部屋の中で銃声が反響して、辺りに硝煙が漂う……まただ、また避けられた!? ターゲットを追っている間何発も弾丸を撃ち込んだけれど、どれ一つ当たらなかった。逃げる彼女の背後から撃っているのに、まるで見えているかの様に避けられてしまう。今もそう。まるで予測していたかの様に弾丸を避けて私から距離を取り、いたずらっぽく微笑んでいた。あー、もう、ムカつく小娘ね!

 少しイライラしながら腰のポーチに手を伸ばして中を探る……チッ、弾切れか。そんなに難しいケースではないと高を括っていたから、スピードローダーも三つしか持ってこなかったんだわ。元々シリンダーに入っていた五発と合わせて、もう二十発も外してしまっていることが許せない! 更にイライラしながらゴソゴソしていると、手に弾丸が当たった。ああ、前回の残り分ともう一発は……

 油断していたのか、気が付くと目の前の教卓を挟むように彼女が!? いや、私は油断などしていない。想像よりも遥かに速く彼女が移動したんだ。

「なっ……!?」
「ほらほら、センセ、ボヤボヤしてたら私が勝っちゃうよー」
「黙りなさい、ヴァンパイア風情が! そうやってふざけた態度を取っていられるのも今の内よ!」

 とは言ったものの、劣勢なのは明らかに私の方。

「あれれー、もう弾切れじゃん? ほらほら、ちゃんと狙わないと。足も怪我してるみたいだし」
「この程度、怪我には入らないわよ」

 さっき転がったときに擦りむいたのだろうか。怪我は大したことはないが、ストッキングが破れて白衣にも血と汚れが付いてしまっていた。左のヒールも脱げてしまったし、ああ、もう最悪!

 ターゲットは余裕のつもりか、教卓に頬杖を付いてぴょん、ぴょんと跳ねるような仕草。その赤い瞳は上目遣いで私を見つめて、相変わらずいたずらっ子のような微笑み。私は冷静を装いつつ排莢して、残った弾丸をリロードする。そして頭の中ではこの小娘を確実に倒せる方法を必死になって考えていた。

「ここ! ここだよ、センセ!」
「フンッ!」

 挑発的に自分の額を指さして見せるターゲット。この距離で避けきれるとでも? いや、この小娘ならやりかねない。多分避ける自信があるのだろう。先程の机や椅子を浮かせた能力を使ってこないのは何故かしら? いや、それよりも……どうしてこうなった!? 次の手を考える一方で、今こんな状況になっている理由を探していた。