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COMPLETE | 第9話:事後処理

#創作大賞2023 #小説 #連載小説 #ヴァンパイア #ファンタジー

↑ 第1話はこちら(第1話の先頭に全話の目次があります)

 頭の中でなんとか整理しようと頑張っているところに、私の服を持って美月が戻ってきた。

「乾いてたよ、センセ」
「有り難う。私は本当の先生じゃないから、リリアナでいいわよ」
「えーっ、襲われたのはともかく、センセの授業は分かりやすくて好きだったんだけどなあ。もう学校辞めちゃうの?」
「そう言うことになるわね」

 虎ノ介には後ろを向いてもらって服を着る。ちょっとシワが気になるけど贅沢は言えないわね。

「これからどうするつもり?」
「できればリリアナには美月を守るのを協力して欲しい。それが一斗の希望でもあるんだ」
「それで私にアクセスしてきたの?」
「ああ。君が日本にいてくれて助かったよ。ルーマニアに行くつもりだったからね」

 そういうことね。これは……V-SAT案件と言うより『光の探求者』の方にお伺いを立てないと……いや、そうなると警察の方にも当然報告は必要だし、うーん。

「……」
「ねぇねぇ、話はまとまったの? 私、お腹空いたなー」

 悩みつつ頭を掻いていると、彼女が少し不満げな顔で空腹を訴えた。時計は夜の七時過ぎを指していてちょうど夕飯時。

「今後のことも話したいし、一緒に夕飯はどうだい? 部屋はあるから泊まってくれてもいいし」
「そう? 私もその話はしたいから、お言葉に甘えようかしら」
「やったー! じゃあ、夕飯だね! どれにする?」

 そう言って彼女が部屋の端の棚から持ってきたのは何かのメニューの束。

「昨日は中華だったから、今日は洋食かなー」
「ちょっと待って、それは?」
「メニューだけど、宅配の」

 それは見れば分かるから。聞けば朝食はパンとコーヒーや牛乳。彼女の昼食は学校の売店でパンを買うか、抜きの日もあるらしい。夕食は宅配。

「……」

 信じられない! 虎ノ介を睨むと済まなさそうに頭を掻く。

「ほら、僕、料理は全然できないから」
「にしたって、毎日宅配はダメでしょう!」
「私は好きだから問題ないよ。半分ヴァンパイアだから体の方も問題ないし」
「あなたが大丈夫でも虎ノ介は問題あるでしょうが!」
「あ、僕もサプリ飲んでるから大丈夫だと思うよ」

 そういう問題じゃない! まったく、研究以外は全然ダメね。一斗もそうだったけど、彼と虎ノ介が良く気が合っていたのも納得だわ。

 結局夕飯は私が作ることにして、近くのスーパーへ美月と一緒に出かける。冷蔵庫にはマーガリンとジャムと、あとは水やらビールやらの液体ものしか入ってなかった……あんな冷蔵庫の中身、ドラマの中だけだと思ってたけど実在するとは。

「センセ……じゃなかったリリアナは職場に連絡しなくて大丈夫なの?」
「家を出る前に連絡したから大丈夫よ。キャップがカンカンだったけど。まあ、派手に旧校舎壊しちゃったからね、主にあなたが」
「だっていきなり襲ってくるんだもん!」
「はいはい、それについては悪かったわ。罪滅ぼしのためにもご馳走するから許して」
「美味しかったら許してあげる!」

 色々買い込んで、結構な量の食材を二人で分けて持って帰る。ルーマニア料理にしようかとも思ったけれど、やっぱり日本食の方がいいわよね。

 私の父は料理好きで、ルーマニアでも日本食を作って大使館の同僚たちに振る舞ったりしていた。母は母で家庭料理を作っていたから、パーティーのときは和食とルーマニア料理が色々と混じっていたわね。それでも皆は美味しい、美味しいと食べていたし、私も二人の料理が大好きだった。その影響で自分でも料理するようになり、日本に来てからはしばらく和食にハマった。だってルーマニアではなかなか手に入らない食材が普通に買えるんだもん。

 和食かどうか怪しいけど二人が好きそうなハンバーグ、それに卵焼きにお味噌汁。あとは和物の小鉢と漬物。時間があれば天ぷらなんかも良かったんだけど、それはまあまたの機会にね。一時間足らずで準備してテーブルに並べると、二人は食い入る様に料理に見入っていた。フフ、子供が二人いるみたいね。

「ねぇねぇ! 食べていい!?」
「どうぞ、召し上がれ」
「頂きまーす!!」

 ハンバーグを口イッパイ張って目をキラキラさせる美月。こうしていると普通の女の子ね。

「おいひ~!!」
「罪滅ぼしになったかしら?」
「うんうん!」

 オーバーに頷いて見せて、他の料理もパクパク食べ進める。虎ノ介は……美月と同じ目をしながら無言でがっついてた。あなたたち、実は本当の兄妹なんじゃないの!?

 食後、美月は観たいテレビがあるからと部屋に戻り、大人二人は今後の方針について話し合うことに。もちろん、アルコールは欠かせないわね。まずは美月の存在だけど、一斗のことを考えれば警察内に敵がいる可能性が高い。実際、美月のことがV-SATに回ってきたことも不自然と言えば不自然だ。

「そうすると、キャップや部長にも本当のことは伏せておく方が良さそうね」
「しかし、高校には渋沢を保護者として申請しているしなあ」
「……美月は一斗が研究のために連れてきた孤児ってことにするわ。混血だけど、闇側に属する人間ではなかったことにする。一斗が失踪した後にあなたが保護して一緒に住んでたことにして」
「なるほど。多少強引だが、完成体と知らせるよりはマシか」

 あとは旧校舎のあの状況だけど、闇側の者が美月を狙っていて襲われたと言うことにする。旧校舎内で仕留めたけど、念のため彼女を保護して家に送って警戒していた、こんなところかしら。あとは……

「私の任期は三年だから、あと二年は残ってる。とりあえず美月が高校を卒業するまでは日本にいるわ。あと、私もここに住むから」
「えっ!?」
「あなたさっき言ったじゃない、『美月を守って欲しい』って。彼女の護衛目的なら教師も続けられるかも知れないし、もし無理でもここを拠点にしていれば安心でしょう?」
「それはそうだけど、いいのかい? 僕と一緒に住むことになるけど」
「変なことをしたら出ていってもらいますからね!」
「僕が家主なんだけどなあ」

 虎ノ介は知らない仲ではないし、美月の面倒を見る人間がいた方が研究も捗るでしょう。それに……あなたに任せておいたら、美月の食育は絶望的だから!