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COMPLETE | 第10話(完):決意

#創作大賞2023 #小説 #連載小説 #ヴァンパイア #ファンタジー

↑ 第1話はこちら(第1話の先頭に全話の目次があります)

 シャワーを浴びてから用意してもらった客間へ。虎ノ介のジャージを借りてそれをパジャマ代わりにしてベッドに入ろうとすると、部屋の扉が少し開いた。隙間から枕を抱えた美月が覗いている。

「……」
「どうしたの?」
「一緒に寝ていい?」
「いいわよ、いらっしゃい」

 そう言うとニッコリ笑ってベッドに駆け寄った美月。ベッドに入るとモゾモゾしていて、どこか照れている様子が伝わってきた。

「私ね、ママがいないんだ。作られた存在だから、パパもいないようなもんだけど」

 自分がどういう存在かは知っていると虎ノ介は言っていたわね。賢い子だから色々と理解はしているのだろうけど、やっぱりまだ子供。こうやってここに来たのも、誰かが恋しいからなのかも。

「寂しい?」
「トラがいたから寂しくはなかったよ。でも、誰かに甘えてみたかったかなあ。トラはお兄さん、って感じだから」
「じゃあ……」

 結婚してないから当然子供もいないけれど、すごく美月のことが愛おしく感じられて抱きしめる。母性が刺激されるってこういうことなのかしら?

「わぷっ……」
「あなたのママにはなれないでしょうけど、いくらでも甘えてもいいわよ」
「へへへ」

 彼女も嬉しそうに私に抱きつくと、胸に顔を埋めてグリグリしている。

「リリアナ、胸大きい。私ももっと巨乳が良かったなあ」
「まだ成長期……かどか分からないけど、しっかり栄養を取れば大きくなるかもよ」
「ホント!? じゃあ、明日からしっかり食べる!」
「そうね。睡眠も大切だから、もう寝ましょうか?」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」

 彼女の頭を撫でてあげると、すぐにカワイイ寝息を立てて子猫の様に寝てしまった美月。私もやがて瞼が重くなって、ゆったりと眠りの淵へと沈んでいった。お互いのヴァンパイアの部分が反応しているのか、それはとても心地よい、満たされた眠りだった。

 翌朝は少し早起きして美月のお弁当を作る。私と虎ノ介はV-SATへ報告に行く予定だから、今日は食堂ね。

「お弁当!?」
「しっかり食べるって言ってたでしょう?」
「やったー! リリアナの分は?」
「私と虎ノ介はV-SATに言って報告よ」
「そっか……もう先生じゃなくなっちゃうんだね」
「それも含めて調整はしてみるつもり。学校側には休むって言ってあるから」
「はーい」

 朝食を食べると、バラバタと準備して美月は学校へ。お弁当を持って妙にはしゃいでいたけど、転ばない様にね! って私ったら母親みたいなことを……ダメダメ、まだ結婚もしてないんだからね!
 
 美月を見送った後、私と虎ノ介も準備してV-SATの本部があるビルへ。キャップも一緒に部長室に入り、鋭い目付きの部長に事の次第を説明する。予め虎ノ介とは口裏を合わせてはあったものの、部長とキャップを納得させられるか自信なかったけど……私が詰まりそうになると虎ノ介が巧くフォローしてくれて、しかも意外にも役者! 彼は対ヴァンパイア弾などの制作で警察にも協力しているから、部長たちも彼の話を信じてくれた様子。そして美月の通う高校で教師を続ける話もあっさり了承された。

「ふぅ……なんとか難関はクリアね」
「そうだな。いやー、あの部屋の緊張感は素人の僕には厳しかったなあ」
「よく言うわよ、あれだけ堂々と話しておきながら。でも助かったわ」
「それは僕も同じだよ。これからもよろしく」
「ええ」

 廊下を歩きながらそんな話をして、途中で別れて私はV-SATの部屋へ。虎ノ介は新しい弾丸について打ち合わせに行くとのことだった。私が知らなかっただけで彼は最近頻繁にこの建物を訪れていた様で、それでヴァンパイア・プリンセスの噂も耳にしたらしい。

 部署に戻ると仲間にすごく心配されていて、皆、良かった、良かったと声を掛けてくれた。ただ私のデスクの上は全然良くない状況で、書類の山が。まあ、そうなるわよねぇ。一日で処理できるかしら……チラッと周りのメンバーを見るとササッと目を逸らされる。皆、書類仕事嫌いだからなあ。仕方ない、頑張りますか!

 食堂で一緒に昼食を取った後先に帰った虎ノ介と、午後からも書類仕事に追われた私……その間に引っ越しの手続き、ルーマニアの母への連絡などなど本当に疲れたわ。因みに私の母は『光の探求者』の幹部でもあるので、組織において私が最も信頼する人物。彼女にだけは美月や一斗、虎ノ介のことを報告しておいた。美月には是非会いたいと言っていたから、またいずれルーマニアに帰省しないとね。

 仕事帰りにスーパーに寄って食材を買い、美月たちの待つ家へ。簡単だけど作った夕食に二人とも感動してくれて、美月は今日学校であったことを楽しそうに教えてくれる。

「旧校舎の件は警察がきて大騒ぎだったんだって! 朝、校長先生から話があったよ、『何者かが旧校舎に忍び込んで荒らした』って」
「手は回してもらったから、そう言うことになってるのね。あと、教師は続けられることになったわよ。V-SATと掛け持ちだから、時々は抜けることになると思うけど」
「ホント!? トラぁ、何も言ってなかったのに!」
「ハハハ、リリアナから直接聞いた方がサプライズになるだろう? これで僕もお役御免かな」
「なに言ってるのよ、これからは保護者として今まで以上にちゃんとしてもらわないと困るんですからね! ああ、学校側には保護者としてあなたの名前を伝えておいたから。これで美月も両親はオーストラリアに~とか嘘を吐かなくてもいいでしょう」
「まったく、やっとこのじゃじゃ馬を君に押し付けられると思ったんだけどなあ」

 そう言いながら美月の頭を撫でる虎ノ介の表情は父親そのもので、美月も彼のことを信頼していることが良く分かる。私もそう思われるぐらいには頑張らないとね。もちろん、飽くまで護衛だから! 母親代わりではないから! ……そう思いつつも美味しそうにご飯を食べる美月に対して母性が、愛おしさが溢れ出すのを感じてたい。ホント、この感情は厄介ね!

「ん? どうしたのリリアナ?」
「なんでもないわ。そんなに慌てないでゆっくり良く噛んで食べなさい」
「だって美味しいんだもーん」

 完成体の美月。今回は私が刺客の様になってしまったけれど、今後は本当に『闇の支配者』が絡んでくるかも知れない。その存在価値は私が属する『光の探求者』やV-SATでも未知数だけど、私と虎ノ介で必ず守るからね。この子は人とヴァンパイアの関係を本当に変えてしまうかも知れない、そんな気がするの。