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COMPLETE | 第5話:美月

#創作大賞2023 #小説 #連載小説 #ヴァンパイア #ファンタジー

↑ 第1話はこちら(第1話の先頭に全話の目次があります)

 私は渋沢美月、十六歳……と言うことになっているけど、実は年齢不詳なんだよね。でも外見は高校生だから、今は高校に通ってる。一応帰国子女ってことになっていて、高校に入るまではアメリカにいた。これは本当。物心付いたときから『パパの知り合い』と言うおじさん? お兄さん? に育てられていたので、両親のことは知らない。自分自身のことも含めて大体の情報はインプットしてあるけど、そこはまあ色々大人の事情もありそうだから『両親は海外赴任中』と言うことで。

 私の外見は少しだけ変わっていて、まずは髪。黒髪に近いブラウンなんだけど、所々に赤毛が固まって生えているのでメッシュが入っている様に見える。あとは瞳。ママが外国人なのかかなり赤に近い茶色なので、光の加減によっては赤く見える。赤のメッシュ(地毛)とお揃いの色だから、自分的にはかなり気に入ってるんだけどなあ。日本に帰国して高校に入学するときは、この二点について問題にならない学校を探してもらった。お陰で比較的自由な雰囲気の高校で、毎日楽しく過ごしている。まあ、授業内容は簡単過ぎてつまらないんだけど、友達と他愛のない話をしたり遊んだりしてるのがめっちゃ楽しいの!

 今日も最寄り駅でクラスメイトと合流して登校。最近ちょっと気になっていることがあって、それは盗撮魔がいること。スゴイ離れたところから望遠付きのカメラで狙ってるみたいだけど……私には見えるんだからね!

「イェーイ!」
「おっ、どうした美月!? 急にピースなんて!」
「別に。誰か写真撮ってくれないかなーって思って」
「なんだよ、それー。じゃあ、私も! イェーイ!」

 女友達がふざけてピースすると、私も私もと、周りの友達も同じ様にしだし、スマホでちょっとした撮影会の様になる。こういうのが楽しんだよね。はしゃぎながら登校して、授業が始まるまでは教室でお喋り。昨日のテレビ番組に出てたアイドルが格好良かったとか、雑誌に載ってた読モが可愛かったとか。やがて廊下を靴音が近づいてきて、入り口の扉がスライドした。

「はーい、ホームルーム始めまーす」

 担任の教師がそう言いながら入ってくると、その後ろには息を呑むほどキレイな女性が。一瞬にして教室中の視線が彼女に集まり、皆静かになる。金髪の長髪で青い瞳。どう見ても外人さんだ!

「生物の篠山先生が産休に入られましたので、臨時講師として新しい先生に来て頂くことになりました。先生、どうぞ」
「有り難うございます。柏木・クリステスク・リリアナです。日本人の父とルーマニア人の母のハーフですので、日本語も大丈夫です。よろしくお願いします」
「おぉ~~」

 もうみんな感嘆の声しか出なくて、挨拶の後に彼女がニッコリ笑うと特に男子はざわざわしていた。私だってちょっとドキドキしちゃう。こんな美人、本当にいるんだ! ただ、一瞬彼女が私の方を見て目が合った気がしたけど……気のせいかな?

 柏木先生が来てからと言うもの、しばらく学校内は彼女の噂で持ち切りだった。彼氏がいるのか、とか、絶対どこかの雑誌でモデルやってる、とか。男子たちはなんとか彼女に話しかけようと授業の後に質問しに行くヤツも多かったけど、彼女が端的に正解を教えてくれるため大して会話することもなく撃沈。そんな中、女子たちが集まって昼休みに先生と喋りに行こうと言うことに。皆でキャーキャー言いながら職員室に行ってみると、先生は自分の席でお弁当を食べ終わって片付けているところだった。お弁当派なんだ!

「先生、先生、ちょっとお喋りしませんか?」
「私? いいわよ。じゃあ、談話室に行きましょうか?」
「はい!」

 意外にあっさりオーケーしてくれて、私たち四人と先生でぞろぞろと談話室へ。私たちの分もジュースを奢ってくれて、先生はブラックコーヒー。おーっ! なんかイメージ通り! できる女って感じ! 五人で輪になるようにソファーに座って、私は先生の隣りになった。なんか良い香りする……でもちょっと懐かしい感じもするのは何故かな。

「先生、ルーマニアに住んでたんですか?」
「そうね。一年ほど前まではルーマニアにいたわよ。日本には何回も来ていたし今回は研究で日本の大学に来てたんだけど、その関係でここでの仕事を推薦してもらったの」
「先生、研究者なんだ! 通りで教え方も上手いし、授業の内容も分かりやすいと思った!」

 確かに彼女の授業は分かりやすい。教科書通りに教えてる感じではないんだけど、色々と雑学なんかも交えながら必要なことはきっちり押さえて教えてくれる。日本とルーマニアの教育の違いなのかなあ、とも思う。篠山先生はどちらかと言うと、教科書通り! って感じだったもんなー。

「ねぇ、ねぇ、センセ。ルーマニアってドラキュラの故郷なんでしょう? ルーマニアにはドラキュラとかヴァンパイアとかいるの?」

 友達の一人が、『ルーマニア』と聞いて恐らく全員が聞きたかったであろうことを口にする。が、柏木先生はクスっと笑っただけで、特に動じることなくドラキュラについて説明してくれた。

「ドラキュラと言うのはブラム・ストーカーの小説に登場する架空のモンスターよ。でもモデルになった実在の人物ならいるわ。ヴラド三世って言うんだけど、彼のニックネームがヴラド・ドラキュラって言うの。ドラキュラはルーマニア語で悪魔の子とかドラゴンの子とか言う意味なんだけどね。実際に残虐だったのと小説のドラキュラのお陰ですっかり悪人イメージだけど、実際には国を他国から守った英雄でもあるのよ」
「へぇ!」

 その話は私も知っている。別のニックネームはヴラド・ツェペシュ……『串刺し公』なんて呼び名もある。でも先生はヴァンパイアについては何も言わなかった。私はヴァンパイアの方に興味があるんだけどなあ。

「ドラキュラとヴァンパイアは別物?」
「うーん、小説のドラキュラ伯爵がヴァンパイアの一種なんだろうけど、ヴァンパイアは人の血や精気を吸う種族みたいなものかしら。もちろん、架空のモンスターだけどね。渋沢さんはヴァンパイアに興味があるのかしら?」
「私、そういうオカルトものが好きなんだー」

 私に質問した先生の目が鋭く光った……気がした。その冷たい眼差しに一瞬ゾクッとする。でも再び見た時先生は笑顔で……見間違いだったかな?