新米メイドは男装令嬢のお気に入り(27)
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第27話 なんで黙ってたのよ!
私が男であることは、皆さん分かっているものとばかり思っていたわ。領地では皆が知っていることだったし、女性の格好をして生活していることに何の違和感もなかった。ミランダ様は逆に男装されていたし、王都でも服装は自由なものとばかり……
でも実は少しだけ『アレ?』と思うことはあった。マッコール商会では店員の女性も店主の方も、基本的に私を女性扱いしてくれていたし、先日行った工房でもそう。元いた領地の人たちは私が男と知った上で『お嬢』と呼んでいてくれたから、こちらでも同様に女性扱いしてくれている……そう思うことにしたんだけど、やはり違っていたみたい。
確かに私の外見は女性の様に見える。私自身良く覚えていないけれど、小さいときは男の子らしく地域のガキ大将の様な存在だったらしい。それがある事件をきっかけに今のような性格になったのよね。もともと母さんは二人目の子供に女の子が欲しかったらしく、それからは私をその様に育て始めたんだって。私もそれを特に不思議には思わず、外見もどんどん女性っぽくなっていった。
だからといって男性が好きと言うわけでもなく……んー、恋愛をしたことがないのでそれは良く分からないんだけど、今まで男性にも女性にもドキドキしたりはしなかったかな。ミランダ様にお会いして、彼女に手を握られたりすると胸が苦しくなって……ミランダ様は男性の様な格好をされているので、男性が好きなのか女性が好きなのかは未だに分からないけれど、本でしか読んだことがなかった『恋心』とはこう言うものだと初めて自覚したわ。
卒業パーティーでフランツ王子に婚約を迫られた時は驚いたけれど、やっぱり皆が自分を女性と勘違いしていたことを確信した。ミランダ様やパトリシア様はそれでもいいと仰ってくださったので少し安心したけれど、フランツ様には悪いことをしてしまったかしら? 今後余計な誤解を産まないためにも、学園にはちゃんと男性として通った方がいいのかもなあ。
もう一つの問題はメイドのお仕事。先輩方もきっと私が女性と思っているだろうから、男性と分かったら嫌われてしまうかも知れない。嘘を吐いていたつもりはないんだけど、彼女たちに迷惑がかかるのなら仕事を辞めた方がいいのかも……とにかく今日、正直に話してみよう。
朝、いつも通り控室に行くと、凄い剣幕でニッキーさんとローナさんが走ってきた。
「あんた、男だったの!」
「え!? あ、はい……」
「なんで黙ってたのよ! 体触ってもいい?」
「ど、どうぞ」
肩や腕、そして胸や腰を触られる。あ、ちょっと! くすぐったいです!
「胸がない……腕や腰なんて私より細いのに! この体のどこにあんな力が?」
「さあ? 昔から力が強いので……男だからかと思ってましたが」
「顔もこんなに可愛いし、髪なんてサラサラなのに……男!?」
頬をプニプニとつねられる。ニッキーさんとローナさんはどことなく悔しそうな表情。
「なんか……凄く負けた気がするのはなんで!? 女ならともかく、男に負けるとは……」
「あの……ごめんなさい、私はてっきり皆さん分かっておられると……」
「分かるわけないじゃない、この顔で男なんて! 今でも信じられないんだからね」
「すみません」
その後、他の先輩方も寄ってきて、体を触られたり質問されたり……皆さん口々に『負けた』とか『悔しい』とか言っている。そこへヘザーさんも部屋に入ってきて、じっと私の顔を見つめていた。
「私はやっぱりメイドの仕事を辞めた方がよろしいでしょうか?」
「どうしてですか?」
「だって男ですし……」
「男子がメイド服を着て作業してはいけないと言う決まりはありませんよ。あなたがどうしてもと言うなら止めませんが、折角仕事を覚えたのだから続けて欲しいわ」
「そうそう、人生で一番ぐらいに驚いたけど、それと仕事は別だからね。それに今更男だって言われても、もう皆あんたのこと妹分だと思ってるから無理かな。あんたはここでは女! そしてメイド! それでいいんじゃない?」
「ニッキーさん……」
皆さんの対応が温かくて、思わず泣いてしまう。と、ヘザーさんが優しく抱きしめてくれて、背中をポンポンと叩いてくれた。
「ほら、泣いてる暇はありませんよ、マリオン。あなたはあなたなんだから、今まで通り頑張ってちょうだい」
「さあ、仕事、仕事! パーティーは終わったけど、私たちは会場の後片付けまでやって完了だからね!」
「はい!」
皆がそんな風に思っていてくれことを知ってとても嬉しかった。私はすっかり彼女たちに受け入れられていたんだと実感する。『妹分』、それは私にとってとても誇らしい代名詞。先輩方、有り難うございます。私は今まで通りマリオンとして、できる限りこの仕事を続けていきますね。今後ともよろしくお願いします!
結局いつも通りに仕事をこなして帰宅。先輩方に『妹分』と言ってもらったことが嬉しくて、家に帰った後も気が付くとニヤニヤしてしまっていた。今日のことを色々と思い出しながらお茶していると、ドアをノックする音。
「はーい」
「マリオン、私だ。入っていいかい?」
「ミランダ様!」
慌てて玄関に行きドアを開けると、そこにはミランダ様とフランツ様。フランツ様はちょっとバツが悪そうに視線を逸らしておられる。
「どうぞお入りください」
「あ、ああ……」
お二人に座って頂いた後もフランツ様の様子は変わらず、見かねたミランダ様が彼の脇を突いていた。
「ほら、言いたいことがあったんだろう?」
「こ、今回はその……色々世話になったな。お陰で卒業式もパーティーも無事終えることができた。改めて礼を言う」
「お気になさらずに。お役に立てたなら光栄です。それよりも申し訳ございません、最初から私が男だとお伝えしていれば……」
「……」
そう言うと、やっとこちらを向いてくださって、私をまじまじと見つめるフランツ様。
「あーっ! どうしてお前は男なんだ! それ以外は完璧なのに! 僕はやっと自分の好きな女性のタイプが分かったと言うのに! マリオンは本当に男なのか!?」
「本当ですよ、ほら」
フランツ様のお手を拝借して自分の胸に押し当てた。最初は驚いておられたが、しばらく私の胸を触って納得された様子。
「本当だ……」
「私も触らせてもらおうかな?」
そう言って手を伸ばすミランダ様に対しては、反射的に体を逸らして避けてしまう。
「あ、あの……ミランダ様はダメです。は、恥ずかしいので」
「フフフ、そういう所も可愛いな、マリオンは。私は君から目が離せなくなってしまう」
「ミランダ様……」
彼女に手を握られて頬を赤らめていると、フランツ様が咳払い。
「コホンッ、まったくお前たちを見ていると性別と言うものの定義が分からなくなってくるよ。しかしまあ、お似合いなのかも知れないな」
「そう言ってくれると有り難いよ。フランツ、君だっていい男なんだから、きっとすぐにお相手が見付かるさ」
「そうですね。フランツ様は本当に素敵なお方ですから、私なんかよりもっと素敵な女性がお似合いです」
「はぁ……」
複雑そうな表情でため息を吐かれたフランツ様は、頭を軽く掻いてからスクッと立ち上がった。
「と、とにかく今回は世話になった。しかしこれからは男として君に接するから、学園に入学しても覚悟してくれよ」
「はい、生徒会長!」
「じゃあ、パトリシアやミランダともども、今後もよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
手を差し出してくださったので、私も立ち上がって握手する。微笑みかけるとまた照れくさそうな顔をされたけど、フランツ様が素敵なお方なのは本当ですよ。フランツ様の隣に立たれる女性は、ミランダ様が最も相応しいのではないかとも思うけれど、お二人ともそのおつもりはなさそう……きっとこのお二人の間にはもっと別の絆の様なものがあるに違いないわ。
これで学園に入学する前のイベントは大体終了したかしら? 色々大変なこともあったけれど、メイドの先輩方やパトリシア様、それにフランツ様、そして何よりミランダ様との関係もより深まった様な気がする。入学すれば生活もガラッと変わるんだろうけど……それでも私はここで頑張っていける、そう感じていた。あ! 入学したら狩りに行けなくなるかも知れないから、今の内にもう一度ぐらい行っておこうかしら。
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