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COMPLETE | 第7話:対峙

#創作大賞2023 #小説 #連載小説 #ヴァンパイア #ファンタジー

↑ 第1話はこちら(第1話の先頭に全話の目次があります)

「余計なことは考えないことね。私は特殊部隊の人間だから、相手があなたでも容赦なく撃つわよ」
「そう言うことは、もっと背後を警戒してから言った方がいいよ、センセ」

 先生の背後の机を浮かせて先生目掛けて飛ばす。ハッとした先生はギリギリで避けたので、机が廊下側の窓を壊してガシャーンと派手な音。私はその間に教室後ろのドアから廊下に出た。先生は体勢を崩しながらも銃を撃ってきて、ズダァーンと言う重めもの破裂音の後に尾を残して空気を切り裂く様な光の筋。V-SATの対ヴァンパイア弾だ。でも、私の身体能力なら当たることはない。

「チッ!」

 廊下を走って逃げる私の後ろで先生の舌打ちが聞こえる。カッ、カッと追いかけてくるヒールの音……もう、しつこいなあ。

 廊下を走って逃げつつ、掃除用具入れやバケツや消火器を飛ばして妨害するが、流石と言おうか先生はそれを器用に避けて合間に発砲してくる。先生の銃はリボルバータイプだったのに、連射できるの!? ただシリンダーには五発しか込められないはずだから、五発撃つごとにちょっと間が空くのも事実……なんだけど、弾をリロードするの、速くない!?

 さっきから既に十五発ぐらい撃ってる。まあ私には当たらないんだけど、このまま逃げ回ってるのも飽きてきたなあ。埒が明かないから、この辺りで決着を付けちゃった方がいいかも。そろそろ弾切れであろうことを予測して近くの教室に飛び込み、諦めてくれることを願いつつ机や椅子を飛ばす。派手にガラスが割れたけど、先生はそれも巧く避けて身を低くしつつ転がるように教室に。そして間髪置かずにまた五発撃ち込んできた。もう! 本当にしつこい!

 弾を避けるために私は教室の反対側へ。先生は黒板の前、教卓の後ろ側に立っている。さっきの攻撃がかすったのか、先生の左足のストッキングが擦れて血が滲んでいるし、白衣にも血が。ヒールも脱げちゃったみたいだね。そして腰の辺りに付けていたポーチをゴソゴソして、一発だけ銃弾を取り出していた。やった! 弾切れ!

「ほらほら、センセ、ボヤボヤしてたら私が勝っちゃうよー」

 勝ちを確信して、一瞬で間合いを詰めて教卓の所へ。そのスピードに驚いていた先生だけど、その内フッと笑って見せた。

「黙りなさい、ヴァンパイア風情が! そうやってふざけた態度を取っていられるのも今の内よ!」
「あれれー、もう弾切れじゃん? ほらほら、ちゃんと狙わないと。足も怪我してるみたいだし」
「この程度、怪我には入らないわよ」

 この対ヴァンパイア弾の感じは大体分かったし、撃つときの先生のクセも分かった。先生はハンマーを起こさずにトリガーを強く引いて弾を連射するから、若干照準がずれるみたい。私からすればどうせ避けるからあまり関係はないんだけど、連射する場合でも少しだけタイムラグがある。

「ここ! ここだよ、センセ!」

 先生が最後の弾をリロードするのを待って、私は自分の眉間を指して見せた。先生との距離は一メートル程度。銃を構えて撃つまでの時間を考えれば、私の身体能力なら余裕で回り込める。

「それが外れたらセンセの負けだよ。罰ゲームはどうしようかなー」
「この距離で外すとでも?」
「今までだって一発も当たってないもん」
「……」

 先生と見つめ合う。キレイなブルーの瞳。どこか冷たくて、見つめていると怖くなる。でも残念だったね、人間である限り私には絶対勝てないんだよ。さっきみたいに能力で机を飛ばしたりしてもいいけど、先生は避けて確実に当たる所まで距離を詰めてくるだろうなあ。だったらここで、最後の一発で勝負しようよ!

 二人の間に重苦しい空気が流れ、しばらく時が止まったようになる。そんな中アクションを起こしたのは先生だった。体の前で下に向けていた銃口をサッと上に上げて私の前でトリガーを引く先生。

「ズダァーン!」

 でもそれに当たる私ではなく、左に避けて先生の右側に回り込んだ。ここで一撃をお見舞いして気絶させちゃえばいいかな。そんなことを考えていたけど……回り込んだハズの私の頭に、銃口が突き付けられる。

「あ、あれー? もう弾切れでしょ、センセ」
「切り札は最後まで取っておくものよ。弾は二発あったの。一発は空砲だったけどね。そして今シリンダーに残ってるのが本当に最後の一発よ」

 カチッとハンマーを起こす音。

「この銃はシングルアクションにもダブルアクションにも対応しててね。ハンマーを起こした場合のトリガーはダブルアクションよりも遥かに軽いのよ」
「つまり?」
「つまり、逃げられないってこと。手こずらせてくれたわね」
「アハハ、ヘマったなあ……」
「Mission Complete.」

 そして先生が躊躇なくトリガーを引く。ズダァーンと言う音が突き付けられた銃から発せられ、音と振動が私の全身を通過していった。