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ラスト・チャンス(23) 〜ゲームの主人公に転生したら、どのルートもバッドエンドだったんですが!?〜

↑1話目はこちら(1話目の先頭に目次あり)

第23話 ユージーンとの関係

 インファンテの屋敷を訪れた後日、レジナルドからお礼を言われる。どうやら薬用酒の効果があった様でアナスタシア妃の体調も少しずつ良くなっているのだとか。

「母はエマとカーラのことを凄く気に入った様子だった。こちらでは知り合いも少ないから、また暇な時にでも喋り相手になってくれないか?」
「喜んで。アナスタシア様に気に入って頂けるなんて光栄だわ。カーラにも伝えておくわね」
「ああ、助かる。それにしてもあの酒、あんなもの良く飲めるよな」

 どうやら彼も薬用酒を飲んでみたらしい。味はマジで前世の養○酒みたいな味。少しドロッとしていて漢方に使われる様な薬草が沢山使われているから当然よね。しかし若者があんなもの飲んだら精力がアップして夜寝られなくなるから要注意だわ。おっと、エマの姿で下ネタは厳禁!

「あれは滋養強壮に効く様な薬草が沢山つかわれているので、元気なあなたには合わないでしょうね」
「まったくだ。それで、あの酒は俺たちでも買えるものなのか? 国では売っているところを見たことがないが……」
「もちろん。王宮御用達の店ですので、アナスタシア妃の元にも届けてもらえるようにお願いしておきますわ」
「サンキュー」

 母親の体調がいいからかレジナルドのテンションも少し高め。やっぱりちょっとマザコン気味なんだよなー。エマは前の扉の中で良く婚約できたわね、ホント。今の世界線ではレオやサイモンの筋肉仲間、それにユージーンやマシューとの仲も悪くないしクラスメイトとも気さくに喋っている。そのせいか私に恋愛感情を向けてくる様子もなくちょっと複雑な気分ながら、概ね私の計画に沿った状態と言っていいかな。しかしエマ程の美人がいると言うのに、アカデミーの誰からも声を掛けられたりしないのは……やっぱり中に入ってる私のせい!? いや、皆エマの王女と言う身分に遠慮してるだけだ、そうに違いない。

 しかしそのお陰でアカデミー内で動きやすいのも事実。四六時中皆で集まっているわけでもないので、時間があれば図書館に言ってイーサラム関係の本を漁ったりしている。情報をまとめるのにノートパソコンやタブレットが欲しいところだけど、流石にこの世界では手に入らないので地道にノートを取るしかない。こんなに一杯ノートに書き込んだのは大学の受験勉強以来だわ。

「よう、熱心に何調べてるんだ?」
「ユージーン。あなたこそ、勉強ですか?」
「ああ、ちょっとな」

 普段はメガネを掛けてないのに、勉強するときはメガネ姿のユージーン。メガネ姿も決まってるなあ、イケメンめ。三人の王子の中ではクラスの女子達から圧倒的な人気を誇るユージーン。そしてその隣にカーラがいることが多いもんだから、入学から一ヶ月ほどしか経過していないにも関わらずベストカップル認定されている。二人とも恋人同士と言う意識は薄そうだけど、イケメンと美人はどの世界線でも勝ち組なんだなあ。あれ? ここでもやっぱりエマは既に恋愛対象ではなくなってるわね。やっぱり中身が……いや、もう考えないでおこう。

「ここの蔵書数は流石だよな。読みたい本があり過ぎて困るよ」

 ユージーンが持っていたのは旧王国の歴史や経済論の難しそうな本。やっぱりそっち方面に興味があるのは前の扉の中と一緒なのね。

「エマはイーサラム関係の本か?」
「ええ。以前から興味はあったのですが、折角アカデミーに入学したのですから本格的に勉強してみようかと思いまして」
「魔法の授業も楽しそうだもんな」
「フフフ、そうかしら?」

 いや、楽しいけどな! とにかく知りたいことが多すぎて授業だけでは物足りないぐらいだから。理系の知識を総動員すれば、自分でイーサグラムを、しかも小型化して作れるんじゃないかと思ってる。

 私の対面に座ったユージーンも本を読み始め、しばし無言のままそれぞれの勉強を進める。時々チラッと彼の方を見ると、やっぱりイケメン。これは学年中の……いやアカデミー中の女子が放っておかないだろうなあ。まあカーラと言う存在があるからそう簡単には付き合えないだろうけど。そう考えると前の扉の中で彼と付き合い始めるのは簡単だった印象だわ。やはり王女と言うステータスが勝ち組要素として働いたのだろうか。

「なあ」
「はい?」
「お前は婚約者選びはしないのか?」

 何を聞いてくるかと思ったら、随分ストレートな質問ね。でもまあ最初に私に引き合わされた時はきっと『王女の婚約者候補だ』とか言われていただろうから、気にはなるわよね。

「そうね。婚約……結婚は人生におけるイベントの中でもとても重要なものですから、じっくり相手の方のことを知ってからでも遅くないのではないかしら? それに今は自身を磨くことの方が大切だと思うの」

 まあ恋愛に興味がないわけじゃないけど、それよりも今は超楽しそうなイーサラムにどっぷり浸かりたいオタク心理が働いちゃっただけなんだけどね。

「ユージーンはどうなのかしら? 仮に私の婚約者になってしまったら、カーラが悲しむんじゃない?」
「???……!?」

 一瞬『何言ってるんだ』みたいな顔をしたかと思うと、すぐに焦った様な表情で顔を赤らめたユージーン。

「な、なんでカーラの名前が出てくるんだよ」
「あら、周りの皆はもうあなたたちはカップルだと思ってるわよ。いつも一緒だし、仲良さげじゃない」
「俺たちはそう言う関係では……」

 前の扉の中は『姉弟みたいな関係』って言ってたもんな。でもそんなカーラに私は殺害されたんだから、彼女はきっとユージーンのことを家族以上に大事に思ってるに違いないんだから。

「か、彼女は宰相の娘と言っても養女だし……」
「宰相のご令嬢であれば王子の結婚相手としても問題ないのでは?」
「俺はそう思うがカーラが……」

 あー、もう、煮え切らない態度ね! エマと付き合っていたときはもっとグイグイ来てたし、イケメンっぷりを遺憾なく発揮してたじゃない? ユージーンが言った通りカーラはグッドール家の養女。調査結果にも書いてあったから、私も良く知っている。彼女の両親は彼女が七つの時に亡くなっていて、父親の知り合いだった現宰相が彼女を引き取ったらしい。四つ上の姉は別の貴族に引き取られたそうだが、今は行方不明だとか。そして彼女の母親である女性には、実は重大な秘密があったんだ。どうする、ここでユージーンに明かしてしまうか? ひょっとしたら知ってるかも……いや、知っていたらこんな態度にはならないか。多分カーラ自身も知らないことなんだと思う。

「カーラは、俺にはもっと身分の高い貴族令嬢や、エマの様な王女が相応しいって言うんだ。ラッシュブルックの王位継承権を持つ者として、その方が絶対いいと……」
「では、その問題さえ解決してしまえば、ユージーンはカーラと結婚してもいいと?」
「それは……」

 モゴモゴいいながら俯いてしまったユージーン。やっぱ好きなんじゃん! いつものナルシストっぽい王子様はどこ行ったんだ。

「……お前に聞くのも変な話だが、もし俺が真剣に告白すれば彼女は応えてくれると思うか? 彼女は俺のことをどう思ってるんだろう」

 マジで私に聞くか!? どうやらゲームの時見ていた彼も前の扉の中で見ていた彼も、本来の彼ではなかったってことね。

「そうですわね。カーラはきっとあなたのことが好きなはずよ。でも告白は今しばらくお待ちなさいな。その時がくれば、協力してあげられると思うから」
「……分かった」

 素直でしおらしい。いつもは強気なイケメンのこんな表情を見せられたら、乙女心がキュンキュンするわ。惚れてまうやろ~! と叫びたいところだけど危ない、危ない。今は恋愛にかまけている場合じゃないのよ。ユージーンがどんな顔してカーラに告るのか、楽しみにしておこう。

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