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ラスト・チャンス(6) 〜ゲームの主人公に転生したら、どのルートもバッドエンドだったんですが!?〜

↑1話目はこちら(1話目の先頭に目次あり)

第6話 インファンテ王国

 レジナルド王子に招待されてインファンテ王国に行くことになり、諸々の準備をして国を出発できたのは一ヶ月後。流石に王女が他国に訪問するとなると、フラッと一人旅と言うわけにはいかないわけで、エマが初めて国を出るということもあって大層な一団になってしまった。エマの乗る馬車と言うか浮遊車は浮遊駆動体を使っているけれど、その他は馬車。エマの乗り込んだものの他に十台近い馬車が前後に配置され、そこに護衛の騎士やらなんやら……総勢で百名近い集団だ。うーむ、一国の王子や王女に『国に来てくれ』なんて軽々しく言うもんじゃないわね。

 私の記憶がないエマは他にどんな人物が付いてきているのか興味なかった様だけど、今から考えれば実に様々な人が同行していたみたい。エマの護衛はもちろんのこと身の回りの世話をしてくれる執事やメイド、国の役人たちや商業ギルトの面々、目的は分からないけど位の高い貴族とかその息子、娘なんてのも付いてきていたわね。王族に近い立場の人達だから、役人たちと一緒にあちらの貴族と話でもするんだろうな。

 この時エマが楽しみにしていたのはレジナルド王子の母親、つまりは王妃に会うこと。体が弱いとのことでイグレシアスに来られたことはなかったけど、レジナルド王子と話していると度々彼女のことが話題に上った。どうやらとても聡明で美しく、彼の自慢の母親だそう。彼女の噂はイグレシアスにも届いていて、一度お会いしてみたいと思っていた。

 何個か国内の街を経由しインファンテ王国に入る。国内でもインファンテ王国でも行く街行く街歓迎ムードで、初めて見る景色や街並みに興奮しっぱなしだったわね。まあ、もともとお転婆で好奇心の強い性格だからと言うのもあるんだろうけど。そうして一週間ほどかけてインファンテの王都に到着。王都の歓迎ムードは途中に通った街の比ではなかった。もうそれはお祭り騒ぎの様な歓迎っぷり。皆隣国の姫を一目見ようと大通りに群がっていた。そんな群衆の目の前を見慣れない浮遊車に乗った姫が進んでいくのだから、英雄が凱旋したかのような歓声が上がる。

「なんでこんなに歓声が!?」
「姫様はそれだけ他国でも名を知られ注目されているんですよ」

 同乗していたエマ専属のメイドが教えてくれる。中央国の姫という立場を改めて実感したし、ゲームでは全然描かれていなかったけど隣国の王子と恋仲になると言うことは想像以上に一大事なんだわ。しかしそんなことはあまり気にもせず、それでいてしっかり王女として振る舞うエマは、やはり生まれた時からしっかり王女として教育されてきたのだろうと思う。

 人々の歓声の中をくぐり抜ける様にエマたち一行は王宮へと進み、今度はインファンテ王に謁見すべく王の間へ。玉座には王とその横に妃様、そしてレジナルド王子がいてエマたちを迎えてくれた。

「遠路、良くお越しくださった。我々は貴女の訪問を歓迎しよう」
「エマ王女が来てくださるのを楽しみにしておりましたよ。お疲れでしょうからまずはゆっくりして頂いて、夜にはささやかながら歓迎の宴を開催したいのだけど参加して頂けるかしら?」
「有り難うございます、王様、妃様。謹んでお受けします」

 アナスタシア妃殿下はとても優しい雰囲気の女性。美しさの中にも聡明さが感じられて、なるほどレジナルド王子が自慢するだけのことはある。ただエマに向けられた笑顔の裏で実際何を考えているかは計りかねる部分も……要は食えない相手と言う事だ。前世の私ならまず疑って警戒する相手だろうけど、若くて外交などの経験もないエマは『歓迎された』と気を緩めてしまっていた。目的はあくまでレジナルド王子だから仕方ないんだけど。

 王宮内の客間に案内されて暫くするとレジナルド王子が来てくれて、しばし二人の時間を楽しむ。自国だからか彼はいつもよりリラックスした雰囲気で色々と気遣ってくれて、また彼のことを好きになるエマ。周囲の者たちからあれこれ注意事項などを聞かされていたけれど、この時のエマはもうレジナルド王子のことしか見えていなかったわね。

 『ささやかな歓迎の宴』とはいいつつ、そこは一国の王が開催するもの。それはそれは豪勢な宴で、広い会場にインファンテの役人や貴族、それにエマに同行した者たちも含めて数えきれないほどの人々。エマは王と王妃、それにレジナルド王子とならんで会場の一番奥に用意されたテーブルに着いていたけれど、次々と挨拶にくる人々の対応でろくに食事を取ることもできないぐらい。ただそこは慣れたもので笑顔を絶やさず、王やレジナルド王子が話してくれる人物の紹介に耳を傾け、そして一人一人と丁寧に挨拶を交わす。隣には常にイグレシアスの役人が立っていて必要に応じてどこかに案内していたので、その後外交の話だったり商談だったりが行われたのだろう。

「ふぅ、流石に疲れたわね」
「姫様、お疲れ様でした」

 宴も終わり部屋に戻って一息吐くエマ。メイドたちに着替えを手伝ってもらってソファーに深く腰掛け、ようやく初日の務めが終わったことを実感する。メイドが持ってきてくれたミルクティーが疲れた体に染み渡る様だった。

「王妃様は途中で退席されたけれど、大丈夫だったかしら?」
「もともとお体が弱い方ですので、大事を取ってのことでしょう。明日にでも王妃様を訪問されてみては?」
「そうね、あまりお話もできなかったし、レジナルド様にお願いしてみるわ」

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