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X-polisは眠らない

静かに波が打ち寄せるビーチ。真っ白い砂浜にぽつんと置かれたビーチチェアに身を委ね、呆然と景色を眺める。ただただ広がる海に陽の光が反射してキラキラと光る。あれはカモメだろうか? 数羽が海岸近くに群れている。背後にはテラス付きのコテージ。その後ろには壮大に広がる山々。ここは360度絶景が味わえる場所だ。

「無職になっちまったな」

ボソッと呟くが、答えてくれる相手はいない……ここにいるのは俺だけだ。

ここは所謂、仮想空間。海も山もコテージも、もちろん鳥も全てデータで、そこにダイブしている。2030年代後半から急速に発達したVR技術は仮想空間での、脳波干渉・同調による五感体験を可能にした。昔、昔のアニメでやっていた「フルダイブ」型が現実になったんだ。

そして俺たちはその技術を用いて……ああ、ヤメた、ヤメた! 今更過去を思い起こしたところで虚しいだけ。ともあれ俺が中心となって作り上げたVRMMO都市、「X-polis(クロスポリス)」の中でいつもの様に会議に出席すると、共同経営者である青山が神妙な面持ちで喋り始めた。

「今日の会議を始める前に、一つ議題を起案したい」
「何だよ、急に?」

軽い気持ちで話を聞こうとするも、他の出席者は何も喋らず硬い表情。直感的に、自分だけがその内容を知らされてないことを悟る。青山は代表取締役としての俺を解任し退職を迫った。こうなる予兆は以前からあったんだけど……

「はぁ……やってらんねえよな」

腕をぶらんとさせながら、どこまでも青い作り物の空と海を見つめる。もう一層海に飛び込んでみるか? そんなつまらないことを考えていると、

「なーに、こんな所で腐ってるの? あなたらしくない!」

と、不意に背後から声がした。ビクッとなって振り返ると、テラスの手すりに肘を付いて微笑んでいる、白いワンピース姿の美しい女性。それは俺も良く知っている人物……だけど、何でここにいんの!?

【続く】


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