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ラスト・チャンス(36) 〜ゲームの主人公に転生したら、どのルートもバッドエンドだったんですが!?〜

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第36話 平穏な日々

 襲撃事件があって暫くは仲間内でも何となくピリピリした空気があったけれど、徐々に日常を取り戻して平穏な日々が続いた。マシューとサイモンは相変わらず良く王宮に来ていて、マシューがお母様と庭園に出ている間はレオがサイモンの相手をしていることが多い。そうそう、キックボード風のハンドル付きホバーボードはお母様やマシューのお気に入りになって、広い庭園を移動するのに二人並んでホバーボードに乗っている姿を良く目にする。もう親子ね。

 依然として『エマ王女はマシュー王子と婚約されるのでは?』と言う噂は根強いけれど、もういちいち否定するのが面倒になってそのまま。オタクとしてはマシューとサイモンの仲を言いふらしたいところだけど、流石にゴシップ王女はまずいので口の端をピクピクさせながら我慢している。

 ユージーンとカーラの仲は相変わらずで、もう夫婦みたい。カーラからは相変わらず『本当に私がユージーンの相手でいいのか』みたいなことを相談されるんだけど、そろそろ前進させてあげようかしら? とも思っている。それは例の報告書にあった彼女の出自……と言うか彼女の母親に関することなんだけど、今それを公にしてしまうと授業どころではなくなってしまうかしら? なのでもう少しだけ時間をちょうだい。実はお父様、お母様にはもう話してあって、どう対応するかは決めてあるんだけどね。

 レジナルドは相変わらずレオとサイモンとつるんでいることが多いけれど、以前おじ様の剣術の授業を受けたことが刺激になったのか、以前よりも剣術に励むようになったそう。彼も時々王宮に来て、騎士団の練習場に直行している様だ。なので、マシューの様に私との関係が噂になることはないわね。一方で時同じくして騎士団の練習を見学しにくる様になったドロシーとは仲良くなっているみたい。恋人と言うよりは剣士同士気が合うって感じかな。騎士団長であるおじ様を崇拝する者同士と言った方が正しいかもね。

 アナスタシア妃とはあれから何度かお会いしているけれど、会う度に健康になっておられる様子。街に買い物に行かれたり、王族の別荘に泊まりにちょっとした観光旅行をされたりしているそうなので、イグレシアスでの生活を十分エンジョイされているのだろう。一度王宮に来てお父様やお母様に会って頂くのもいいかも知れないわね。

 シアーラ・マクニースとは、依然付かず離れずな関係。悪人ではないのは分かっているんだけど、前世の記憶からなのかどうしても警戒してしまうし、カーラほど一歩踏み込んだ関係にはなれてないし、彼女もそれで問題ないと言った様子。マシューやサイモンとは仲良くしていて、時々彼等と一緒に王宮にも来ているんだけどね。

 私はと言うと相変わらず『秘密の部屋』に籠もったりしてイーサラム研究は続けている。ユニバーサル基板は使い勝手が良くて、色々実験するには持って来いなのよね。図面を引いては実験して、実験しては図面を引いたりドキュメントを書いてみたり。大学生だった前世とあんまりやってることが変わってねー! けど、充実はしてるわね。

 そうして日々が過ぎ去り、気が付けばアカデミーでの一年目が終わろうとしていた。少し前に二年生の卒業式があり、在校生代表として私が挨拶。期末の試験も終えて、皆二年生に進級できることが決まっている。一部の男子は結構危なかったみたいですけどね。その辺りはレオが頑張って勉強を教えていた様だ。

 終業式があった日、式の後に自然といつものメンバーが食堂に集まり、いつもの様にお喋り。話題は当然、この一年間の話となる。私とレオ、マシューとサイモン、カーラとユージーン、それにレジナルドとドロシー。何となくカップルができている中、私の前にはシアーラ・マクニースが座っていて、ちょっと気まずい。薄っすらミステリアスな笑みを浮かべてこっちを見ている。

「コホンッ、皆様、アカデミーでの一年間の生活は如何でしたか? 各国よりイグレシアスに来て頂いて、学んで頂いた価値はありましたでしょうか?」
「ああ、そうだな。俺は入学して良かったと思っているよ。ラッシュブルックにもアカデミーはあるがここまで色々と学べなかっただろうし、それにここの蔵書数は本当に凄い。ここまで真剣に学べたのも、エマが誘ってくれたお陰だな」
「そうだね。僕も生物や植物に関して沢山学べたし、何より王宮庭園で沢山の本物の植物にふれることができたことに感謝しているよ。王妃様にも凄く良くしてもらっているし」
「俺も剣術に磨きがかかったと思うし、もっともっと鍛錬したいと考えている。レオの父上、騎士団長殿に稽古をつけて頂けるのは本当に有り難い。それに母もとても元気になった。このことに関してもエマに感謝している」

 うむ、良かった良かった! 王子たちは皆一様にアカデミーでの生活を満喫してくれているみたいだし、それぞれのパートナー……つまり、前の扉の中でエマの殺害に至った三人も私に殺意は持っていない様子。前の扉の中では各王子と恋仲になって一年以内には殺害されていたから、これはもうフラグを回避したと言っても過言ではないだろう。謎は依然として残ったままだけど。

「カーラは? ここに来て良かったかしら?」
「ええ。皆ともこうやって仲良くなれたし、多くのことを学べたわ」
「それは良かったわ。ユージーンとの関係も進展したかしら?」
「!?」

 驚いた顔をしたカーラとユージーン。隣同士一瞬顔を見合わせ、顔を真っ赤にしてお互いにそっぽを向いた。

「な、なんで俺たちの話になるんだよ!」
「そ、そうよ。エマの意地悪!」
「フフッ、二人はお似合いだから応援しているのよ。それに以前から約束していた通り、私がちゃんと協力するから。一年生も終わったことだし、そろそろ動こうと思うの」
「あ、有り難う……でも、動くってどういう?」
「それはナイショよ。でも悪いようにはしないから」
「勿体ぶりやがって。でも感謝している……エマはそれでいいのか? 俺たちをここに入学させたのも、最初は婚約者を選定するためだったんだろう?」

 まあ建前上はそうだけど、もともと婚約するつもりなんて更々ないからね。ここにいる三王子と婚約すると言うことは、即棺桶に片足を突っ込むってことなんだから。第一、ユージーンとマシューはパートナーがいて、レジナルドはがっちりアナスタシア妃にガードされてちゃ選びようがないじゃない。

「あなたたちとこうして仲良くなって、それぞれの考えや理想も良く分かりました。私と婚約することが、必ずしもあなた方の理想に沿うものではないことも分かっております。一年間色々と勉強してみて、私もまだまだ未熟であることを思い知りました。ここだけの話ですが、近々で婚約はしないと思います。私もあなた達を見習って、イグレシアス王国のために何ができるのか、考えてみたいのです」

「そうか……エマは俺が思っていたよりもずっとしっかりした王女様だったな」
「そうだね。国に居た頃に聞いていたのとは随分違ったよ」

 おいおい、一体どんな噂を聞いていたんだよ! まあ分からなくはないけどね。エマはどちらかと言うと恋多き女性って感じで、私なんかよりももっと女性らしい女性。間違ってもイーサラム研究にのめり込んだりはしないだろう。王女であることを鼻に掛けたりはしないけど立ち振舞からして王女様で、その美貌で人を魅了するのよ。なんと言っても、恋愛ゲームの主人公だからね!

「俺たちにとっては良かったのかも知れないが、王配にはなり損ねたな」
「そうだな。俺は一時覚悟してたんだけどな」
「僕も。でも今のエマとなら、もし王配になったとしても色々と察して配慮してくれそうだけどね」
「違いない」

 ハハハハ、と三王子は冗談を言い合って笑ってる。そんな中、私一人頭の上にクエスチョンマークが飛びまくっていた。

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