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山さんはお元気ですか?「五香宮の猫」を観に行った


映画のチラシ。いつも思うけど、タイトル前の画像、縦置きOKにして!

先月半ば、かみさんが想田和弘監督の新作映画に関する地元紙の記事を切り抜いて見せてくれた。その後、こちらで購読させていただいている方の記事に、同じ映画のことが掲載されていたので、「これは観に行かねば!」的な気分は自分の中では盛り上がっていた。

その後、しばらく仕事でばたばたする日々が続いたため、映画のことはすっかり頭から消えていた。消えていたが、かみさんが切り抜いてくれた記事は残っていた。こういうとき、活字フェチのかみさんの存在だけでなく、そんな彼女に取り置いてもらった紙媒体ってありがたいと思う。だって、ネットの記事ならば、「意識的に」ブックマークでもして、「意識的に」そのブックマークを見る人間でなければ、つまり、ブックマークした記事に一定の「思い入れ」でも無ければ、たいていの場合その記事とは、その場限りであることが多い。だから、何の意識もせずに、「とりあえず」でそこらに物を置いておく自分(だから定期的にこの手の切り抜きやチラシを棄てなければならないのだが)にも、ついでに感謝した。

横川シネマの中はこんな感じ。全部で70席なんだそう

それはともかく、映画の話である。想田監督の映画&アフタートークは⑵度とも、横川シネマで経験している。最初は「選挙」「選挙2」で、その次は「牡蠣工場」で。牛窓が舞台になる映画は、これで3本めだ。最初の時に、監督と観察の対象となった監督の生時代の同級生「山さん」のお目にかかった。その時どんな質問をしたのか、まるで記憶にないけれど、監督の透明感のある瞳と、世の中に対してきちんと向き合う真摯な姿勢が強烈に記憶に残った。

今回、新作「五香宮の猫」だが、猫のドキュメンタリー映画であることや、日曜日の昼間(12:40上映開始)に上映されるということあったし、何より過去想田監督の映画は入りが良かったことを思い出し、上映開始30分くらい前に館内に入ると、すでにけっこうな数の方が待っておられた。前回、前々回と異なっているのは、お客さんの年齢層。自分は料金を支払う際、健康カードを示して割引を受けたが、その後次々と入ってくる方たちに対し、館主は迷わず「1200円お願いします」と伝えていた。周囲を見ても40代前後と思しき男性が数人立っている以外、ほぼ自分よりもお兄さん、お姉さんばかり。どうかすれば、お母さんみたいの年齢の方もちらほら。なんかええな、と感じた次第。

映画の内容については、おそらくあちこちで述べられていると思うので、いくつかの印象的なシーンだけ備忘録として記しておきたい。

まず、映画そのものに具体的なメッセージは感じられない。これはアフタートークで監督がおっしゃっていた、
・政治的なメッセージだったりなんたりは、文字で発言すれば
 よいのであって、それを映画という表現手段でやるのは
 「もったいない」
・映画は「体験するメディア」だと考えているので、できるだ
 けメッセージは抽象的にし、それを「体験」する一人一人が
 感じ取ってくれれば良い
ということと直結する。

印象に残ったカットは、いくつか(も)ある。
前半、町内会の様子を描いた場面があり、議題の一つに、野良猫への対応をどうすれば良いかを話し合う中で、以前、役所に勤めていた男性が「猫を売りに町おこしをするのも、ひとつの考え方」と発言していたこと。
その後、映画の半ばくらいに登場する、猫を被写体にしていたカメラマンの男性が「猫を町の『ウリ』にすれば、必ず、『たくさん猫がいるから』と捨てに来る人間が必ず現れる」と話していたこと。
そしてその発言がまるで予言のように、映画の終盤、3匹の子猫が捨てられていたことを言い当てていたことだ。

アフタ-トークの中で監督が、子猫たちは里親に引き取られていったことが伝えられたが、三つのカットが、絶妙につなげられていて、見終えた後思わず「なるほど」と心の中でつぶやいたが、これも個人的な追体験に過ぎないのだろう。

フィルムカメラに耽溺していた頃、何度か訪れた町、牛窓。
再び訪れるきっかけをもらったような映画だった。
改めて、紙媒体に感謝。


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