
クルマは安く走れればいい、というものではない? ◆幸せビンボー術(13)
前項では、いかに中古車を安く買ってクルマ関連の費用を下げるか、という話をしました。しかし、クルマは単なる生活の道具ではない、という人はいっぱいいるでしょう。趣味性を求めないクルマ生活などつまらない、と。
私もそうです。どんなに安くて便利で合理的でも、自分の美意識に合わないクルマは絶対に所有したくありません。でも、お金はない。
ここからは、かなり私的なコラムとして書きます。お金がないなりに、自分の美意識や価値観に合った「こだわりのクルマ」を所有し、楽しんできた記録です。
クルマの好みは人それぞれなので、そこに意見するつもりはまったくありませんが、ビンボーなりのクルマ趣味生活を追求するヒントにでもしていただければ幸いです。
趣味性を求めないクルマ生活はつまらん!
私が初めてクルマを買ったのは22歳くらい。普通免許を取って1年後のことでした。
免許を取ってもクルマを買うだけのお金がなかったので、最初は5万円の中古原付バイク(ホンダのTL50という4サイクル50ccエンジンを積んだトレールモデル)を買って、福島まで遠出したり、アルバイト先の学習塾に通勤したりしていました。
しかし、楽器を運ぶのにどうしてもクルマがほしくて、近所の小さな修理工場で売られていた13万円のギャランAⅡ(1971年製)という4ドアセダンを購入しました。
楽器運搬のことしか考えていなかったのにセダンになってしまったのは、やはり安かったからです。荷物を積めるバンタイプのクルマは10万円台では見つかりませんでした。
当時はクルマに趣味性を求めるという感覚はゼロで、とにかく荷物を運べる安いクルマがほしい、という一点でした。
セリカ4WS(1990年製造)
クルマにかっこよさ、センスのよさを求めるようになったのは30代後半くらいからでしょうか。4WDのパジェロなどが売れていた時代で、私もクロカン型四駆に憧れていました。しかし高くて手が出ません。
その頃、妻が、実はスポーツタイプのクルマに憧れていたということを知り、バブル期でお金が入ってきた時期でもあったので、6台目にはトヨタ セリカ4WSというスポーツモデルを買うまでになりました。1990年に発売が発表されると同時に購入。人気があったようで、納車まで2か月待たされました。
↑ 後輪も操舵する4WSという機構を搭載したセリカ4WS。4WSが気に入り、このクルマの前のテルスターも4WSだったが、現在、4WSは消滅してしまった。1998年頃、越後にて。
このセリカは気に入って、10年以上、12万キロくらいまで乗り続けたのですが、最後は電気系統の故障が続いて、突然エンジンがかからなくなる事態が増え、プジョー307というフランス車に乗り替えました。
今思えば、新車を買えたのはこの時期だけで、プジョー307以降はビンボー生活が定着したため、ずっと中古車(しかもすべて30万円台以下)が続いています。
たくきのクルマ購入遍歴(購入順):三菱ギャランAⅡ、トヨタ スターレットバン、いすゞ ジェミニMinx、トヨタ スプリンターSR、日本フォード テルスター4WS、トヨタ セリカ4WS、プジョー307、スズキ X-90、オペル ティグラ、日産 バネットバン、プジョー 307SWローランギャロス、スズキ アルトラパン (太字の期間だけが新車。他はすべて30万円台以下の中古車)
スズキ X-90
今まで、数えてみると計12台のクルマを購入してきましたが、その中でもとびきり趣味性の高いクルマがスズキのX-90とオペル ティグラです。
X-90は雪国の越後で冬でも乗れる車ということで買ったのですが、2台持ちになるので、どうせなら趣味性も……と、「小型で、4WDで、かっこよくて、できればオープンカーみたいな非日常を感じさせるクルマ」という、いくつかの矛盾する条件を並べて、それに奇跡的に合致するクルマとして選びました。
この条件だと普通はジムニーあたりが候補になるのですが、ジムニーは人気車なので中古でも高いのです。なかなか50万円以下というのは見つかりません。また、関越道を片道200km以上走って川崎と越後を往復するのに、軽ではちょっと辛いかなあ……というのもありました。
X-90は、バブル期にスズキが調子にのって作ったような一種のファンカーで、エスクードをベースにしながら、完全2シーターモデルです。屋根はガラスルーフのTバーで取り外せる、お洒落なのか無骨なのかウケ狙いなのかよく分からないという、あまりに特殊なクルマだったのと、売り出したときはすでにバブル経済も崩壊していて世の中が醒め始めていたので、全然売れず、日本国内ではわずか1000台ちょっとしか販売されていません。
そういうクルマが存在していたこともほとんどの人は知らないでしょう。
ネットで検索しても、関東圏でわずか数台しか見つかりませんでした。
その中でも価格が安く(34万円)、走行が3万キロ台で、程度もまともそうな1台を見に(半分は冷やかしで)千葉の小さな中古車屋まで行き、悩んだ末に購入を決めてしまいました。
X-90は実用性という意味ではどうしようもないクルマです。メカニカル四駆(トランスファーレバーがついていて、二駆と四駆の切り替えはいちいち停車してガッチャンとギアを組み替える方式)なので、オフロードや雪道での走破力はジムニー並みですが、なにせ2シーターで、荷物もろくに積めません。
屋根が外れてセミオープンカーになるのですが、最初は面白がって外したりしていても、そのうちに面倒になって、まず、年に1度外してみるかどうか(それもこれ見よがしの自己満足で)。電動で屋根が開くなどということはなく、外に出て自分の両手で外したガラスルーフを持ち上げ、シートの後ろかトランクに積まなければなりません。重労働だし、落としたりしたら一大事です。
ショートボディで重心が高いのにエンジンは1600ccでそこそこ力があるため、四駆なのに、砂利道などの悪路ではちょっとブレーキを踏んだだけでスリップし、クルンと90度横を向いてしまうなんてこともよくありました。ABSどころかエアバッグもついておらず、要するに運転していて恐ろしい目に合いがちなクルマ。
タイヤホイールの規格が特殊で、ジムニー用もエスクード用も合わず、唯一合うのがジムニー1000用のもの。そんなものはなかなか見つからないので、スタッドレスタイヤ用のホイール探しも苦労しました。
しかし、そんな「クセがすごい」クルマでも、外から眺めているだけでも幸せになれる個性があります。
タクシーの運転手さんや、車の修理屋さんでさえ「なんですか、これ? 外車ですよね? どこのクルマです?」と寄ってきます。その度ににんまりしてしまうのでした。
結局、15年乗り続けましたが、最後は親の介護で病院の送り迎えなどをするようになり、13年超のクルマにかかる重加算税にも耐えかねて、手放しました。
↑ 越後生活のために購入した四駆のX-90だったが、皮肉なことに購入した翌年の秋に中越地震で家がつぶれてしまった。これは「妻有つまりアートトリエンナーレ」を巡ったときの写真。
↑ ショートボディ、2シーターという思いきりのいいデザイン。赤いピンストライプは、購入後すぐに自分で入れた。
↑↓ ガラスルーフは外せるが、手で外して、外した後の重いガラス屋根はシートの後ろに積んでおかないといけない。エアバッグもついていないステアリングだったので、少し小口径のウッドステアリングに付け替え。ダルかったハンドリングがかなり改善された。
オペル ティグラ
さらに趣味性が高かったのはオペル ティグラです。
これは川内村に家を買った後に「人生で一度でいいから小さなカッコいいスポーツカーに乗ってみたい」という憧れを、思いきって実現させたものです。
このときはプジョー307とX-90をすでに所有していましたから、3台持ちになりました。
これを購入しようと決めたとき、近所の修理屋さんからは「悪いことはいわない。あのクルマだけはやめなさい。故障ばかりでひどい目に合いますよ」と忠告されたのですが、そのときはもう購入を決めていました。
これも数が少ないクルマで、ネットで検索しても関東圏では3台くらいしか見つからず、その中でいちばん程度のよさそうな赤いモデル(本当はイエローのモデルがほしかった)を、これもやはり千葉の中古車屋(X-90とは別の店)まで買いに行きました。値段は確か28万円で、車検がまだ切れていなかったので、そのまま運転して帰りました。
ドアもステアリングもペダル類も全部重くて、妻は「こんなのとても運転できない」と呆れていましたが、私は幸せでした。
とにかく美しいデザイン。フロントはイマイチですが、リアのカーブは何度見ても惚れ惚れします。小型なのに運転はスポーツカーっぽくて楽しい。このクルマで阿武隈の山野を窓を全開にして走っていたときの快感は忘れられません。
しかし、修理屋さんの忠告通り、すぐに壊れるのには閉口しました。川内村に移送している途中で異音がして焦げ臭くなり、なんとかたどり着いたものの、後輪のホイールベアリングが潰れていたというお粗末。エンジンが突然かからなくなるというトラブルも重なり、最後は泣く泣く手放しました。
短い間でしたが、真っ赤なスポーツカーを田舎で気分よく運転していた記憶は、一生の宝です。
↑ 28万円で購入したオペルティグラ。「ティグラ」とはドイツ語で「虎」のこと。このスタイルだけで購入を決めた。
↑ プジョー307(左)に妻と二人で乗って千葉の店まで買いに行き、ティグラ(右)を買った後、2台で帰ってきた。そのとき、途中の首都高のPで。
↑ 川内村にも持っていき、阿武隈の道を走り回った。
↑ バックシャンなデザイン。リアピラーのカーブとガラスハッチの見事な融合が秀逸だった。
このクルマから学んだことは「楽しめないクルマはつまらん」ということです。
どんなに不経済でも、苦労させられても、楽しい思い出が作れるならいいではないか、という開き直り。
20代のときはそんな余裕はなく「荷物が運べる安いクルマ」ということしか考えていなかった私が、40代以降、どんどんクルマに楽しみを求めるようになっていったのです。
もちろん、お金があればいくらでも楽しめるでしょうが、ビンボー生活の中でも、クルマに趣味性を求めたい人は、できる範囲で、なんとか追求すればいいと思うのです。一度しかない人生なのですから。
そうした心に余裕がない人生は、幸せビンボーではなく、ただの貧乏人生になってしまいます。
無責任に聞こえるかもしれませんが、本当にそう思うのです。序章でも書きましたが、幸せは相対的な価値です。定番の解などありません。
↑↓ ティグラを買うとき、これも候補に残っていた。英国のローバー200。30万円くらいだった。渋くてお洒落で惹かれたが、どうせなら子供っぽくてもスポーツカータイプにしようということで、ティグラにしたのだった。
なんか調子にのって書いていますが、ビンボーでも「クルマ生活を趣味的に楽しむ」方法について、お金のかからないカスタマイズなどの具体例を次の項に続けます。
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