燃料調整費上限撤廃という悪夢 新電力事業者は事実上「終了~!」
怖ろしいお知らせ
ENEOSでんきから「親展」という封書が来た。封筒を見ただけで悪寒が走ったが、予感通りの内容だった。
燃料費調整制度に関し、燃料費調整額の算定に用いる平均燃料価格の上限設定を廃止いたします。
来た~!!!
すでに新電力事業者があちこちで倒産したり市場連動型に強制移行したりしているというニュースは読んでいたが、ENEOSでんきがどうなっているか、実際の請求明細を調べるのはさぼっていた。
我が家は新電力がスタートすると同時に、いくつかの新電力事業者の料金体系や信頼度を比較した上で、ENEOSでんきに乗り替えている。
東京電力の従量電灯Bという従来型の契約と比べて、年間数万円安くなった。年末には「1年でこれだけ節約できましたよ。お知り合いにも勧めてください。紹介料をお支払いします」という内容のでっかい封筒が届いていた。
しかし、今回はペラッとした定形封筒で、「他の電力会社への切り替えをご希望される場合、弊社への解約のお申し込みは不要です。お客さまにて、他社へのお切り替えのお申し込みをお願いいたします」とあっさり書いている。
もはや電力事業を継続しようという意思さえ感じられない。暗に「乗り替えたほうがいいですよ、うちとしてもそのほうが赤字を減らせて好都合です」と言っているようだ。
新電力がスタートした当時と今では何が違うのか
電力の小売り事業が自由化されたのは2016年4月のことだ。
それまではいわゆる10電力会社が担当地域で独占的に事業を展開していて、一般消費者は電力会社を選べなかった。
当時の日記を振り返ってみると、いくつかこのことに触れている記述があった。
2016年3月16日の日記。
2016年4月8日の日記。
2016年4月8日の日記にはこんなことも書いてあった。
実際、今回の新電力事業者の相次ぐ倒産や撤退、燃料調整費上限撤廃などで、このことがきれいに実証された形になった。
例えば⇒この事業者は「環境にやさしい太陽光のでんきで暮らそう」がキャッチフレーズで「燃料調整費なし」だったが、電力取引価格高騰により2022年2月に新規受付停止、9月からは燃料費調整を導入して大幅値上げとなり、従来の契約者にとっても大手電力会社との契約より大幅に割高な料金になっていて、事実上「死に体」といえる。
そもそも、2016年当時はまだ「少し高くても再生可能エネルギーを重視している事業者の電気を使いたい」などと言っていた人たちも、今はそんな余裕などないだろう。
電力自由化以降の電気料金の仕組み
電力自由化前からある東京電力での一般家庭向け契約は「従量電灯B」(60A以下)というもので、料金体系は以下のようになっている。
この「燃料費調整額」というのが曲者で、これは「燃料費調整単価(1klあたりの平均燃料価格)」によってプラスのときもあればマイナスのときもある。
新電力会社ではこの「燃料費調整額」の部分が大手電力会社の従量電灯契約より安かったため、トータルの料金は概ね安くなったわけだ。
ENEOSでんきの場合、この「燃料費調整単価」の上限は東電と同じ66300円/klに設定されていて、仮に燃料調達非が高騰して66300円/klより高くなってしまった場合は66300円で算定される。つまり「天井」が設定されている。
これは東電の従量電灯Bもまったく同じで、66300円/klが上限となっている。
我が家の過去の電気料金支払明細をチェックしたところ、ENEOSでんきは燃料調整費単価を東電と同じにしているため、今年の1月までは燃料調整費はマイナスを維持していた。
↑これを見ると一目瞭然だ。昨年1月より今年1月のほうが消費電力が9kw少ないが、燃料調整費のマイナス額が10倍違うので、トータルでは逆に4500円くらい高くなっている。それでもまだ燃料調整費はマイナス値にとどまっている。
これが9月になるとこうなっていた↓
↑今年のほうが12kw少ないが、1年前と比べて燃料調整費がマイナス952円からプラス1831円へと2783円も上がっている。冷暖房をほとんど使わずに済んでいる9月でもこれだから、真冬にはどうなるか想像するだに怖ろしい。
ENEOSでんきは、こういう確認作業を明解にできるようにWEB上にデータをしっかり残し、いつでも参照できるようにしているところがエライ。
また、東電の新料金コースはすでに燃料調整費上限を撤廃しているのに、ENEOSでんきはこの10月まで撤廃せずに持ちこたえていたのだから、相当健闘したともいえる。
しかし、ついに耐えきれず、11月1日から、燃料調整費上限額の66300円/klを撤廃すると通告してきたわけだ。
東電の従量電灯形式以外のコースでは、12月の燃料調整費は11.92円/kWhと発表されている(11月に比べて2.20円UP)。上限設定ありの場合(5.13円/kw)の倍以上だ。
これが真冬や真夏の消費電力が多い月にのしかかってきたらとてつもない金額になる。
我が家の場合、今年9月の燃料調整費が357kwで1831円だが、燃料調整費上限額の66300円/klがあるからその程度で済んでいるわけで、上限額がなければその倍くらいになっているはずだ。
円安や原油や天然ガスなど地下資源輸入価格の高騰は当分止まらないだろう。
つまりは、燃料調整費上限なしや、市場価格連動による電気料金では、電気料金の上昇に歯止めがかからない。
特に市場価格連動の料金体系は、突然電気料金が10倍になるなどという事態も過去に起きているわけで、これから先は悲惨なことになるだろう。
はっきり書いてしまえば、新電力会社はすでに「終了~!」になってしまっていると言ってもいい。
燃料費調整額上限撤廃の悪夢から逃れる方法
さて、末期症状になっている日本で、少しでも電気料金高騰による資産喪失に歯止めをかけるにはどうすればいいか。
市場価格連動型は論外だが、燃料調整費に上限を設けている、あるいは燃料調整費そのものがない契約形態に切り替えるしかない。
新電力会社の契約コースからはそういう形態が消えてしまった。現在生き残っているのは、従来の「従量電灯」契約(燃料費調整額の上限あり)か、東電の「アクアエナジー100」(燃料費調整費そのものがない)という契約コースくらいである。
「アクアエナジー100」は、「東京電力グループの一般水力発電所(揚水発電およびFIT電気を除く)で発電されたものとみなされる電気」が「お客さまがお使いになる電気の量を常時上回ることをもって、水力100%の電気とみなす」という契約形態らしい。
FIT電気というのは、再エネの優遇を受けて高額で買い取られている電気のこと。そういう不公平な電気ではない、従来型の水力発電からの電気だけでまかなうと「みなす」というわけだ。
もちろんこれはあくまでも計算の上でのことで、実際に水力発電からの電気が分離されて契約者のもとに届くわけではない。しかし「みなす」と言う以上、このコースの契約者による電力消費量は従来型水力発電の発電量より少なくなければいけない。つまりは、現在の水力発電による発電量を超える契約はしないということになるはずだ。
水力発電からの電気だけでまかなうと「みなす」わけだから、当然「燃料」を使っていないことになり、燃料調整費も存在しないことになる。その分、基本契約料が高く設定されている。
従量電灯Bか「アクアエナジー100」か?
東京電力管轄地域以外の電力会社では「アクアエナジー100」のような契約コースはないので、燃料調整費上限のある従量電灯形式に戻すしかない。
東電の「アクアエナジー100」と従量電灯Bでどちらが安くなるかの分岐点を現在の燃料調整費単価上限価格5.13円/kwで計算すると、
30A契約で使用電気量が300kwの場合:
従量電灯B:858+19.88×120+23.83×180+5.13×300=858円(基本料金)+6675円(使用量料金)+1539円(燃料調整費上限)=9072円
「アクアエナジー100」:1683円(基本料金)+23.83×300(使用量料金)=8832円
これに加わる再エネ賦課金は同額なので、概ね300kwを超えて電気を使っている家庭では、基本料金がおよそ倍であっても「アクアエナジー100」のほうが得であるということになる。
これが燃料費調整上限がなくなって、例えば10円/kwだとすれば、300kwの燃料調整費は3000円になる。
ENEOSでんきが東電と同じ燃料調整費上限額(5.13円/kWh)を設定していた間は従量電灯BよりENEOSでんきのほうが安かったが、今月からはそうではなくなる。
これを避けるために、目下、新電力で契約している人たちの多くが従来の従量電灯Bに契約を戻しているが、なぜか東電では従量電灯方式への変更はWEBでは受け付けず、電話での申し込みのみらしい。少しでも受入数を減らしたいということなのだろうか。
……というわけで、現在のところ、新電力や10電力会社の新料金コースから乗り替えて燃料高騰の悪夢から少しでも逃れるには、従量電灯か東電の「アクアエナジー100」の二択となる。
「アクアエナジー100」はコースの設定趣旨からいって今後燃料調整費を導入することはないと思う。しかし、現在一律23.83円/kwの従量料金を値上げすることは十分に考えられる。そのへんが落とし穴だろうか。
将来、燃料費が昨年以前のレベルにまで下げ戻った場合も、従量電灯Bより割高になる可能性があるが、今の世界情勢を見れば、おそらくそんなに甘くはない。
東電が「アクアエナジー100」の新規契約を打ち切るのは時間の問題だろう。
我が家では即対応したが、まだまだこの仕組みを理解できずにグズグズしている家庭が多いと思う。
気づかないうちにとんでもない電気料金が引き落とされているなんてことにならないよう、今すぐ真剣にチェックしたほうがいい。
最後に付け加えておきたいのは、こういう事態を招いた要因は何か、ということだ。
燃料が高騰しているから仕方がない……ではない。
燃料に限らず、輸入品の暴騰や極端な円安を招いたのは、盲目的な米国追従の対露制裁参加や、経済政策の失敗、包括原価方式や再エネ賦課金などの利権まみれで詐欺的な国内エネルギー政策の結果である。
新コロ騒ぎによる悪政で税金をどぶに捨てたことも響いている。
こういう危機を少しでも回避するためにうまく立ち回るのが政治の役割ではないのか。
この冬、ヨーロッパがどういうことになるか、しっかり見ておく必要がある。日本がエネルギー危機地獄の西欧諸国を後追いする義理はさらさらないはずだ。