なんのためのポリシー
ポリシーが何のためにあるか考えたことはあるだろうか。単なるアピールや社内統制のためにあると思っている人が大多数だと思う。
しかし例えばポケモンを遊ぶときにも自然にポリシーができあがる。レベル上げをしてからボスに挑む人もいれば、果敢にチャレンジして勝つまで負けるという方針でゲームを進める人もいる。これも立派なポリシーで、ポリシーによってゲームの進み方、結果に大きく差が出る。
つまりポリシーはがんばって作るものでもPRのために作るものでもなくゲームとプレイヤーがいると自然発生する。
戦略立案は自然発生するポリシーを人工的に設計しようとする行為だし、逆に言えばポリシーなき戦略はありえない。
ゲームとプレイヤーがいればポリシーが自然発生するということは、社会のゲーム的側面に接しているどの集団にもポリシーがある。日本のポリシーは外交というゲームで生まれた日本国憲法だし、会社にはビジネスで生き抜くための行動規範がある。
実は社員もあまり意識していないが例えば「SONY 規範」とかでググるとちゃんとPDFが落ちてる。ちなみに社則は別にあり基本的に公開はされていない。
少し見てみよう。
ソース:ソニーグループ行動規範(PDF)
全体は37ページあり7項目の大きな方針に対して小項目が設定されている。それぞれの小項目に詳細な説明があり、具体的な事例を挙げて該非判定をしている。
ポリシーの策定の主なメリットは2つある。ひとつは判断の加速。人間や集団が迷うときは経済的合理性よりむしろ「何を重視すべきか」という価値観の問題で判断が遅れる。ポリシーは価値観を示すことで判断を加速する。もう一つは信用と責任の確保で、ポリシーがあると予測可能性が上がるのでliable*1であると言える。
変な話だが、経営者ならこれがいかにリスクかわかると思う。ポリシーを示すことは自縄自縛に陥る可能性を高めるだけでなく、これ以外のことを「軽視する」決断をすることになる。
例えばp.13には報復人事をすると懲戒されると規定されている。ストレートに見れば公正な規則に見えるが、これは同時にアグレッシブな仕事を軽視する決断でもある。
楽天的な見方をすると「報復人事を禁止することはアグレッシブさと相反しない。アグレッシブな姿勢も崩さず市場開拓をしてく」という戦略だと捉えがちだが、海千山千を超えてきたSONYの幹部はそんな都合の良い選択肢は存在しないことを知っている。
ベンチャー企業であった創業期のSONYには「自由闊達」という有名なポリシーがあった。事業を急成長させようと思えば(ベンチャー企業が得てしてそうであるように)過激とも思える独裁体制を敷く必要がある。自由闊達よりも懲戒規則が示されると当然萎縮せざるを得ない。倫理か好戦かというトレードオフの中で倫理をとるポリシーを示した。
取締役として招聘されるプロフェッショナルなら必ず会社のポリシーを見るだろう。何に力を入れているかよりむしろ、何を捨てるかを見る。成果を出してきたシニアは社内政治を生き残った猛者が多いので「報復と見做される人事をすると懲戒される」とポリシーに書くのは悪い方向に見れば「猛者お断り」であり、経営推進力を削ぐ結果になる。
無論SONYはポリシーを示すリスクをとってもメリットがあるからポリシーを示している。上司や会社がどの方向に進むか予測できれば入社も転職もしやすい。
経営に携わった人間ならこのポリシー策定に相当なコストがかかっていることがわかっているので、単なるアピールではなく「なるほどSONYは急成長事業を諦めて企業の盤石さをとる戦略をとったのか。となると急成長するAIのドメイン特化型大規模マーケットには不向きだ」という判断ができる。
つまりポリシーは戦略を反映している。ハードで勝ち進んだアセットがあるものの、ソフトウェアの時代では後塵を拝し、AI戦略も見えてこないという環境で様子見という戦略をとっているように思える。同じゲームをしていれば最適戦略が似るため、世界的メーカーであるパナソニックとソニーの行動規範はかなり似ている。
ポリシーがゲーム性から発生する以上、どっちも取るということはできない。ゲームとはそういうものだし、だから面白い。イーブイをどのポケモンに進化させるか考えるからゲームなのであって、進化を巻き戻せたり無限にイーブイが出てきたら面白みがない。どっちをとるかを決める指針がポリシーなのだから、ポリシーは同時に何を捨てるかの基準になる。
*1 liabilityとは公的な責任、主に法律の責任(とその履行能力)を示す言葉であるが語源はligare(束縛される)となっていて、ドキュメントに準じた行動をとるという意味。
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