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会社のストーリーに寄与しない小型開発の価値を検証する

こんにちは。STORES 株式会社にてプロダクトマネージャーをしているtanukinです。
STORES 株式会社では STORES Advent Calendar 2023 を展開しており、その中の12/05(火)分の記事となります。


課題提起

会社としてプロダクト開発をやっている以上、開発するものは会社の語るストーリーの影響を受けます。
多くの場合、会社が語るストーリーは大きくなりがちで(そうでなければ`会社`という単位でやる意味がないので)、伴い作り上げるもののスケールも大きくなっていきます。

こういった状況になると、大きなストーリーとリンクしない、小さな要求・小さな開発というものが動きにくくなりがちです。
ストーリーとリンクしない要求にも対応してあげたい...そういう気持ちがある一方、そこにリソースを差し向けて良いのか悩ましい...となるのはあるあるかと思います。

  • ストーリーとリンクした大きな開発よりも優先すべきことなのか?

  • ROIは出るのか?

    • 実行だけでなく、基本路線の開発を差し置いてこれをすることの合意をどこまで取ることも含めてROIは出るのか?

  • そもそも勝手にやって良いのか?

    • もし意味のない開発だった、となったら...?

  • etc...

このような不確実性の不安に苛まれ「一旦小粒案件は流してしまうか...それより本流の案件を考えなければ」となるのはよくあることです。

さてこのような意思決定がよくあることと書いた一方で、それが適切な意思決定だったのか、と言われると疑問符がつくところです。
上記のような思考回路は明らかに「意味がないからやらない」のではなく「わからないからやらない」というそれです。ROIが出ないからやらない、という状態ならともかく「わからないからやりません」は流石に通用しません。

この記事では上記のようなわからないへの参考資料として「 STORES の一部組織で会社ストーリーに寄与しない小型開発を実際にやってみた結果こうだったよ」という事例紹介になります。

もちろん正確さを期すのであれば、各自が抱える個別案件ごとに詳細を考えるべきですが、この記事ではそういった個別の特性については言及せず、まずはざっくりと「実際にやってみた」とその結果を共有する形で小型案件に手をだす価値を考える参考資料になればと思っています。

(この時点で怪文書になる予感がプンプンしていますが、気にせず進めます)

なにをやった

STORES 株式会社ではいくつかの開発グループが存在しており、そのうちの1チームでやったことの話をベースに考えます。

このグループでは以下2つのミッションを持っていました。今回の話では後半のミッションが特に重要になってきます。

  • 会社ストーリーに沿った大きい開発の一部を担当すること

  • 小粒のビジネス現場の要求に素早く対応すること

小粒のビジネス現場の要求とは例えば以下のようなもので、プロダクト開発の大きな方向性に寄与はしないが、目の前のビジネス課題への対応にはなる、といったものです。

  • XXというKPI向上を目的にこのバナーをこの位置に出したい

  • LP経由の機能利用ユーザー数の向上(CVRの向上)のためLPのデザインを変更したい

このようなミッションのもと、このチームでは4~5ヶ月ほどの活動期間を通じて、大小35個ぐらいのリリースを行いました。
これらの活動は個別あるいは総体として価値がある(十分ROIがある)ものになるのでしょうか。

結果どうだった

それぞれの詳細は流石に書けない&一つ一つのROIの判断基準がバラバラなので、一旦自分目線でROI良かった悪かった仕分けをしてみます。

$$
\begin{array}{|c|c|c|c|c|} \hline
 & 微妙だった & まぁ妥当 & コスパ良い & コスパ最高 \\ \hline
件数 & 2件 & 28件 & 4件 & 1件 \\ \hline
\end{array}
$$

このように結果になりました。
結果の解釈として言いたいことは主に二つ。

ほとんどが無駄にならない

微妙だった2件(6%)を除き、ほぼ全て(94%)が"まぁ妥当"以上に収まっています。ほぼ全てのPJが少なくとも無駄にはならない、という結果でした。なぜこうなったのでしょう?個人的にはこれは小型開発であることの恩恵を十二分に受けた結果だと解釈しています。

小型開発はサイズが小さいのものあり、結果が予測しやすいです。
そのため「これはやってもROI悪いかも」というものも弾きやすく、手を付ける案件のほとんどが「まぁ妥当だよね」以上の結果に収まり、「やる意味がなかった・微妙だった」というものがほとんど発生しませんでした。
"微妙だった"の2件はPJの中でもサイズがかなり大きかったもので、要求・開発物に対してもう少し細やかな分割・選別が出来ていればコスパの良いエリアに収める or コスパ悪いから撤退するを早めに判断できたかもしれません。

たまにとんでもないお宝が隠れている

これは本当に宝くじを引くようなものだと思いますが、尋常でなく高いROIに収まったPJもありました。
詳細は省きますが、あるPJでは経営マターのKPIの日当たりの伸びを2~3倍にできました。これが(検討含め)1人日かからない工数で実現されています。KPIの重要度も含めて考えるととんでもない話です。
このPJ以外にも4件ほど「あ、この投下リソースでそんな良い結果が返ってくるんだ...」となる"コスパ良い"案件もあり、数は多くないですが予想外の上振れが見受けられました。
このようなお宝案件が眠っている、ということがどんなプロダクトでも共通する事象かどうかはわかりませんが、少なくとも STORES においては35件もこなせば5件(14%)ぐらいは良コスパPJを引き当てられており、思ったよりお宝があるのだなぁという所感です。

結論

会社のストーリーに寄与しない小型開発をやることに価値があるのか分からない、という問いに対して、「実際にやってみた」を通して一定のアンサーを提供するのがこの記事の趣旨ですが、結論としてはおおよそ以下のような回答になるんじゃないかと思います。

価値がない or 無駄な活動になる、ということはほとんどない

前述の通り、ちゃんと"小型"といって差し支えないほど分割できていれば、無駄になることはほぼないと言って良いと思います。少なくとも「無駄になるかもしれないから」という理由で放置するのはもったいなさそうです。

予測通りな(妥当な)ROIが出るのが基本で、たまにとんでもない上振れがある

小型案件はたまにとんでもない上振れを引くことがある、と...一般化できるほどの理屈は見出せていないですが、少なくとも今回はそういう結果になりました。
ただ個人的には一般的なものであると捉えても良い気がします。
上振れに対する人間の予測能力は大したことないと思っており、こう言った当たりの存在に気づいていない、それを引くのは手を動かすしかなく、小型開発のように大量にPJを回せる環境であれば回しまくった結果一部で当たりを引く、という事象は普通に起こり得そう(一般化できそう)だという所感です。
前述の無駄になることがほぼないということ合わせて考えると、小型案件開発は`S以上確定ガチャ`みたいなものかもしれません。

やるべきかやらないべきか? => やるべき

ハズレが無くて(投下コスト分は保証されて)、たまに極端に上振れするガチャがあるんですが引きませんか?といわれたら...そりゃ引くでしょという話で、やれるならどんどんやるべき、というのが自分の結論です。
ハズレが(ほぼ)無いのが良いですね。

会社のストーリーを無視していいわけじゃない(超大事!)

会社のストーリーに寄与しない小型開発”"やる価値があると言ってるだけで、ストーリーを無視していいわけではありません。あくまで本筋は会社のストーリーの達成であり、あくまでそれ以外の小型開発はサブであることを忘れてはいけません。

外れない宝くじだとおもってチャンスをねらっていきましょう

総論としては、小型開発は外れない宝くじだと思って、本筋の開発の隙間や並行しての開発が狙えるのであれば積極的に狙うべきものという整理かと思います。

おわりに

会社のストーリーに寄与しない小型開発に価値があるのか?という問いへのアンサーとして、実際にやってみた結果とその解釈を返すという試みの記事でした。

最初にも書きましたがこの記事は STORES 株式会社が展開している STORES Advent Calendar 2023 の中の1記事になります。他の記事もぜひ読んでみていただけると嬉しいです。

あと個人的に今期面白そうと思っているアドカレを紹介して終わろうと思います。3rd. Party Cookieについて全25回に分けて解説しているアドカレで、Cookie周りがあんまりよくわかっていない自分には大変重宝しています。

以上になります。お読みいただきありがとうございました。


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