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第二回偽物川小説大賞最終ピックアップ

 やあ皆さん、死を忘れてませんか?(挨拶)当初の予定通り11月末をもって無事募集の方は終了いたしました第二回偽物川小説大賞、三次かつ最終のピックアップのお時間がやってまいりました。

 御参加をいただきました45作品の中から大賞以下各賞を決めるべく、今各評議員が鋭意作業を進めているところなのですが、まだ時間はしばらくかかるかと思いますので、一ヶ月ぶりにピックアップをやろう、ということにしたわけであります。

 一次と二次のピックアップは各三本でしたが、二次から参加作品数が二十以上増えておりますので今回は五選でいきます。ちなみに、前にも説明したと思いますが、ピックアップはきょうじゅが一人で独断で選んでおります。著者名は敬称略。

水竜の涙 三谷一葉

 和風な感じのする異世界を舞台にしたダークファンタジーです。主人公の女が「水竜」なる存在へと生贄に捧げられることなった、というところからストーリーが起こされます。ファンタジーとは言うものの、幻想譚めいたところは少なく、何というかひんやりとして肌触りの冷たい物語です。その理由は物語の後半に明かされます。水竜が涙を流すのは何故か。主人公の女が生贄に選ばれたのは何故か。その二つが実は通底するところにあり、二人の共鳴は読者の予想を裏切る結末をもたらす……と、ここが話の肝要なところなのですがネタバレになるので伏せましょう。物悲しい、それでいてぬくもりも感じさせる、良い作品でした。

ゴロちゃん先輩が死んだ  鈴野まこ

 まず、今大賞のテーマである「死」を率直に受けたタイトルですね。ゴロちゃん先輩なる人物が死んだ。その「ゴロちゃん」と呼ばれていた女性の人物像を掘り下げていくところにこの作品の主軸は置かれているのですが、ゴロちゃん先輩は必ずしも「魅力的な人物」ではありません。むしろ、語られれば語られるほど胸が痛くなる、何かこう、痛々しい、聞かされるのが辛い人物像を持ったキャラクターです。しかしそうでありながら、あるいはそれ故に、この作品には引き込まれるものがあります。「こういう人、実際にどこかにいそう」というリアリティの強さがあり、ゴロちゃん先輩に対する物語の語り手の心情も頷かされるものがあり、という。総合すれば、なんとも言えない満足とも寂寥ともつかない読後感の残る作品でした。

思い出を噛む 神崎 ひなた

 ゲロです。おもむろに主人公がゲロを吐きます。そこから始まる短い掌編です。そんな導入なのですが、何故だかそれが心を掴むのです。主人公が嘔吐したことに哲学的な理由などがあるというわけではなく、単に酒の飲みすぎなんですが、問題は「なぜ彼は酒を飲みすぎたのか」ということです。流石にネタバレを回避するともう何も書けないので書きますが、愛する妻を亡くしたからです。それ以上何か特別な出来事などがあるわけではなく、構造的には非常に単純明快といえる掌編なのですが、それでも読み手の心を打つ力を持っているのは、ひとえに書き手の筆さばきの巧みさによるものでしょう。

タキシードミー・マーメイド 富士普楽

 タキシードミーというのは、服のタキシードやイヤミの一人称とは無関係で、Taxidermyという一つの単語であり、簡単に説明すれば剥製のことです。マーメイドは普通に人魚のことです。この不思議なタイトルが、物語の上で非常に重要な意味を持ってきます。人間には魂がある。魂があるが、それは人間の構成要素の一つであるに過ぎず、永久不滅のものではない。魂は、人魚になることがある。人魚となった魂は、美しく空を舞う。あまりにも美しいため、剥製にして観賞用に保存しようとする存在がいるほどに……。そういう世界観のもと、死によって引き裂かれた二人の少女の物語を描きます。事故死したひとりの少女が人魚となり、もう一人の少女は「渡し守」を名乗る存在に、君も人魚にならないかと誘われる。それに対して少女は、というところまで書いて紹介を終えます。この先はぜひ、ご自身の目で確かめてみてください。

透明の指輪に口付けを 2121

 これは皆さんに紹介したいから五選に加えたというより、「きょうじゅが個人的にすごく好きな作品だった」ということを言いたくてここに書き加えています。作品としては、神様と人間、交わらざる二つのものの報いられない両片思いの物語です。このタイトルがね、ラストシーンに繋がってるんだけど、そのシーンが切なくて悲しくて美しくてもどかしくて凄く、凄くいいんですよ……。良かった。さて、もうちょっとはまともな紹介をしましょう。割と自然に人と神が交わって暮らしている、現代ファンタジーの世界観構造の作品です。神社に男女双子の神様がいて、主な登場人物は男の方です。人間の女の子が、神様に恋をして、眠っている神様の手に落書きをします。油性のマジックで、指をぐるっと取り囲むような線を。そう、「指輪」です。こんな愛の告白の仕方初めて見ました。いい。


 さて、というわけで第二回偽物川小説大賞、最終ピックアップをお送りいたしました。流石にこれ以降は、大賞・講評発表までイベントはありません。おそらく、これから二週間以内くらいにはお届けできるかと思いますが……(遅れそうならツイッターなどでまた告知します)、どうぞよろしくお待ちください。では。



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