第四回偽物川主催者ピックアップその3
夏が夏過ぎてもう文句を言う元気もないこの頃、みなさまいかがお過ごしでしょうか。こちらは北海道ですのでそうはいっても気温そのものはいま24度とかなんですけど、何しろこちらは北海道ですのでエアコンというものがなくてね……げっそり。
開催期間もぼちぼち後半戦というか終盤戦に差し掛かりつつある第四回偽物川小説大賞、きょうは3回目のピックアップでございます。今回はテーマとかそういうのはないです。前回よりあとにエントリーされた作品の中から、個人的なおすすめを紹介してまいります。例によって作者名は敬称略です。
有閑ムッシュと春の朝 クニシマ
男性同士で親友同士である二人の老人が、互いに死の床にありつつ、穏やかに人生を振り返る感じの穏やかなブロマンス的小品。なんですけど、今回は何しろ「愛をテーマにした小説」というお題の企画ですので、その構造がその構造ゆえに非常に強力なブローとなって効いている。そういう感じの作品です。ブロマンスってなかなか見かけないジャンルだし、個人的には書こうと思ってもなかなか書けるものでもない難しいお題なんですけど、老境から振り返ってブロマンスをやる発想には「一本取られた」と思いました。
Le Songe d'Ossian 中田もな
説明不要の人類史的英雄、ナポレオン・ボナパルトの生涯を題材に取った、非常に重厚な力作です。私も知らなかったんですけど、スコットランドの伝説的な詩人でオシアンという人物の言い伝えがあるのだそうで、その人物とナポレオンとの不思議で複雑な絆が物語として紡がれます。長さ自体も一万四千字超で比較的長めではあるんですが、しかしそれ以上の「重さ」を感じさせられる筆さばきがあり、一読三嘆という感じでした。主催者である私的には今のところ、参加作品全体の中でも頭一つ抜けているという評価です。
雲間の月と知りぬれば 佐倉島こみかん
前回つまり第三回偽物川小説大賞で銀賞を受賞している佐倉島こみかん氏の参戦です。これもいわば歴史系ですが、こっちは日本。平安時代前期、つまり源氏物語よりはちょっと前くらいの時代、六歌仙のひとりとして知られる文屋康秀という実在人物が主人公。六歌仙でとくに有名なのは在原業平と小野小町の二人なわけですが、彼らも重要な形で物語に関わってきます。ヒロインは架空の人物だそうですが、小野小町の血縁者でなおかつ彼女を姉のような存在として慕う女性で……と、あとは読んでのお楽しみですが、登場人物の感性と心性の非常にクリアな描き出し方、流石の手腕という感じでございました。
というわけで、第三回ピックアップはこれで終わりです。少なくとも第四回はまだありますので、またそのときに。