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爆弾の作り方
とある警察署に一通の封書が届いた。
「何ですかね?これ」
新しく配属されたばかりの青年警官が、ベテランの上司に尋ねる。
「さぁな。ロクなもんじゃないさ、どうせ」
封書を一瞥し、めんどくさそうに上司は答えた。封筒には、差出人の名前がなく、あて先もこの警察署の住所のみで、特定の人物や係に向けられたものではないらしい。
「なんでわかるんですか?」
「記憶力はいいくせに、察しが悪いなお前は。」
「勝手がわからないだけですよ。慣れれば役に立ちますから。で、なんなんですか、これ」
上司の嫌味をひょうひょうとかわし、封筒を光に透かす青年。
「十中八九、一般市民からのありがたいお言葉だよ。感謝の言葉とかお礼とか。まぁほとんどは苦情だな。最近じゃメールとかホームページから問い合わせが出来るから、めっきり減っちまったがな。昔は多かったんだよ、そういいうの」
「へー。じゃあ開けてみてもいいんですか?」
「ああ。けど気をつけろよ。脅迫状とか犯行声明の類ならまだいいが、過去にはカミソリとかナイフやらが入ってたこともあったからな」
「はーい。触った感じ、紙しか入ってないっぽいですけどね」
封筒を丁寧に開けて中身を取り出すと、中には2枚の紙が入っていた。1つは、何かの設計図のようなものであり、もう1つには「爆弾」という2文字だけがでかでかと書かれていた。
「うわっ、ホントに犯行声明じゃないですかこれ」
爆弾の文字にギョッとすることもなく、取り出した紙を上司にみせる。
「んー?なんだこりゃ?…ただのいたずらだろ」
上司は2枚の紙を適当に確認して、青年につき返した。
「いいんですか、ほっといて?」
「そんなもんに付き合ってたら、警官が何人いたって足りねぇよ。」
「マジもんのテロかもしれないじゃないですか」
にやにやしながら青年が問う。あきれた上司がめんどくさそうに続けた。
「別に実物が入ってたわけでもないし。犯行声明だとしたら要求もなきゃ犯行の内容も書いてない。おまけに2枚目を見てみろ。」
「設計図ですか?」
「ああ。ただの箱だろ?爆薬も火薬も使われてないし、信管になる部分もない。それにその完成図。そんな密閉された状態じゃ、仮に火がついたとしてもボヤになるかすら怪しいもんだ。それを爆弾って言うんなら、この世は爆弾だらけだな」
「間違いないですね」
確かに上司の言う通り、設計図の内容はお粗末なものだった。
材料は6枚の板と釘、そして折り紙だけ。折り紙の折り方は非常に詳細に書かれていたが、完成形は見たこともない異様なものだった。そしてその折りあげたものを閉じ込めるように板で立方体の箱を作る。箱や釘の寸法などは、一切指定がされていなかった。
この一件はこれ以上話題になることもなく、封書は一般の投書と共に適当な場所に保管された。
しばらくして、上司の元にとある知らせが入った。それは例の青年警官が意識不明の重体で入院しているとのことだった。原因は自宅での火災。事故としてすぐ処理されたようだが、いくつか不審な点があったという。
アパートの彼の部屋以外には、一切の損害が出ていなかったこと。
彼の部屋からは、出火の原因となる火器が一切見当たらなかったこと。
そして、ほとんどすべての家財が焼け失せたというのに、不自然にも一枚の折り紙が焼け残っていたということだ。