見出し画像

『富士日記』上 武田百合子 文藝春秋

 数ヶ月前、新聞で武田花さんの訃報を知った。

 富士日記の愛読者である私は、心にぽっかり穴が空いたような気持ちになった。

 私の中で、武田花さんは百合子の娘の花子であり、いつもは寮のある学校に通うが、休みには富士山麓荘に来て、たまに一緒に日記も書いたりする10代の女の子なのである。
いつまでもそんな気がしていた。

 富士日記の中では、花子はもちろん、百合子も夫の泰淳も(飼い犬のポコも)、大岡ご夫妻も、外川さんも、良い所も悪い所も、生き生きと書かれている。その描写が魅力の一つなのだろう。

 何度読んでも、ハッとするような、きらりと光るような一文があり、それもまた魅力だ。

気に入った箇所に付箋を付けているのだが、同じ所でハッとしたり、別の文章にハッとしたり…。

別の所にハッとした時は、こんな所にもすごい文章があった!何で前は気が付かなかったのか!と嬉しいような、悔しいような、得したような気持ちになるのだ。

 たくさんの人が富士日記を読んで、様々な感想を書かれているだろう。
私も感想を、と思ったのに、その魅力を文章にしようとすると、何だか難しい。

 ただ言えるのは、富士日記という本に出会えたのは、幸せな事だということだ。

いいなと思ったら応援しよう!