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グローリアス。

 カテドラル。
 大きなステンドグラスが陽の光を受けて、赤を基調とした美しい教会画を床に映している。

 静かな時間。
 私以外には誰もいない。
 クリスマスは終わった。
 聖母マリアがキリストを産み落とした日。
 その日から新しい何かが始まってゆくなんてその時は誰も想像してなどいなかったはずで、これからの歴史を変えてゆく人が生まれた時もきっと誰もそのことに気づく人なんていないはずで。

 人気のない大きな教会の中で温かな冬の光を受けながら私はただこの今の時間を味わい佇んでいる。
 心許ない今の自分に与えられた何もかもに向き合う勇気をもらえたらいいなとは思うけど、そんなことよりもこの今の静かな時間を歓びに変えて自分を鼓舞してあげることの方が大切なような気もしている。

 静かな時間に思うのは子どもが幼かった頃の笑顔と寝顔。
 私にとって何よりも大切な宝もの。
 そして今、私は新たな決意を胸に新しい自分を創っていくことを自分自身にもう一度伝えたい。しっかりと。

 痛みより慈しみを。
 苦しみより大事な思いを。
 私は自分に言い聞かせて新しい自分の世界を作りたい。
 作りたい。

 生きていることの歓びをもう一度取り戻したい。
 絶望はもう手放して不幸とは決別して。


 カテドラルの白い壁にステンドグラスのかたちが映る。
 緻密なのに堂々としているそれに目を見張り、感動し、時間を忘れそうになる。

 美しいものの力をあらためて実感し、そこから新たな自分を生きるための力をもらえたらいいなと思う。

 信仰なんて持たない私に神様は福音を与えてくださるのだろうか?

 太陽の光は燦燦と降り注ぎ教会を温めて窓から差し込む陽の光は白い壁を光らせて座席を照らしステンドグラスの教会画を輝かせ床や壁に映している。

 毎日の喧騒から離れてこんなに静かな時間を過ごすことができるなんて本当に夢のよう。

 うっとりと見惚れていると時間が過ぎてゆくのをすっかり忘れてしまいそうになる。

 天国はここにある。
 そんな言葉が浮かんできてものすごく不思議な気持ちになってしまう。

 ありがとう。
 涙が浮かぶ。

 生きていること。
 今の時間をここで過ごせていることに感謝して日頃の思いを流したい。

 幼い子供の笑顔と寝顔。
 そして今、新しい自分に向かって行くことに躊躇せず前を向きたい。

 苦しみも痛みもいつだってある。
 そんな風に生きていても苦しみも痛みもある。
 だからそれから逃げないで前に向かって行くことを決意して進みたい。

 愛している人に尽くせる自分になりたい。
 大切な夢を叶えて生きてゆきたい。
 そうして自分を大事にしたい。
 大切にしたいのだ。


 苦しみも痛みも過去に置いておいて未来に向かていくことをあらためて決意する。

 人気ない暖かなカテドラルはそんな私を何も言わずに受け止めて何も言わずに見つめてくれている。


 外と内。
 内と外。
 何もかも呼応しながら息をひそめて存在している。
 静かなままで何も言わずに。

 グローリアス。
 生きていることそのものを受け入れて生きてゆきたい。
 生きていることは恵みだと思えるように生きてゆきたい。

 空っぽのカテドラル。
 空っぽの私。
 二つとも空っぽだから沢山のものを入れられる。
 人もものも何もかも。

 グローリアス。
 新しい自分。
 見つけられたらまた来ます。
 神様どうか見ていてください。

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竹原なつ美
ありがとうございます。 嬉しいです。 みなさまにもいいことがたくさんたくさんありますように。