大切なもの。 大切な思い。
君とはぐれてしまってもうどれくらいの時間が過ぎたんだろう?
君に会えなくなってからも僕の時間は駆け足で止まらずに過ぎて行き振り返っている余裕もなく前へ前へと過ぎてゆく。
川の流れのようだ。
戻れない人生を僕たちは生きている。
もうじき大きな海に届いて、たくさんの目には見えないものたちと一つになってしまうのか。
それとももう少しだけ自分という川の流れをつづけることができるのだろうか。
海風が吹くこの場所でずっと前に君と一緒に歩いたことを僕は今思い出している。
君はまだ少女の面影をまとってあどけなさの残る顔で爽やかに笑っていた。
その顔を思い出すと僕の胸は今も張り裂けそうな気持ちになる。
忘れることなんてできない。
大切な想い出なんだ。
君と会えなくなった時今僕がこんなにも君のことを思って苦しみ続けているなんて考えもしなかった。
本当に何でもない出会いと別れなんだとさらりと忘れる気持ちで。
だけど、でも。 どうしてなのかわからないけど今も君を忘れることができなくて苦しんでもがいている。
振り返って見たところでそこにはなんにもありはしない。
ただ一人ぼっちの自分の影がひっそりとたたずんでいるだけなのだ。
夕方のオレンジ色の光りの中を家に向かって歩いている。
この時間、こんなふうに歩くのはもういつぶりのことだろう?
ちょうどいい風が吹いている。
冷たくもなく、ぬるくもない。
心地よいということばが自然に浮かんでくるような風。
小さな子どもが何人かで向こうに走り去っていく。
風に髪をもてあそばれながらオレンジ色の光りの中を家路を急いでいるのだろうか?
その頬の輝きを本人たちは知りもせず、未来に向かってまっしぐらに走り続けていくのだろう。 今の自分のしあわせに気づくこともないままで勢いよく成長して、振り返ることもせずに。
そういう時がいつか僕にもあったことさえ忘れてしまっていた。
毎日は平坦で、でも何か悩みはあって、ジタバタとするうちに時間は過ぎてしまうのだった。
君に会いたい。
いつもそう思っている。
どんなことをしていても。
君を忘れることなんて絶対にできなくて。
不器用な君はいつも何かにつっかえていた。
するすると前に向って行けない君を歯がゆい思いをしながら見つめていたのが僕だけじゃないこともわかってはいたけれど、それでも僕は君のことを気にせずにはいられない。
どうしてなんだろうか?
自分でもわからない。
どうしてこんなに君のことが好きなんだろう?
説明のつかない気持ち。
そういうものがあるなんて考えもしなかった。
風は吹き続けている。
薄くて細い雲が夕方の暮れ行く空にすっと浮かんで今日一日にお別れをするようにみんなのことを見下ろしている。
今日の日も終わって行く。
カラスが二羽鳴きながら向こうの方へ飛び去って行く。
帰る場所を目指して
見あげると夕暮れはもう濃い藍色に変わり始めて夜に向っているのが見えた。
この空の向こう側で絶え間なく輝いている沢山の星たちを見ることができる時間が近づいている。
君もどこかでこの空を見あげているの?
いつかまた必ず会おうね。
そしてありがとう。
心からそう思うんだ。
本当に心から。