しずかに暮れていく夕べ(マラソン17日目)
「おばあちゃん、どうしてお手々もお顔もしわしわなの?」
花子の言葉にどきんとする.
花子にとってのひいばあちゃんのみつさんはにっこりと笑ってこう言った。
「ふふふ、そうねぇ、ばあちゃんねいろんなことがあった時気をもみすぎちゃったの。だからねこんななっちゃったのかな?
花ちゃんは気をもまないようにして歳をとってね」
「きをもむって?」
花子はよくわからないようで、きょとんとしている。
まだ歩き始めたばかりなのに花子は巧みに話せるようになっている。
女の子は早いというけれどほかに子どもがいないのでわからない。
太郎の時のことは離れて暮らしていたし、一年に2,3度しか会う機会がなくてよく覚えていない。
話すのが早いのも考え物だと思うのはこういう時だ。
主人の実家にやって来たのはもう何か月振りのことだろう?
仕事の都合でほとんど一緒にいることができない主人と久しぶりにここに来ている。
仕事の疲れが出たと言って主人は眠っている。
ここまでくる間も疲れた顔をしていたので仕方ないのだけれどわたっしにとっては完全にアウェイだから本当はおういうのは困ってしまう。
起きていて欲しかった。
花子は無邪気に素直にその時思ったことを話してしまうから、時々ぎょっとする。
「子どものいう事だから」
みんなそう言ってくれるのだけれど、そういう訳にもいかないこともある。
困ってしまって窮屈な顔をしている私にみつさんは、
「花ちゃん、本当にこんなに素直に育ってくれて嬉しいな。けいちゃんのおかげだね。ありがとう」と言って、手をギュッと握って」くれた。
その手はあたたかくて、やわらかくて力強かった。
「弘樹がなかなか一緒にいられなくて大変だと思うけど、よく頑張ってくれてて安心してるの。本当にありがとう。頑張りすぎちゃだめだよ。ちゃんとみんなに頼ってね」
優しい言葉、優しい笑顔。
なぜだかわからないけれど泣いてしまった。
つかれていたのかな?
花子はそれを黙ってみていた。
ガタン。
大きな音がしたので振り返ってみると、花子のじいじとばあば。
主人の両親が立っていた。
足元に大きな段ボールの箱。
新聞紙でくるんだ野菜が沢山入っている。
「けいちゃんたちが来てくれたから畑に行って取ってきたの。重たくて悪いけど、持って帰ってくれると助かる。取れ過ぎちゃって困ってたから」
主人の両親は優しい。
おばあちゃん、花子にとってのひいばあちゃんも優しい。
だから主人も基本的に私には本当に優しい。
でも、それでも、やっぱり自分の実家のようには行かない。
気を遣う。
にこにこと笑顔は作っているけど、本当は少し緊張している。
それを知ってか知らずかここに来る時と帰ってから少しの間主人は優しい。
花子を両親に見せたい、後おばあちゃんにも。
そういう気持ちが強くあるということはずっと感じている。
決して言葉にはしないけど。
花子は無邪気にふるまって、みんなを喜ばせている。
その姿はずっとずっと前の私自身にもつながる。
だから花子にとってここに来るということは大切なことなのだ。
私にとっても別の意味で。
ここに来ることで私は主人との生活を滞りなく過ごすための何かを補給しているようなそういう気持ちを感じている。
それは決して野菜ではなくて、心の中の問題だ。
説明するのは難しいけれど。
花子がつかれて眠ってしまった。
そうしたら、主人が眠そうな顔をして、起きてきてくれた。
心の中でほっとする。
顔には出してないはずだけど、緊張してるから本当のところはわからない。
みんなでお茶を飲みながら、花子のことを話した。
私は聞き役。
主人も聞き役。
しずかな時間が流れていく。
夕暮れが窓の外で青色に変わっていった。
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