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泳ぎきる。

透明な水の中を向こう岸まで泳ぎきり、水から上がった。

長い髪から、指の先から、足先から、たくさんの水が滴り落ちて地面に吸い取られてゆく。

からだは随分冷えている。

お日様の光で温められた地面に、冷たい水を落としながら歩き続けた。

びしょ濡れのまま足をを前に進めていくと、温かい陽の光に照らされて、からだはゆっくりと乾いていった。

風はない。

でも。

春の終わりの太陽の光は夏には届かないけれど、充分な強さと温度を持っていて私の濡れたからだを乾かすのに充分な力を持っている。

小さな子どもの頃のようになにも気にしないで、太陽の光に照らされながら歩いていると何もかもがどうでもいいような気がして、からだも心も空っぽになり、軽くなっていくのを強く感じて、とても嬉しかった。

ずっしりと重たいものが心にも、からだにも、把握しきれないくらいびっしりと詰まっていて、身動きが取れなかった。

「苦しかった」

絞り出されるようにつぶやきが漏れる。

苦しかった。
本当に。

まだ痛い。
まだ辛い。
多分これからもその気持ちが消えてくれることはないのかもしれない。

それでもそのまま進むしかない。

諦めて受け入れて、そのままで。


太陽はあたまの真上で輝いている。

そしてその光で濡れたからだを乾かしてくれる。

乾いていくのと同時にからだは温まっていき、呼吸は深くなっていく。

風は吹いていない。

そよとも動かないまま、草も木々もそこにあり、緑を輝かせている。

太陽の光を受けて、輝いている。

艶やかな葉に弾き返された日光を眩しく見つめる私がいる。

その反射された陽の光に私の心は救われていく。

空を見上げてみる。

光の粒は乱反射して私の意識をクラクラさせた。

この光を浴びて、この場所の木々や草、私自身も地面も他の何もかもが温かな力をもらい、生きている。

降り注ぐ光の粒は目には見えない小ささで、光はひとかたまりにしか見えない。

小さな子どもに戻ったままで、ずっと自由でいられたら全部のことが変わるだろうか?

空っぽのまま私は歩く。

何も考えないままで、そのままで。






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竹原なつ美
ありがとうございます。 嬉しいです。 みなさまにもいいことがたくさんたくさんありますように。