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#誰かにささげる物語
もう一度、物語でこの企画に挑戦してみます。 どうかよろしくお願いいたします。
柔らかな土。
落ち葉や小枝の混じり込む湿り気のあるふっくらとした土の上をゆっくりと歩く。
空気はしっとりとしていて呼吸が楽で心地いい。
涼しい。
真夏とは思えないこの森の中を私は一人で歩いている。
ここに来ようと思いついたのは昨夜のことだった。
不意に思いついただけ。
そんな思いつきを実際の行動に移すなんて今回が初めてかもしれない。
風が吹き抜けた。
冷たい風。
そうして私は自分が汗をかいていたことに気がついた。
ポケットからタオルでできたハンカチを取り出して汗を拭く。
リュックから小さな水筒を出して冷えたお茶を飲む。
美味しい。
息が抜ける。
毎日忙しなく目の前のことに追いかけられて暮らしている。
こんな風に自然の中に自分を放してみると普段の自分の生活が遠い夢みたいに思えて、とても不思議な気持ちになる。
だけどどちらも現実で決して嘘じゃない。
ここはとても静か。
人も車も電車もバスもいろんなお店のBGMも聴こえてこない。
だけど音がない訳じゃない。
ささやかで密やかな音がしっとりとした空気の中に静かに混じり込んでいる。
木々が吐き出す水気や香りを帯びた空気に私は静かに癒されてゆく。
葉ずれの音を立てて風が吹き抜けた。
空を見上げると爽やかな青色がどこまでも広がっている。
広い森、大きな空、その中にいる小さな私。
心許なさよりも大きな何かに包まれている歓びが感じられて嬉しかった。
鳥が羽音を立てて広い空に飛び立ってゆく。
空の青は柔らかて陽は高く静かに風が吹いている。
私は地面を踏み締めて立ち、ただ空を見上げている。
小さな自分。
大きな自然。
私は空の大きさに黙って見惚れていた。
時間が消えた。
私も消えて景色の中に溶けた気がした。
父に、ささげます。
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![竹原なつ美](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/87771317/profile_685d1cdce10eb5d32ab128e89494689c.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)