#月刊撚り糸 ずっと前から知っていました。
目覚めた時泣いていた。
涙が溢れて止まらない。
枕はびっしょり濡れていた。
その理由に心当たりがなかったわけではないけれど、それでもとても驚いて愕然とした。
こんなことってあるんだろうか?
空気はとても冷えていて外では風の音がしている。
でかけようと思ったらマフラーと手袋と厚めのコートと靴下とブーツで身構えて行かないと寒さに負けてしまうだろう。
お天気はいいけれど、だからこそ空気は冷えて冴えていて、真冬の空の切り裂くような水色がわたしを部屋から出してはくれず部屋のか中にこもっているしかなくなるのだった。
冬はわたしに優しくなくて時々心が折れそうになる。
季節なんて関係ないと言う人もいるけれど、季節はかくじつに人の心に影響を与えていて行動も変えている。
冷たい空気。
冷えた空気。
からりと乾いて冷たくて、素肌をきゅっと引き締めながらヒリヒリさせて痛めてしまう。
そんな冬の風に怯えながら過ごすしかない。
ぐっしょりと涙で濡れてしまった枕をどうしたらいいのかわからなくて呆然としている。
丁寧に洗剤を溶かした水で洗ったら、そうして今日の風に当てたら、元のように戻るのだろうか?
ふっくらとした羽毛の入った心地よく柔らかなこの枕の風合いは元のように戻るのだろうか?
眠りながら涙を流して泣いていたことにうろたえている今の自分をどうしたら普段の気分に戻すことができるのか判断がつかなくて途方に暮れてしまっている。
冬は私を閉じ込めて外に出してはくれない。
ぬるい温度のお風呂から出られなくなった時みたいに思い切りが悪くなって、動けなくなっている。
ためらわれたのだけれど思い切って窓を大きく開けてみた。
真冬の朝の冷えた空気が部屋の中を通り抜けていく。
そうして早く新しい一日を受け入れなさいと伝えてくれる。
その言葉を、わたしはずっと待っていた。
待っていたんだ。
パジャマの上から羽織ったボアのジャケットが頬にふれた。
その内側の柔らかな肌触りがそっと励ましてくれるからまた歩き出せると思うのだけれど。
濡れた枕が目に入る。
瞼が少し腫れている。
どんな夢を見ていたのか思い出すこともできない。
電話が鳴る。
予感していた声と言葉にあらためて息が詰まる。
朝の冷えた空気はそれをキンと冷やして、固めてそこに置き去りにする。
こうなるってわかってた。
そう、わたしずっと前から知っていた。
こうなってしまうということを。
どうしようもないこともある。
この枕をどうにかしなくては。
そう考えて部屋を出た。
外は風が吹いていて、ヒュンヒュン冷たい音がしている。
薄水色の空に浮かんでいた消えそうな月はいつのまにか見えなくなっていた。
風は止まない。
救いなんてないけれどそれでも。
濡れた枕を洗って干そう。
風は吹き抜けて枕を乾かしてくれるだろう。
日の光はこの枕をもう一度優しく柔く温かくさせてくれるだろう。
そして枕は眠るわたしに力を与えてくれるだろう。
もう一度生き直してみよう。
もう一度。