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全てを愛して、ずっと表現者でいたい - ON STREET vol.1 Kenzo Suda【後編】

 道路は人や車が「通る」だけの空間じゃない。人間の居場所であり、出会いの場所であり、己を表現する場所であり、ユニークなカルチャーが生まれる場所(=ストリート)であり続けてきた。

『ON STREET』はストリートやストリートカルチャーの一端を担う人物へスポットを当てるインタビュー企画。記念すべき第一回目は、会社員として働く傍ら、多彩な表現活動を展開する須田憲三氏に迫る。自身のルーツ、今でも情熱を燃やすバスケとの出会いについて語った前編、留学先のアメリカで形成した価値観とクリエイターとしての矜持・展望を語った後編の、二編にまたがるロングインタビュー。

↓前編はこちら

interviewer:松川渉平 writer:永島奨之


映像クリエイターとしての一面

━バスケは、Youtubeチャンネルも手掛けていて、映像クリエイターとしての側面もあるよね。

アメリカでバスケに熱中して、日本に帰ってきたあと、このままバスケを続けたいなって思った。

当時、バスケを上手くなるために練習量を増やしたいと思っていて。週4で練習してたけど、これを週7に増やしたいなと(笑)。それをやるためには、普通に仕事してたら時間が足りないから、副収入を増やしつつ、ちょっとずつでもいいから時間を捻出しようってなって。

知り合いが仕事関係で法人を設立してたから、そこに自分も取締役として入らせてもらって、一緒に事業をやるみたいな感じがスタートかな。

━じゃあYoutubeは、映像を作りたいというより、サイドビジネスとして始めたんだね。

そうそう。だから最初は儲かりそうなやつとか、ウケそうなコンテンツを出そうって感じで、海外のアニメオタク向けに日本の声優のインタビューを翻訳して発信してた。
それがすぐにチャンネル登録者3000人くらいまでいったんだけど、著作権の関係もあって収益化はできなくて。
そのタイミングで、バスケの知識蓄えるためにもそっち(バスケ)にシフトしようってなって。NBAのコーチが発信してるバスケスキルの情報を翻訳して解説する今のスタイルになったね。


━自分の勉強にもなるっていうのがいいね。モチベーションも続くし。

結局、何か情報を集めるときに動画媒体を参考にしてることが多いし、じゃあそれを勉強がてら作ればいいじゃんって。始めた当初は需要あるか分からなかったけど、(バスケの)プレイヤーとか、自分の子供とか学生に教えたい人はたくさんいるから、動画を出していくうちに伸びていったね。

━映像クリエイターとして心掛けてることはある?

やっぱり量産性かな。とにかくつくること。アウトプットをいかにできるか。そうしないとフィードバックが返ってこないから、何が良かったのか、悪かったのかも分からない。これは映像に限った話ではないけどね。



アメリカで形成した価値観

━人生を振り返ってみると、絵描いてみたり、格闘ゲームにハマったり、バスケにのめり込んだり、色々なものに手を出してるね。

そうだね、色々やりつつ。でも、音楽とかはずっと聴いてるけどね。ハマってる音楽はアメリカに留学してからだいぶ変わったかもしれない。

━アメリカだとブラックミュージックとか?

ブラックミュージックもそうだけど、HIPHOPの本質的な良さみたいなものはアメリカで知ったかな。もう、音の味わい方からして日本と違うんだよね。
例えばソファとかに沈みながらw**d吸ってチルしながらつくる音っていうのかな、ベッドルームミュージックっていうんだけど、部屋のベッドの上でギター片手に持って、ドラムも脇に置いて曲づくりする、みたいな。
こっち(日本)だと考えられないけど、向こう(アメリカ)ではそうやってハイになりながら音つくってる人を結構目撃して。ああ、音のつくられ方が違うんだなって。

━それは文化とか、空間的な余裕とかも関係してるのかな。

それはめっちゃあると思うな。向こう(アメリカ)は家と家の間隔も広くて、ガレージとか物理的に余裕のある環境でガンガン音鳴らしてるし。音圧高い方が気持ち良いし、やっぱりイヤホンでちょこまか聞くのってしょぼい。
あとアメリカの道の広さは本当に好き。自分が住んでた西海岸エリアで言うと、特にサンディエゴとかは良かったな。日本の道は狭い。

━日本の道はスケールが小さいというか、(人が)通るためだけの道って感じだよね。

うん。日本でもそういうことを感じられる環境はなくはないけど、やっぱり大陸はスケールが違う。音をつくるのに空間のスケールとか道の広さは本当に大事だなって。

━空間的なスケールがゆとりある文化とかに繋がってる側面はあるよね。

絶対にある。間違いない。トラックの運転手がニューヨークを運転してる時とカリフォルニアを運転してる時で性格が全然違うっていう実験結果もあるくらいだから。
ニューヨークだとずっとイライラしてるけど、カリフォルニアだと穏やかでクラクションも鳴らさないらしい。

カリフォルニアにベンチャーテック企業とかが集まってくるのもそういう余裕のある土地柄とか、雰囲気が影響してると思うし。ニューヨークみたいに都市部になればなるほど、せかせかしてて余裕ないよね。

━ストリートの話に意識的に寄せちゃったかもだけど(笑)、やっぱり道の広さは大事?

いや、本当にそれはずっと思ってて。道の広さは超大事。空間のスケールは音楽だけじゃなくて、文化とか風土を形成するのに超大事だと思うな。

━そう考えるとアメリカでの経験は今の価値観につながってるね。

本当にそう。帰りたい、アメリカに(笑)。

サンディエゴのストリート
(引用元:SANDIEGO MAGAZINE)

━ちなみにアメリカ以外で好きな街とか場所はある?

昨日、会社の集まりでみなとみらいに行って、途中で散歩したんだけど、夜中の赤レンガ倉庫、めちゃくちゃいい。夜だったから人が少なかったし。というか、やっぱり広いのが良い(笑)。夜にトーンダウンしたみなとみらいは良い場所だなって思ったな。

あとは天橋立(京都府宮津市)が良かった。母親が移住しててたまに行くんだけど、良いところだなあって。ちょっとしたムラ感も残りつつ、観光客も多いから開けてる感じが好きだな。

天橋立駅周辺を歩く本人と母

表現者を翻訳して伝える。それも一つの表現

━ケンゾーは表現者としての魅力が強いけど、自分はそういうアツい人の魅力を伝える側を担いたいと思ってるんだよね。特に学生の頃とかはアツい人に憧れて真似してたんだけど、ある時、その人自身にはなれないって気づいた。

それもありだよね。
表現者って自己を表現してるだけで、その人たちがやってる表現の見せ方、切り取り方、映し方ってその人自身とはまた別の次元にあって、本人がフルにコントロールできない領域にある。
だから、本質的にアツくておもしろい表現者がいたとしても、鑑賞者側が能動的にそこまで見ようとしないと伝わらないこともある。
でも、そういう表面から伝わらない部分を仲介者というか、プロモーターみたいな人がいかに上手く見せられるかが重要だと思う。

例えば、バトルに出てるダンサーがガンつけたりバチバチやってたりする様子だけをみちゃうと、『あ、ダンサーってこれなんだ』って。そういう表面的な捉え方をしちゃうじゃん。
コンテクストに何を持ってて、そういうアクション(表現)に至ったかを深く考えてるわけじゃないから、観る側は。
だからそういう表現をどう切り取って見せるかっていう、表現者とそれを受け取る側の垣根はどんどん低くしていくべきだと思うな。

━そうそう。だから表現者(ダンサー)と社会人っていう2つの顔がある自分が、本質的な魅力を色んな人に翻訳して伝えられたら面白いなと思うんだよね。

それも一つの表現だしね、面白いと思う。

任意団体tankerがプロデュースしたクラフトビール"michinori"。第一弾の"michinori ピルスナー"では、須田氏の写真を起用した。
ストリート活動の振興を目的としたコンセプトビールとなっており、売上の一部は起用したアーティスト等へ還元される。


それに関連していえば、俺は教育系のジャンルには割と興味あるな。
いま仕事で留学系のエージェントをやってるけど、やっててこの仕事好きだなって思い始めてるところもある。学生が心の内側にもってる炎の見せ方を考えるのが好きだなって。

━なるほどね、でもちょっと意外だな。

それこそアメリカの大親友が『That’s something』って俺に言ってきたみたいに、『あ、そうなんだ』って気づかせるというか、ざっくり興味あるとか、おもしろそうだなって思ってることに対して、最初のチャレンジの敷居を低くして、一回転がしてみる。
そうすれば本当に好きかどうかが分かる。

若ければ若いほど、それが成功体験につながったかどうかで、『自分にはこれしかないんだ』って勘違いできる。そういうことを最近学生に話したことがあって。
自分がちょっとでも熱あるなと思ったものを、勘違いでもいいから続けさせてみるのって、案外結構大事だと思うんだよね。


インスピレーションをもらうもの インプットはのどごしで

━6年前くらいから音楽活動もしているし、色んな表現活動を続けてると思うけど、制作とか表現においてインスピレーションをもらうものはある?

動画からインスピレーションをもらうことが多いかな。今の時代、いくらでもネットに転がってるし。でも、そういうのはアウトプットを前提にして見てもあまり良いインスピレーション得られないことが多い。
空いた時間にダラダラっと見ておいて、ぼーっとしてる瞬間に、脳内で情報のろ過が進んで、咀嚼する時間が始まってる感覚かな。

━確かに、意図しないインプットが自然に組み合わさって、ふとした瞬間に降りてくる、みたいな時あるよね。

そうそう。いろいろ適当にインプットしたものが自分の脳内フィルターを通して勝手に組み合わさる感じ。
あとはやっぱり、とにかくアウトプットすることかな。アウトプットしてると、それがインプットのきっかけになったりもする。

地元・日吉の仲間とのラップクルー"westhouse"

━目や耳にしたりするもののフィルターみたいなものはある?こういうものは苦手だから基本見ない、とか。

うーん、そんなにないかな。
例えば入念に緻密につくりこまれた感動系のお涙頂戴ポルノみたいに、制作者の意図が透けちゃったりすると一気に見れなくなったりする時もあるけど、その逆もあって、分かりやすくスッと没入できるときもある。

前見た動画で、バッドナイスの常田がボケてツッコまれたときに、ツッコミ(内田)の頭掴んで、『お前、俺の言った言葉を咀嚼しようとすんな。のどごしで味わえ』って返すっていうのがあって。
マジでそれだなって思うんだよね。とにかく1回喰らえっていうかさ。
穿った見方をしないで、いったん情報をそのまま浴びてみるのを意識してるかな。


目標は決めない 周りをより愛して生きていく

━もうすぐ30歳になるけど、これからの人生で具体的にやりたいこととか目標はある?

カチッとした目標は決めてないかな。でも、30歳以降で大切にしたいテーマみたいなことはあって、それが『人生をより味わい深くしていく』ってこと。
お笑い芸人のピースの又吉がYoutubeの動画の中で、ある詩人が牛丼屋のアルバイトに向けて書いた『君の頑張り、自給以上』っていう詩を解説してた。
要するに、その人をどうみるかっていう話で、自分に関わってくれる人をできるだけ全部プラスにみていきたいなって。

例えば、人と人が会話で喋ってる内容って、その人のほんの一部なわけで。会話してる以外の時間もたくさんあるから、その人の苦悩とか楽しんでいる瞬間まで含めて見ようとしたいなと思ってる。
絶対にそいつが他の人を幸せにしてる瞬間もあったり、役に立ってたりする瞬間もある。そこに対してアプリシエイションを高めていく。

簡単にいうと、人のことを「いいやつだな」って思いながら生きていきたい。周りの人をより愛していこうって思ってる。それが30歳以降のテーマかな。

━さっきの話と絡めると、人のことを穿った見方をしないってこと?

そうそう。人の良い面をより見ていく。悪い面だけをみるのは簡単だから。最近、人を愛するのもそんなに難しくないなって思い始めてるし。
まあ、偶然良いやつが周りにいるだけかもしれないけど(笑)。

━具体的にやりたいこととか表現したいものがあるっていうよりは、大きなスタンスの話だね。

うん、これをやるって決めているものは具体的にはないかな。その時々でやりたいことをやるっていうか。
そこはこれからも今とそんなに大きく変わらないと思う。

━逆に5年後、10年後に「こうなっているだろうな」っていう予想はある?

希望的観測でいいなら、趣味がお金になってるって状態かな。労働がメインの収入源じゃないと嬉しい。
常にプレイヤー、パフォーマーではありたいなとは思ってて。自分がやってる表現、例えば絵とか歌とかパフォーマンスに対して、対価が発生してる状態。すごい簡単にいうとアーティストになってるっていうこと。

━あくまでも希望で、その状態を狙いにいくわけではない?

そうだね。でも、その状態を狙いにいくっていうのも、社会と繋がりをつくることだと思ってるから。それはそれで楽しめる自分でありたいっていうのは思うな。
ほとんどのアーティストは社会と自分の表現のどっちかに振り切ってるわけじゃなくて、社会から影響を受けつつ、自分の表現をするっていう相互関係だし。どっちかに偏り過ぎるとつまらなくなると思う。

━食べるための仕事と自分の表現をすることのバランスだね。

『趣味を仕事にするとつまらない』っていう人いるけど、それは結局どっちかに寄せすぎだよって思う。食べるための方向性にもっていき過ぎてるから趣味が仕事と同じになっちゃってる。そうすると当然縛りが生まれてくるから。別に両方やればいいじゃんって思うし、俺はそうしたいな。



ー編集後記

ケンゾーとは中学の同級生で、確か中三のときはクラスが一緒だったはず。けどその時はお互いほとんど会話していなかったし、背も今より全然低くて、あまり目立たないキャラだった気がします。
そんなケンゾーとたまたま再会したのは約7年前のこと。中学の友達の中でまだ付き合いがあったシュウサクの誘いで、3人で新宿のカラオケに行った。当時ラップバトルが流行っていたこともあり、RIP SLYMEの曲とかを適当に入れては歌詞を全無視して、みんなでフリースタイルラップして大はしゃぎした(笑)。それが今でも忘れないくらい楽しくて、そこから3人でも曲作ってみるか、となったんです。
コロナとか自分の転勤で集まりにくい時期もあったけど、当時もZOOMとかを駆使して曲は作ってたし、今でも月一回くらいで定期的に集まってはレコーディングやMVを撮ったりしながら遊んでいて、これは相当良い趣味を見つけたなと常々思っています。というか、あの日誘ってくれたシュウサクとケンゾー、マジでありがとう。

特にケンゾーはセンスも声も良いし、何より制作ペースが早い。どこから湧き出てくるのか不思議なくらいのエネルギーとアイデアを持っていて、一緒にいると自然とパワーをもらえるような存在です。それに普段からネガティブなことはほとんど言わないし、ストレスを感じているような様子もない。ちょっとイラつくことがあったとしてもすぐ音楽に昇華させてるから、なんか無双モードって感じ(笑)。普段からめっちゃ身体動かしてるってのもポジティブさの秘訣なのかな。
とにかく自分は、パワースポットのようなケンゾーという男をすごくリスペクトしているのと、彼の何事にも囚われない考え方やライフスタイルが、自分が考える「ストリートの在り方」みたいなものと重なる部分が多いなと思って、この連載インタビュー企画「ON STREET」の第一弾ゲストに選びました。身内ゲストですいませんが、実際にインタビューしてみて、やっぱりケンゾーにお願いして良かったなと心から思っています。

これから先、ミュージシャンやダンサーのような「ストリート(カルチャー)を舞台に活躍している」方はもちろん、例えば行政職員やまちづくりコンサルタントのような「ストリートを作る(使わせる)」側の方にもインタビューをして、色んな角度から”ストリート”を深掘りしていきたいと思っています。
若者文化はあんまり興味ないとか、道路のルールみたいなおカタい話は興味ないゼ、といった先入観は是非捨てていただき、今後アップされる記事やmichinoriのその他活動にもご注目いただけるとありがたいです。

松川渉平

interview date: 24.06.23(Sun.) 


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