宿題_提供_photoAC_

提出物の提出状況から氷山の水面下部を見よ。


「「鍛地頭-tanjito-」の教育論」に新設したカテゴリー「実践編」の第1弾です。今回のテーマは「提出物の指導」。単なる忘れ物対策は指導ではありません。「氷山の水面下部」を見ることから〈ホンモノの指導〉が始まります。その意味とは? 塾長の教育実践に基づいた理論と実践を日々の教育活動及び場面指導にお役立てください。


教育活動には種々の態様があります。また,一つひとつの教育活動には,それぞれの教育的意義及び目的/目標とされる効果等があります。しかし,遺憾ながら,それらの意義や教育効果の目標化などは,日々の教育実践の中で忘れられがちです。

そこで,具体的な教育場面を取り上げ,種々の教育活動の根底にある教育的意義や目標化されるべき教育効果などを再確認するため(下位目的),本カテゴリーに当塾の塾長による教育実践に根付いたショートブログを書き下ろすことにいたしました。その上位目的は,次のとおりです。

〈乳幼児・児童・生徒の未来に羽搏く成長〉に資する教育実践の創造

日々の真摯な教育実践の参考としていただければ幸甚です。また,教員採用候補者選考の「場面指導」にもお役立てください。


【今回のまとめ】
○ 提出物の提出状況から氷山の水面下部を見よ。
○ 「担任等(個)の指導―学校・学年団(全体・組織)の指導」を常に意識せよ。


1 忘れ物対策だけに走るな

乳幼児・児童・生徒の宿題を含めた提出物に付きものが忘れ物。ある意味,行為としての「提出」は「乳幼児・児童・生徒―学校(担任等)」間の契約(約束)履行だから,それを守らせることは社会性の育成の面において重要なことである。また,内容によって,「提出物」は「乳幼児・児童・生徒―学校(担任等)」間のコミュニケーションを促進する媒体ともなる。だから,学校現場において「忘れ物対策」が講じられる。

「対策」を挙例すれば,「学校から保護者への文書」,「連絡帳(の指導)」,「机,ロッカー,ランドセル(カバン)の中の(乳幼児・児童・生徒自身による)点検(の指導)」及び「提出期限1日前提出の励行(指導)」などがある。

しかし,学校というところは怖いところで,「対策(指導)」は直ぐ様形骸化する傾向にある。
「どの学年(担任)も行っているから,私も連絡帳を活用する。」
「下校時,隣のクラスの担任も机の中を点検させているから,私もさせる。」
仕舞にはそうすることが空気のような存在になり,何も考えず指導する教員も出てくる。「対策」は魂の抜けた「タイサク」となる。

このような状態となる原因には,「対策」を「対策」としか考えない思考性がある。つまり,「対策」の持つ指導上の意義,目的及び教育効果の評価などが指導者から欠落しているのである。


氷河(提供 photoAC)


2 提出物の提出状況から氷山の水面下部を見よ

「忘れ物が多い(乳幼児・児童・生徒だ)から,「連絡帳」で家庭と連携する。」
「忘れ物が多い(乳幼児・児童・生徒だ)から, 机,ロッカー及びランドセル(カバン)の中を点検させる。」
「忘れ物が多い(乳幼児・児童・生徒だ)から, 提出期限1日前に提出させる。」

こうした指導(?)の思考性は「対策」のための「対策」にある。「連絡帳」や「点検」等そのものが「いけない」のではない。思考性に問題がある。

「なぜ忘れ物が多いのか?」

まずは,このように考えることが大切である。ひょっとすると,指導者(つまり,自分自身)の指導そのものに問題があるのかもしれない。乳幼児・児童・生徒に忘れ物という現象が表象化される必然的な要因があるのかもしれない。

例えば,宿題の提出が遅れたり,なかったりする(乳幼児・)児童・生徒の場合,基本的な家庭学習の習慣がないのかもしれない。それも家庭環境に要因があるのかもしれない(だから,家庭訪問は重要だ)。その家庭環境の要因も一律ではない。抑々,学力が定着しておらず,宿題を行いたくても,わからないからできず,提出できないのかもしれない。

さらに,筆者自らの経験から述べれば,神経発達症(発達障害)を有する生徒の中に忘れ物が多かった生徒も複数いた。この場合(も),当該生徒,保護者及び関係諸機関等の連携・協力を得ながら,当該生徒一人ひとりの特性を担任として,学年団として,教職員集団(学校全体)として的確に捉え,丁寧に粘り強く指導する必要があった。当然のこと,一人ひとりの生徒に行った指導方法は異なった。―誤解があってはならないので。個に応じた指導は神経発達症を有する生徒だけに行ったのではない。それも忘れ物の指導だけではない。特別支援教育は全ての乳幼児・児童・生徒のための教育である。―

要するに,「忘れ物が多い」という現象は,氷山に例えるならば,―「氷山」はよく例えに用いられるので恐縮だが,わかりやすいので,―水面上の氷の部分(氷山の一角)に過ぎないのである。水面下の見えない氷は水面上の氷より容積が遥かに大きく,ここに一人ひとりの乳幼児・児童・生徒が有する複雑な問題が内在しているのである。1)したがって,これらの問題を解決する/させることが肝要であり,水面上の氷山(「忘れ物が多い」という現象)だけを追い掛け,いくら「対策」を講じても,抜本的な解決には至らないのである。また「忘れ物」は繰り返されるのだ。

提出物の提出状況から表層の「対策」を講じるだけでは,却って乳幼児・児童・生徒を傷付けることだってある。当該の乳幼児・児童・生徒本人に責任がない場合だってあるのだ。

氷山の水面下部を見よ。〈ホンモノの指導〉はそこから始まる。それは飽くまでも「対策」ではない。


チームワーク(提供 photoAC)


3 「担任等(個)―学校(組織・全体)」の恒常的な意識化

指導を行うに際して,「「担任等(個)―学校(組織・全体)」(学校(学年)の指導方針・指導方法等を理解した担任等の指導)の恒常的な意識化」が大切である。それは提出物の指導だけではなく,どの指導についても言及できることである。

学校での指導は担任等,個の裁量で行えるものもあるが,それは学校(組織・全体)の指導に含有される指導(学校の指導⊃担任等の指導)として意識されるべきものである。

例えば,「我がクラスは忘れ物が多いから,「忘れ物グラフ」2)なるものを教室に掲示しよう。」とある担任が周囲の教員に相談することなく単独で指導(?)を始めたとする。それは,まずは「そんなグラフを掲示するなんて,何を考えているのだ!!」との大喝ものだ。先述したとおり,そうした指導(?)は氷山の一角型対策であって,水面下の氷山を見ていないのである。乳幼児・児童・生徒をいたく傷付ける悪行の可能性が非常に高い。

このような飛んでもない例はさて置いて,担任等(個)による指導の工夫は大切なのだが,常に学校全体,あるいは,学校の指導方針・指導方法等に基づいた学年(組織)の指導方針・指導方法等を理解し意識しておかないと,例えば,「あの先生は提出物の指導に厳しいのに,うちの先生は甘い!」などのお小言を頂戴するようになってしまう。指導間格差だ。筆者から言わせていただくと,「個ー全体」のバランスを欠いた/学校の指導方針・指導方法等を理解していなかった(無視した)指導を行った担任等は,別段,お小言を頂いても致し方ない訳だが,―それも経験3)です。―乳幼児・児童・生徒に担任等だけではなく,学年団,延いては学校に対して不信感を抱かせてしまう虞があるので,それが問題なでのある。乳幼児・児童・生徒と学校(教職員集団,個々の教職員)との〈つながり〉が切れてしまうと,〈健全な教育〉は成立しないのだ。


運動会


4 まとめ

今回の「提出物(/忘れ物)」の指導に関する考え方のまとめは,冒頭(緑色の囲みの中)に記述したとおりである。確認の意味を込めて,次に再掲する。

○ 提出物の提出状況から氷山の水面下部を見よ。
○ 「担任等(個)の指導―学校・学年団(全体・組織)の指導」を常に意識せよ。

一つひとつの教育活動には必ず意義があり,目的・目標があり,期待される教育的効果がある。活動の前に,指導者がそれらを振り返っておかなければならない。その上で,事前(活動)・事中(=主たる活動)の指導において「学習者(乳幼児・児童・生徒)―指導者」間で目的・目標をしっかりと共有し,事後(活動)に目的・目標に対しての評価を行う必要があるのである。

その際,表象(=水面上の氷河)だけを見ないことだ。確と水面下の氷山を見つめる(=(乳幼児)児童生徒理解する)ことが重要なのだ。そのためにも,「全体(全教職員等)」の視点が必要となってくる。「個」の視点だけでは,ものの見方や考え方にバイアスが掛かっているのだ。だからこそ,教職員には特に〈協働性・組織性〉が常に希求されるのである。

乳幼児・児童・生徒の明るい未来が掛かっている。


連絡帳(提供 photoAC)


付記~連絡帳の指導~

特に,小学校の低学年など「提出物」に関する指導の一環として「連絡帳」を活用する学校があります。「家庭―学校(1対1)」のパーソナルな連携の意味合いもあります。そうした利点を持つことから「連絡帳」の活用頻度は高いのでしょう。

指導全般について言えることですが,例えば「連絡帳」の指導をいつまでどのように行うのか,保育園・幼稚園・学校等(以下,「学校等」)としての計画を持っておくことが重要です。指導内容や指導方法だけではなく, 個々の指導における期限を考えることは大切なことなのです。 定まった期間の中で,指導し切ることは教員等の指導への集中力を高め,その効果を期待できますし,乳幼児・児童・生徒にとっても時間的な目標を持てることから,指導期間後の成果から生起する達成感を味わいやすくなります。とにかく特定の指導のやりっ放しは止めましょう。勿論,学習評価を含めた指導全般の評価も忘れずに。

その点を鑑みながら,「連絡帳」の指導に少し特化して考えてみます。

「連絡帳」は主に「保護者ー当該乳幼児・児童・生徒―担任等(学校等)」との三者関係で成立しており,保護者が学校等からの伝達情報の受け手となって,当該乳幼児・児童・生徒に対し,家庭でその情報に関する指導を行うことが多々あるようです。つまり,保護者の指導場面が多いということは,―悪いことではありませんが,殊に提出物の指導の場合,保護者の過剰な指導が継続すると,―当該乳幼児・児童・生徒の保護者への依存度が高まることがあるのです。例えば,「提出物チェック」を毎回保護者なしでは行えないなど。これでは当該乳幼児・児童・生徒の自主性は育ちません。そこで,必要となるのが,指導内容,指導方法は然ることながら,指導期間の見立てです。例えば,提出物の提出が定着しつつあるようであれば,毎日の提出を止め,週に3回にするとか,家庭・学校等がお互いに必要のある場合のみにするとか。

また,事前に数値目標を設定し,それを徐々に減少させる(スケーリング)方法も考えられます。目の前の小さなゴール(目標/例:毎日提出→週に3回→週に1回→必要がある場合のみ)を順次少しずつクリアして,最終的には大きなゴール(目標/「連絡帳」を活用しなくても,忘れ物がなくなる。)を達成する。こうした解決志向(Solution Focused Approach)の考え方は種々の指導に有効です。

このような指導の見通しを持つためには,事前に過去の各学年(年次)等の提出状況を分析しておく必要があります。そのデータに当該年度(年次)の乳幼児・児童・生徒の提出状況を加味するのです。

特に,解決志向型の計画的・継続的指導は「連絡帳」の指導においても,一つの選択肢として必要だと考えます。


【註】
1 「問題」だけではなく,「個性を伸ばす可能性」等も内在しています。
2 忘れ物をした数だけ,シールを貼る等の(棒)グラフなど。個人名が記載されている。
3 「体験」しただけではダメです。その「体験」を言語化してアウトプットし「経験」としなければ,自分のものになりません。特に「言語化」が重要です。これを「体験の経験化」と言います。


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