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大林宣彦に想いを込めて「海辺の映画館 キネマの玉手箱」
2020年7月31日公開初日、TOHOシネマズ新宿20時30分の回で観た。何だか「観た」というより「観届けた」ような気がする。映画館に行く前に時間的余裕を作り、喫茶店で色々考えながら上映時間を待った。大林宣彦の遺作となると特別な想いがある。
1人の映画監督が亡くなって1つの時代が終わったように語られるのは、大林宣彦以外には今の日本映画にはもう山田洋次、宮崎駿、北野武くらいしかいないかもしれない。自主映画からメジャー映画に出てきたパイオニアである大林宣彦は、それくらいの巨星だ。大林宣彦がその道を作っていなければ、自主映画やCMディレクター出身の作り手が映画界に参入するということは無かったかもしれない。
時々、自分の人生は中途半端だったと思う時がある。本当に何かを愛せてきただろうか。だから、人生そのものが完全に映画と共にあった大林宣彦は眩しい、そう思う映画ファンは多いんじゃないだろうか。
大林宣彦の人生そのものが映画のようなドラマだ。3歳の時に自宅にあった活動写真機と音がしないピアノと出会う。フィルムの切り貼りをして編集を覚える。
上京し、大学で個人映画を作る。この時に映画製作においても終生のパートナーとなる恭子氏と出会う。キネマ旬報6月上旬号の大林宣彦追悼特集が凄い。幼少期や少年時代に作っていた個人映画までフィルモグラフィーで紹介している。どこかで観る機会はないだろうか。
大林宣彦が東宝で商業映画デビュー作「HOUSE ハウス」を発表したのが1977年。私が産まれる一年前。何だか自分の人生とリンクしてる気がする。
そして故郷の尾道を舞台に「尾道三部作」を発表。日本中に尾道の名を知らしめる。一番有名なのが社会現象となった「時をかける少女」だろう。この後何度も映画化が繰り返される。先日池袋のシネコンで再見したが、3Dでもないのに原田知世がスクリーンから飛び出してくるかと思った。
この後もメジャーとインディーズを股にかけて映画を量産するが、老舗のキネマ旬報では意外なほど受賞が無い。どうやら「青春デンデケデケデケ」「花筐 HANAGATAMI」の2位が最高位のようだ。「花筐」は年末の公開だったから仕方ないと思うが「青春デンデケデケデケ」は1位では無かったのかと驚いたが、この年にはもう1つツワモノな娯楽映画があった。周防正行の「シコふんじゃった。」これが1位。「青春デンデケデケデケ」は、「面白い大林宣彦映画」では群を抜いている作品の1つだと思う。かなり完成度の高い青春娯楽映画で、今から大林宣彦を観始めるならこれが良いかもしれない。派手なカット割りと登場人物が観客に向かって語りかけるようにセリフを言う大林宣彦的作家性も発揮されている。
晩年になると社会性の強い映画を作り出し、同時に作家性がますます激しく増してくる。逆にここから付いて行けなくなった人たちもいるかもしれない。それくらい強烈な作品群なのが後に「戦争三部作」と言われる三作品だ。どれもこれもメーター振り切ったように激しいのだが、特に凄いのが末期癌治療をしながら製作した「花筐 HANAGATAMI」だ。大林宣彦の映画で一番「凄い」のは何だと言われたら、これかもしれない。「殺されやしないぞ、戦争なんかに」「青春が戦争の消耗品だなんでまっぴらだ」とか、文字にすると少し気恥ずかしいような言葉も、映画で観ると鬼気迫るようなものがあり、全編に渡って大林宣彦ワールドが散りばめられている。ちなみに「花筐」は「HOUSE ハウス」より前に企画されていた40年越しの企画だ。晩年、「ノンポリを装っていた」みたいな発言をしているが、そうだったのかもしれない。
大林宣彦は、2019年8月15日に東京新聞のロングインタビューに答えている。参考までに載せておく。
「映画は未来を平和に変えられるかもしれない」大林宣彦2019年8月15日東京新聞ロングインタビュー|https://note.com/tanipro/n/n433471bf81e6
末期癌を宣告されながら二本も映画を作ったのは、大林宣彦にとってもファンにとっても奇跡なのかもしれない。遺作となった「海辺の映画館 キネマの玉手箱」ではまたも尾道を舞台にし、新型コロナウイルスのため公開が延期になるが、公開予定日に逝去。
ここまで大林宣彦の歴史を書いてみたが、まるで人生そのものが映画と完全に一体化してる。こんな映画監督はなかなかいないだろう。
しかし、ここまで書いて「海辺の映画館 キネマの玉手箱」に触れてない。この遺作の前ではあらゆる言葉が無力化してしまう。古今東西色んな映画を観てきたけど、遺作でここまで自らの作家性をぶちまけてきた映画は今まで観た覚えがない。とんてもない「贈りもの」で、固定概念みたいなものが壊された感じがする。映画館で「体験」してほしい。歴史の目撃者になってほしい。
最後に重ねて大林宣彦監督、今までありがとうございました。