ゲーム会社に開発職で入社する方法 東京ゲームショウで学生から採用について質問されたので考えてみた
年に一度のゲームの祭典、東京ゲームショウ2024(以降TGS)に行って来ました。
近年は新情報がオンライン配信されたり、また企業が単独で発表を行うことが増え、TGSの役割は変化していますが、それでも企業もファンもひとところに集まり、浮かれ、はしゃぐのは、何物にも代えがたいものがあります。
と、そんなTGSですが、今回はメディアが取り上げるような派手な記事とは違ったところに焦点を当てまして。
ゲーム専門学校の学生と話をしていて思うところがあったので、ひとつ真剣に考えてみたのでした。
なお業界への提言なんて大げさなものではなく、所属団体とも関係なく、個人の意見としてではありますが、ゲーム業界を目指す学生の皆さん(と講師の皆さん)に向けて書いたエントリー。他意なし、忖度なしで、お届けします。
学生作品はどう見られているか
雑に結論から言うと、ゲーム専門学校ブースで展示されているゲームは、来場者目線ではインディゲームと比較され、それゆえに評価を落としてしまっています。
家庭用ゲーム機で試遊できるのが、一般的なゲーム。
PCで試遊できるのが、インディゲーム。
ゲーム専門学校ブースで展示されているのは、PCで試遊するゲーム。
つまりPCで遊べるゲームという大枠で捉えられ、よってインディゲームと同程度の期待をもって遊ばれているという推測です。
では評価を落としていると考える、その理由とは?
はい、掘り下げて説明していきます。
そもそもの条件面の違いから。
まず、開発にかけた時間に、ものすごく差があります。時間がすべてではありませんが、開発期間が長いってのはそれだけで有利です。
単純比較はできませんが、インディゲームの一般的な開発期間は6-24ヶ月という統計があります。また短期の場合でもキャラモデルをアセットストアで購入するなど、工数削減の工夫をしている事例が多く見受けられます。
一方で学生作品の開発期間は数ヶ月から長くて1年。出展することがプロジェクトのゴールである場合が多く、その場合バージョン開発は行われません。
また、プレトタイプや前作の実績からある程度前評判が高い状態だったり、企業から支援を受けて(つまり将来を期待されて)出展するケースが多いインディゲームに対し、学生作品はでたとこ勝負。人目に触れて洗練される、フィードバックを受けて改善される、という工程を踏んでおらず、十分にブラッシュアップできていません。
加えて。
2023年にSteamでリリースされたゲームは14,532にのぼるそうですが、そんな苛烈な生存競争に晒されているのがインディゲーム。ライバル(しかもトップ層)との比較で評価が下される環境で、日夜開発に打ち込んでいます。
一方学生は、競争相手も同じ学生。それも学校からすれば全員がお客様なわけですから、庇護下での競争です。
例えるならサバイバルを生き抜いた狼と飼い犬の戦い。ハングリーさが違います。
と、ここまで条件面の違いについて触れてきましたが、それでも対価を支払ってもいいほど面白かったり、この先が期待できるゲームが出展されているなら、いいんです。極論、ゲームは面白さがすべて。少数相手だとしても、熱狂してもらえさえすれば勝ちなのです。
ですが、どうやらその域に達したゲームはなさそうです。そんなゲームなら何かしら話題になったり、ゲームメディアで取り上げられようものだけど、そうはなっていないので。
つまり、学生が作ったゲームはインディゲームと比較されたあげく、物足りないと思われている。
歴戦のインディゲームと同じ土俵で、商品として評価されているのが実情なのです。
なおインディゲームが台頭してきたのはここ数年のこと。以前は比較対象ですらなかったものが、近年は世間からの注目度高く、存在感を増しています。
学生が作ったゲームはその波に乗れていないし、いい意味での差別化もできていないのです。
何にせよ、学生にとっては向かい風。学校のカリキュラムの一環であり、ようは職業訓練、あるいは就職活動の武器として活用すべくやっているのに、ゲーム開発に人生を極振りしてるインディ開発者と比べられてしまうなんて。
学生からの質問トップツー
さて、別の視点からもひとつ。
この手の展示会で学生から受ける、定番の質問というのがあります。
それは、
ゲームの感想
求人・就活に関する生の情報
です。
感想については世間の評価を受け、振り返りに役立てる。立ち位置を知る。課題を把握する。その機会としてとらえているのでしょう。
また展示会は自身の進路について、業界人から情報を得るまたとない機会。リアルな声を聴いて、就活に役立てようとしているのでしょう。
どちらもとても意義がある質問で、展示会という場を有効活用できています。
そのうえでワンチャン、スカウトされたらラッキーだよね。そういうことなのだとも、思います。そもそも普通に生活していたら、ゲーム業界人と直接会話する機会はありませんからね。ここにチャンスが転がっているかもしれない、そう期待しているわけです。
整理します
ゲーム専門学校の学生作品は長年展示会に出展されてきた
ゲーム業界人と接点を持つ機会としても活用されてきた
ところが最近、企業ではやれない自由な発想で作られた高品質なインディゲームが出展され、注目されるようになった
素人が作ったPCゲームという枠組みで両者は比較され、しかも商品としても評価され、学生作品は低く見られるようになった
結果、ゲームをアピールする(ゲームを作っている自分たちをアピールする)という目的が阻害されるようになった
そして現状を打破する有効な打ち手がない
学生にとってのゴールは、ゲーム業界への就職です。
つまり展示会に向けてゲームを作るという工程は、そのための手段なわけです。
よって大事なのは、どんなゲームを展示したら就職が有利になるのかなのですが、単純にゲームの出来ではインディゲームに見劣りし、その領域で勝負するのはなかなか厳しそう。開発にかけられる時間が短く、チームメイトも運しだいなので。
では、どこで勝負すべきか
手っ取り早いのは、勝負する領域を変えることです。何しろ、インディゲームとの真っ向勝負は分が悪い。
ので、インディ開発者がやらない領域に活路を見出すなどの工夫が必要なのだと考えます。例えば、エデュケーション領域に手を差し伸べてくれているゲームや企業を頼るとか。
もちろんただ動かして終わるのではなく、その先どうするかが、より重要です。
世界観やキャラを入れ替える、ゲームボーイ風にディメイクしてみる、なぞぷよ特化してその進化系を作る、ローグライト風に改変する、VR対応する、AIに対戦させる、演出を過剰に盛りまくる、RPGモードを追加する、などなど。
つまり、思う存分ぷよぷよを魔改造しまくるって寸法です。
誰もが知っているゲームを、どうアレンジするか。
これって、プロでも難しい。けど、だからこそ力量もセンスも問われます。
つまりゲームがまともに動くまでに時間をかけるのではなく、面白くするための工夫に時間と労力を使うわけです。
そういえば熱狂的なファンが勝手に作ったソニックが公式化してしまった、なんてニュースもありましたね。
それを思うと、ただ授業の一環で作るだけではなく、将来に繋がってもいて夢がある。ご褒美があれば、やる気も出ようもの。
世の中には版元から削除を要求されるファンメイド作品が多々ありますが、それでもソニックのような事例はあって、捨てたものではありません。海外だとMODの公式化ってパターンも多いです。
他にも「オープンソース ゲーム」で検索すると山のように教材が見つかります。rogueをベースにシレンを超えるゲームを作る! なんてチャレンジも可能です。
ところで、ですね。
大事なことながら、わかっているようでわかっていない人が多いことがありまして、それをいまからお話しします。
ゲーム開発の現場目線で、学生の評価基準はいったいどうなってるの? について。
じつのところゲーム開発の現場では、ゼロイチのゲーム企画力は、評価優先度が超絶低いという実情があります。(その能力を新卒に求める企業はごく一握り、あったとしても狭き門です。その上、評価基準が定まっておらず人により様々です。一点突破を狙う場合はとんでもない運ゲーになります)
それよりは面白さを言語化できたり、ゲームプレイから仕様を推測できたり、仕様を理解してデータを作れたり、イマイチなポイントを見抜いて改善できたり、アイディアを実現するための技術力を磨いたり、これらの修練に時間を費やしまくった方が、はるかに実践的で、評価されるのです。
勝負すべきポイントをどう定めるかによって、就職が有利にも不利にもなります。
心して挑みましょう。
熱意と技術
例えば国家資格が必要な職業につくための専門学校では、徹底的に知識と基礎を身に着けることに時間が費やされ、難関テストをパスし、実地訓練を経て、ようやく社会に迎えられる準備が整います。その後社会に出て、仕事を覚え、酸いも甘いも知ってから、創意工夫がはじまります。
ですが、これがゲーム専門学校になったとたん、クリエイティブを免罪符に手当たり次第あれこれ始めてしまいがち。それはそれで楽しいし、大事なことだけど、学校でやることではないんです。繰り返しますが、就活の武器はそこではありません。企業が評価するのはアイディアよりも熱意と技術なのです。
ただ、補足しておくと。
アイディア満載のゲームを作るな、というわけではありません。企業へのアピールを存分にやりつくしたそのうえであれば、極めて有効だからです。
アイディアだけでは、話を聞いてはもらえません。聞いてもらうには、相手に関心を持ってもらう必要があるのです。そして関心をもってもらうには、熱意と技術を認めてもらう必要があるのです。
なお熱意とは。
それは、試行錯誤を繰り返し、膨大な時間を費やし、狂気の末に生み出したことが、直観的に相手に伝わるエネルギーのことです。ぱっと見で「すげぇ」「まじかよ」と思わせるには、熱意が必要です。手抜きは罪です。ゆるされません。
また技術とは。
それは、触ってわかる快適さ、気持ちのいい操作性、洗練されたUI、わかりやすいゲームデザイン、工夫されたレベルデザイン、魅力的なデザインワークのことです。プレイした人がゲームに没入できるのは、技術あってこそなのです。
なお誤魔化しのテクニックを使うなとは言いませんが、やるなら上手に、効果的に。潜在的なリスクを残したままでは、やりきったことにはならないのです。
まとめ
企業から評価されるポイントを見定め、技術を磨くために時間を使いましょう。
技術アピールが存分にできるゲームを選び、それを作りましょう。
それでも独自性メインで勝負したいなら?
そのときはインディゲーム開発者になりましょう。それも、なるべく早く。
成功するまで根気強くトライし続ける気概は必要ですが、スタートラインに立つだけなら簡単です。できれば就活を開始するまでに1本作って公開し、洗礼を浴びることをお勧めします。
またゲーム会社でもインディ活動を支援してくれるところはあるので、それを目指すという手もあります。
ただしその場合でも順番は、まず就職。それから創作です。学生の本分をまっとうしましょう。
以上、ゲーム専門学校出身の現役プロデューサーが語る『せっかくゲームを作るなら就活が有利になるポイントをおさえて、存分にアピールしよう』転じて『ゲーム会社に開発職で入社する方法』でした。
あ、そうそう。
より手軽に創作をしたいのなら、ボードゲームを作るという手もありますよ。こちらは、技術よりはアイディアがものをいう領域です。
あるいはゲーム開発にはペーパープロトタイピングという手法もあるので、試してみてはいかがでしょう。
空回りも経験ですが、時間は有限です。
知識を力にかえて、就活を成功させましょう。
そして将来、自分にしか作りえない、面白いと信じるゲームを世に送り出しましょう。
検討を祈る!