「スタジアム・アリーナがもたらす社会的価値の可視化・定量化~パナソニックスタジアム吹田を対象とした調査研究~」を自分なりにまとめてみた
こんにちは!
今日はDBJさんが公開したこちらの資料について自分なりに要点を整理してみたので、共有してみます。(出典:https://www.dbj.jp/upload/investigate/docs/915ad1a4f3fdc44d22f43a26f003db43.pdf)
まず初見で抱いた感想として、何と言っても量が膨大、、、笑
内容自体も非常にアカデミックで高度なので、中々内容の理解に苦戦する気がします、、、笑
自分がまとめた要点としては、次の4つです。
【要約】
まずこのレポートは、スタジアムやアリーナが生み出す社会的価値を定量化し、可視化することを目的としています。従来、経済的価値に重きが置かれていましたが、地域に与える幸福感やコミュニティの一体感など、昨今注目されている社会的価値を数値化することで、行政やスポンサーが投資判断を行う際の基準を生み出すことができます。定量化は、まずロジックモデルを構築し、ステークホルダーへのインタビューやアンケートを通じてデータを収集しており、その後、WTP(支払意思額)などの金銭換算手法を用いて、社会的価値を金額に換算します。今後、このモデルは他のスタジアムやアリーナにも適用可能な形で一般化され、最終的には行政の事業評価や企業の投資判断に活用されることが期待されています。
つまり、スタジアム・アリーナが生み出す社会的価値をしっかり金銭的に評価できるようにし、より多くのお金がスタジアム・アリーナに落とされるようにするための定量化モデルを構築したレポートということかと!!
じゃあ次にそもそもなんでこのレポートを作成する意味があるのか、社会的・分野的特性から読み解いていきます。
【背景】
自分が読んでみて、以下の二つが背景として当てはまりそうです。
①社会的トレンド
近年、社会的価値の創出が、持続可能な発展や社会貢献を重視する経営において重要視されています。この流れは医療や環境だけでなくスポーツ分野にも及んでいるため、株主・地域社会・政府/行政などから経済的利益を追求するだけでなく、コミュニティや社会に貢献することが期待されています。
②スポーツ分野の複雑な利害関係構造
スポーツ分野において、市民、チーム、行政、地域企業、スポンサーなど多くの利害関係者が存在し、またその利害関係者の互いへの影響として、主観的幸福感、健康、シビックプライド、暮らしの質の低下など多岐にわたっています。そのため、その社会的価値を定量的に測ることが難しいとされており、その評価モデルの構築が非常に課題となっています。
以上の背景から、このレポートではスポーツが持つ社会的価値を定量的に評価するモデルを構築しようと試みているのだと理解しました。
確かに日本のスポーツ産業は市場規模が米国と比較して非常に小さく、事業主が投資しづらい領域であったので、その市場の捉え方を変革して、より投資しやすい領域にすることは素晴らしいですよね。「社会的価値」と一言に言っても、一住民の健康なのか、教育なのか、地域社会の一体感の向上なのか、などなど細分化することができるので、どの社会的価値とスポーツが結びつきが強いのか調べてみても面白いですね。
そして、定量化によって
・行政と民間事業者の役割の明確化:社会的価値の定量化を通じて、行政が民間事業者に求める具体的な役割や期待を明確にできると思います。
また、
・政策・事業の妥当性と蓋然性の担保:社会的価値を数値で示すことで、政策や事業の有効性や正当性を証明しやすくなり、資金調達や支持を得やすくなります。
という2つのメリットがありそうです🤔
では実際に結果・考察はどうだったのでしょうか。読み解いていきます。
【結果/考察】
(方法論のところは難解なため、省きました、、笑)
まずは結果です。
結果に関しては色々述べられていますが、要点としては以下の箇所だと思います。
(※SROIとは・・・投資によって生み出された社会的価値を金銭的に評価する手法であり、特に、社会的な効果(幸福感や健康改善など)を定量化し、投入資金に対する社会的なリターンを示す指標です。例えば、SROIが「3.0」とされた場合、1円の投資に対して3円分の社会的価値が創出されることを意味します。)
この結果から読み取れることとして、「スタジアム・アリーナ建設での社会的価値はある。」ということでしょうか。この数値が高いのか低いのか判断が難しいので、他の産業・地域との比較が必要そうです。
今回のスタジアム・アリーナ建設による社会的価値の定量化を試みたレポートに関する考察では主に5点の論点が明示されています。
①医療費削減効果
スタジアム建設による医療費削減効果は限定的であり、一般開放されていない施設や運動施設が併設されていないため、運動時間の増加はわずかであり、頻繁に開放される施設や運動施設の併設があるスタジアムでは、医療費削減効果がより顕著になる可能性がある、とのこと。
②アウトカムの継続期間
アンケートによると、アウトカム(社会的価値)が体感される期間は12〜15年程度。これは、スタジアムの改修が10年ごとに行われる理由を裏付けるデータであり、計画的な改修がさらなるアウトカムをもたらす可能性を示しているそうです。
③ハード面vsソフト面の価値
スタジアムそのものよりも、そこで行われるイベントやスポーツコンテンツに対する愛着が強い傾向が見られ、ソフト面の価値が重視され、したがって、スタジアムの効果を最大限に引き出すためには、イベント運営などのソフト面の充実が重要であるとされています。(確かに。これは感覚的に思っていたことにエビデンスが付与された感じがしますね。)
④アウトカムの価値の継続
アウトカム(社会的価値)は、時間が経過するにつれて減少する前提で考えられていますが、適切なイベント運営や地域とのつながりを強化することで、その価値を持続させることができるとされています。
⑤スタジアム改修の効果
スタジアムの改修によって、さらなる社会的価値が創出される可能性があります。ただし、改修によってどの程度の社会的価値が創出されるかは明確にされておらず、今後の研究で評価する必要があります。
【今後の展望】
自分はこの論点が肝だと思っており、読む前から「この定量化が最終的にどのような形で誰に利用されるのだろうか。」と気になっていました。
P20であるように、流れとして定量化→一般化→実用化という流れが想定されています。綺麗にまとまっていて、純粋にすごいなと思いました。それぞれの要点としては、以下の通りです。
・定量化
- ロジックモデルの構築:先行研究や事例研究をもとに仮説を立て、インタビューを通じて検証・精緻化。
- インタビュー・アンケートの活用:ステークホルダーへのインタビュー・アンケートを実施し、定量化に必要なデータを収集。
- 金銭換算ロジック:WTP(支払意思額)などの手法を使用し、社会的価値を数値化。
・一般化
- 地域や施設の特性に合わせた汎用的な評価モデルやガイドラインを開発。
- 複数のケーススタディを行い、様々なスタジアムやアリーナに適用できるような評価手法を確立。(これはまだ吹田スタジアムでしか検証してないが故にですね。)
・実用化
- 一般化された評価モデルやガイドラインを、行政や企業の事業評価の標準的な評価軸として活用。
- 社会的価値の評価を行政の政策決定や企業の投資判断に反映させ、スタジアムの持続可能な運営を支援。
実用化まで至るのは至る気がするのですが、このレポートをどのように普及さていくのかは次の論点になりそうです。普及の際はDBJが有するネットワークを存分に活用する気がします!笑
【感想・気付き】
読んでみて思ったこととしては、「市場規模が小さいと言われているスポーツ産業において、社会的価値を経済的価値に算出することで、スポーツが持つ金銭的価値を明示しようとする、という試みが素晴らしい」ということです。
現在、「市場規模が莫大な本場のスポーツに触れてみたい」と意気込んでアメリカに来て、実際にスポーツ観戦をしてみた気付きとして、「規模感は致し方ないけど、日本のスタジアム・アリーナの方が細部へのこだわりもあるし、地域により根ざしているのではないか」、ということです。このお金では測れない(正確には測りずらい)側面に疑問を抱いていたので、この取り組みは非常に有意義で理にかなっていると思いました。
またレポートを読んでみた上で、検証してみたいことが2つあり、「アメリカと日本のスタジアムではどちらの方がSROIは高くなるのか」、「競技ごとに違いは生じうるのか(例えばサッカー/バスケ専用スタジアム、屋内/屋外など)」ということです。勿論、どのスタジアムを対象にするのかが非常に難しいですが、結果によっては今一度日本のスポーツ産業の地位を見直す良い機会になるかもしれません。
また、今回の定量化モデルが実際に民間企業・行政・スポーツチームに活用されて、より多くのお金がスポーツ産業に投資されると、経済的価値がより高まり、そして地域が活性化することで、社会的価値も高まるという、良い循環が生まれそうです。