藤野古白句 「武蔵野の春/雪の日」より39句
講談社版「子規全集 第十五巻 俳句會稿」より、明治26年1月30日に詠まれた藤野古白の俳句を選出しました。
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日付 明治二十六年一月三十日
表題 武蔵野の春 鳴雪草庵ニ持チ寄リ当座抜粋
雪の日 本郷真砂町ニテ開会席上運座
第一回運座 武蔵野の春
如月や柵かけし吉野河
如月や屋根ふく茶屋に散る松葉
陽炎や砂利も落さぬ石仏
陽炎を背中に牛の眠り哉
第二回運座 雪の日
山際や雪の明りに星ひとつ
黄昏や蛙鳴く田の傘明り
散る花や汲みては流す水車
春雨の音の絶間や水車
虎杖や熊笹になる藪の奥
初鮒の蹈石に散る鱗哉
初花や月の出がけの風の音
初花の頼りちらほら聞えけり
寄居虫や折々は来る井戸の水
罪もなき笑顔も通る絵ふみ哉
赤土や散りてヒッツク桃の花
春立て蜀山兀と青みけり
苗代や畦に荷を置く豆腐売
苗代に手持無沙汰の案山子かな
百萬の人の命や苗代田
飯蛸やまた舟つなく磯馴松
出代や葛籠のけれは焼畳
出代や母なき児の別れうし
雉子なくやたき木へし折る麓茶屋
春めくや日々近し雉の声
藪蔭や木曽を眺めて蕗のとう
かくて猶死なぬそあはれ猫の戀
尻に敷く笠に折れけり土筆
岨道に落た跡ありつくつくし
春の夜や鶯とまる大悲閣
花咲かぬ寺なき京の彼岸哉
寺道の掃除も届く彼岸哉
瀧かれて三千丈のつらゝ哉
たんほゝや鍬を洗ひし石の水
松風に戸の明ク音や田螺鳴
星山に落ちて焼野は夜の雨
佐保姫の焼け出されたる焼野哉
とぼとぼと児のさまよふ焼野哉
青柳の糸にかゞらむ嫁菜籠
はる雨やヒヨンな義理から松宿り
底本:「子規全集 第十五巻 俳句會稿」講談社
発行:昭和52年(1977年)7月18日