藤野古白句 「根岸集」より35句
講談社版「子規全集 第十五巻 俳句會稿」より、明治26年1月15日に詠まれた藤野古白の俳句を選出しました。
お気に入りの句が見つかりましたら幸甚です。
・個人が趣味の範囲で入力したものです。問題があれば削除します。
・一部の難読字や旧字体は、新字体や平仮名に開くなど手を加えている箇所があります。
・誤字脱字など明らかに文章が不自然な箇所はご連絡頂けますと助かります。
日付 明治二十六年一月十五日
表題 根岸集
第一回運座
年玉やおとゝに包む振の袖
松かせにうかれ出しけり謠初
白魚や藻にからみたる笠のひも
山守のけさ来る音やふきのとう
近よれは門は朽たりうめ柳
冨士程の帆かけうきけり春の海
長閑さや舟にねに行渡し守
子の日するあたりまはゆき夕日哉
屋婦入や祖母と孫とは将戯さす
八重霞一重は冨士の雪ならし
第二回運座
もたれたる柱の重き紙衣哉
桟橋や谷もおもはす春の山
橋立や文もおもはぬ僧一人
鳥追の帰るや野辺の懐手
山陰の尼寺くらき蛙かな
鐘さえて禿山白し麓寺
はたうつや島のあなたは舟頭哥
長安へ帰る道々焼野哉
京入りも明日といふ夜や桐火桶
谷へ出て逃げた顔也はらみしか
若草やいまた揃わぬ小笹かき
足あとは僧はかり也寺の雪
第三回運座
あかきれや花売の手に梅かつく
星消えて闇の底より霰かな
炭の香や薄烟たつ板庇
逢坂や春とはいへと鐘もなし
蔵開ぬり長持をさす日哉
ゆふべ見し月のあたりや雉の声
水ぬるむ山ふところに入日哉
須磨の浦に真砂拾はんさし柳
唐崎や鶯二ツ松の中
下萌やそほふる雨に鍬のさび
橋を行灯のおひたゝし初芝居
藻の中に沈んで見えぬ海鼠哉
相撲
海棠の雫に消ゆる紙燭哉
*俳句で相撲をしたもの
この時は内藤鳴雪の「海堂や寝られぬ閨の雨の音」と競い、古白は0-4で負けた
底本:「子規全集 第十五巻 俳句會稿」講談社
発行:昭和52年(1977年)7月18日