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よくある質問「谷さんと金子みすゞとの出会いって?」
先日も沖縄の記者さんに聞かれたのですが、3行で書けることではなくて💦
よく聞かれることなので、noteに書いておけば「これ見て」と言えますから、そうすることにしました。
伝記の執筆依頼を受けるほど入れ込めるって、どうしてなんだろうと思うのでしょうかね。
一言で言っちゃうと縁というか…
別に好きだったわけでも興味があったわけでもないのに、なぜか演る羽目に💦
縁
きっかけは、26年前(1998年)、所属していた事務所の社長が朗読会を企画して下さったことでした。
日比谷の三信ビルって解体されたのですね、その中の喫茶店が会場。
何を朗読するかとなった時、社長が提案したのが金子みすゞだったのです。
私自身、どーーーしても演りたい作品があれば、相手が社長であろうともちろん伝えます。
でも、どーーーしてもというものもなく、金子みすゞは有名な詩のいくつかを知ってる程度でしたが、別に嫌いではなかったし。
渡世の義理というのもあります、社長に言われてるんですから。で、みすゞの詩を朗読することになりました。
トラブル発生
私の演劇の師匠は愛情深い方で、ご案内を出すと必ず観に来てくれて、完膚なきまでに叩きのめす…じゃなくって💦懇切丁寧にダメ出しをして下さるのです。
その時もご案内を出し、先生は出席のFAXを、私の自宅と間違えて事務所に…
別に出席の返事なのですから、間違えたからといってどうということもないはずなのに…
FAXの添え書きが、私には先生流の毒舌激励と分かりますが、社長は激怒「この男は、おまえの一体何なんだ?!!!」。
別に私がやりたかった朗読会ではないし、やめてもいいのですが…
すでにたくさん出席のお返事をいただいていて…
その時点での中止って、私のお行儀にはないのです。
これは何としても詫びを入れて、社長に機嫌を直していただかなければならない。
性格異常だろ
確か、新宿の中村屋の喫茶店で午前中に、社長と落ち合ったと記憶している。
喫茶店に何時間もいられるはずもなく、河岸を変えながら延々頭を下げ続け…
やっと「よしわかった」と解放してもらえたのは、夜の10時頃だった。
とりあえず、朗読会は無事終わり、私は事務所を辞めました。
岩崎良美さんと同じ事務所で、社長がマネージャーを兼ねている小さな所帯でしたが、たくさんお仕事あるかなと思ったのに…
お仕事してるのは、良美さんだけ。
他の所属俳優たちは、誰も仕事してない。
そう、良美さんはネームバリューでお仕事きてるだけで、社長のマネジメント手腕ではないということ。
だとしたら、この事務所にいる必要はない。
お仕事あるなら、社長がどんな人だろうと我慢する。
でも仕事がないなら、そんな変な人とのお付き合いはご免です。
違うって言ってるのに
そういう理由で辞めたので、FAX事件は関係ないのに、師匠は勝手に責任を感じたようで…
「谷は良い事務所に所属できて、これからという時に、俺のせいで…」と。
お詫びの印に(脚)本を書いて下さることに!!!
これは嬉しかったですよ、有名な女優さんだって、作家に当て書きしてもらえるなんてそうそうないですから。
「できたぞ!」と連絡を受け、渋谷で受け取ったのが1999年の年明け。
なんで、また【みすゞ】なの?!!!
喜び勇んで差し出した両手に載せられた脚本のタイトルは…
金子みすゞ独り芝居『空のかあさま』
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げっ、たくさん人の出る芝居の主役とかもらえるのかと思ったら…
みすゞって地味じゃん、自殺しちゃってるし、なんか暗いし、お花とか、お魚とかって、性に合わないのよ。
もうちょっとこう、惚れたハレた的な、鉄火な女がいいのになあ。
それに何なの一人芝居って、そんなの無理だし💦
名人の落語だって、40分ぐらいっしょ、あたしゃ名人ではござんせん。
自分の実力は、自分が一番よく分ってます、1時間以上一人で喋り続けるなんて絶対無理!!!
と思ったけど
その場で断るのも…ねえ。
なので「読ませていただいて考えさせて下さい」と、帰ってまいりました。
で、読んだら、感動してしまったのです。
詩がそのまま台詞になってる詩劇で…
ラストは、『仙崎八景』という、みすゞが生れ故郷を謳った詩のたたみ掛け。
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肉体を脱いだみすゞの魂が故郷に抱かれ、全ての喜怒哀楽を吐き出して天に昇って行くのが私には見えた。
号泣。
ここで客に泣いてもらいたい。今、私が感動しているように。それは、とてもとても難しい仕事だけれど。
あたしが断れば、誰かがやるのよね
今の自分に、これを演れる力がないのは分かってる。
でも、ここで引きさがったら、他の女優が演るのよね。
あたしの代わりなんか、掃いて捨てるほどいる。
素晴らしい作品で、演りたいと思ったのにあきらめるなら、女優やめろ!
演れる自分になればいい。
そこから勉強と研究が始まった
『空のかあさま』は、みすゞが命を絶つ日の昼間に、写真館で写真を撮るシーンから始まっている。
実際みすゞは写真を撮っているのだが、なぜ撮ったのか?
自殺の記念写真?
その答えを自分なりに出さなければ、舞台には立てない。
そして、みすゞはなぜ死ぬのか?
みすゞについての権威とされている矢崎節夫氏の『金子みすゞの生涯』には、こう書かれていた。
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離婚後、娘はみすゞが引き取っていた。
しかし、夫が娘を渡せと言ってきた。
そんなことをしたら、娘が不幸せになってしまうから、命を懸けた抗議として、娘を守るために死んだと。
守るためと言うならば、死んでどうする?!
幼い娘を遺して、なぜ死ぬのか。
その答えを、自分なりに出さなければ舞台には立てない。
なぜ?なぜ…と闇をのぞき込んでいたら、いつのまにか沼にはまっていました。
元々は好きでもなく興味もなかったから、クールに研究できたのかもしれない。
「好き」からスタートすると、どうしてもみすゞを「いい人」に仕立てたくなってしまう。
あたしは、みすゞを同性の同業者、傲慢な表現者、芸術家として観ている。
子どもを守るために自殺するなどという母性神話に詩人を閉じ込めるのは、どーーーしても腹に落ちないのです。
1999年9月の初演から25年
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まさか、伝記の執筆をすることになるとは夢にも思っていませんでした。
みすゞの自死は、昭和5年3月。
今ちょうど、昭和2年まで書けたところです。
年内に、第1稿をあげるべく、頑張れあたし!