ビジョンドリブンの最新デザインアプローチ!トランジションデザインを活用した実践プロセス
こんにちは!株式会社NTTデータのデザイナー集団「Tangity」で、デザイナーをやっています石澤です。
最近「未来志向」や「未来洞察」という言葉を目にしたり、聞いたりすることありませんか?
関連する「シナリオプランニング」との関連性や社会変革を見据えた新しいデザインアプローチの文脈からお伝えしたいと思います。
1. トランジションデザイン(Transition Design)とは?
デザイン研究を行うカーネギーメロン大学(CMU)で2012年に提唱された理論です。21世紀の”地球規模の課題”に対して持続可能な社会で望ましい長期的な未来ビジョンを描き、社会の価値観の移行(Transition)をデザインする新しいアプローチで近年欧米のビジネス界で注目されています。
”地球規模の課題”とは、気候変動、伝染病によるパンデミック、資源の枯渇、格差の拡大などを指しています。
トランジションデザインでは、サービスデザインやソーシャルイノベーションデザインとは異なり、未来志向のビジョンに重きを置いています。長期の視点からバックキャストで現在の解決策を導き移行(Transition)を促します。加えて、先代の過去の叡智(科学や哲学、心理学、社会科学、人類学などのデザイン以外の情報)も活用します。
そして着目すべきは新しいアイデアや持続可能な未来をバックキャストで描く為に、SF、デザインフィクション、スペキュラティブデザインなどのいくつかの手法を活用する点です。
2. なぜ必要なのか?
今後の企業活動で次の3つの社会課題の変化は無視できない状況にあると言われています。どのようにこの課題に向き合うかが重要になってきます。
(1)生活者の考え方や価値観の変化
(2)環境に関する税制の変化
(3)ESG投資による経営の変化
ただし、これらの課題を否定的に捉えるのではなくルールの変化と捉え、新たなビジネスの機会があると見ることもできます。例えば、世界的な気候変動の問題を解決するため、CO2排出量の削減や地球温暖化の影響への対策を講じるクライメートテック領域のビジネス展開が始まっています。これからの企業活動は社会課題と両立しながら進めていくことが求められています。
3. トランジションデザインのフレームワーク
トランジションデザインのフレームワークは4つのエリアで定義されています。
(1)移行のビジョン(Vision for Transition)
トランジションデザインは、現在の取り組みに情報を提供し、持続可能且つ公平で望ましい長期的な未来のビジョンを描く行動を促します。
(2)変化の理論(Theories of Change)
トランジションデザインでは、様々な分野の理論を取り入れ、複雑ではあるがオープンな社会システムの中の変化を深く理解することが必要です。
(3)姿勢とマインドセット(Posture and Mindset)
過渡期を生き抜くには、デザイナーとしてのマインドセットと姿勢の変化が必要です。つまり、他人を敬いオープンな気持ちでやり取りし、謙虚さや奉仕、内省の心構えが必要です。
(4)デザインの新しいやり方(New Ways of Designing)
トランジションデザインは、既存の取り組み(サービスデザインやなどの他のデザインアプローチを補完するもの)を拡大し、将来に目を向け複数の問題を同時に解決するソリューションを、何年も、あるいは何十年もかけてデザインします。
以上のように引用元のカーネギーメロン大学の情報では”フレームワーク”と定義されてはいますが、内容を見るとデザイン理論であり学術的なレベルです。これからのデザイナーにとってエッセンシャルなマインドセットや行動、取り組む姿勢をまとめているものです。
4. トランジションデザインを活用した実践プロセス
前述の通り、トランジションデザインはまだ理論でありデザイナーとしてのマインドセットや行動指針の範囲のフレームワークと概念です。その為、実践的なプロセスやツールはまだありません。
今回、トランジションデザインの理論を自分なりに解釈し未来洞察のシナリオ策定のプロセスに適用したケースをご紹介します。
ステップ1|側面(Aspects)の洗い出し
トランジションデザインでは、”地球規模の課題”が対象になります。例えば、気象変動による環境変化や貧困による格差などのテーマです。このテーマを設定し側面を洗い出します。日本特有の市場に絞り込む場合は取り扱うテーマから世界と日本の側面の共通項を洗い出すこともいいかもしれません。
ステップ2|From(現状)の定義
側面に対する「現状の手段、方法、行動」を定義します。例えば、慣例的に人々が行なっている手段や方法、行動です。例えば、貧困の差による「学習」という側面を挙げた場合、「整備された通信環境と高性能なデバイスによるオンライン学習を行う」ということが定義できるかもしれません。
ステップ3|トレンド特定
Fromから側面に影響を及ぼす最新トレンドを特定します。ビジネスシフトを促す変化とその影響、人の生活様式や行動様式のシフトを促す変化とその影響のようなイメージです。例えば、前述の「整備された通信環境と高性能なデバイスによるオンライン学習を行う」に関するトレンドは「衛星の普及による通信技術の品質向上と教育コンテンツの分散化」が特定できるかもしれません。しかし、トラジションデザインではテクノロジーだけにフォーカスするのではなく社会の変化による人々の考え方や価値観の「移行」に着目する必要があります。
ステップ4|To(未来像)の定義
最新トレンドの特定によりまずは社会や生活者目線でマクロのTo(未来像)を定義します。具体的には、最新トレンドにより仕組みや環境が「移行」された20xx年に起こりうる社会とそこで生活者が行っていることや直面していることをマクロ視点で洗い出します。次にマクロ視点の未来像からミクロ視点での課題とそれを解決しているユースケースを複数作成します。例えば、学校という概念が「移行」された未来像とは、「生活者は画一的な教育を同じ場所で受けず、個々人に適した教育を選択できる社会」かもしれません。
ステップ5|未来シナリオの作成
ステップ4で描いたTo(未来像)の中から作成する未来シナリオを選定します。選定する基準は何を軸に優先するかによって決めます。例えば、実際に未来シナリオが実現した場合の社会や企業活動にとってのインパクト度合いと不確実性の度合いです。次に選定し作成したシナリオからバックキャスティングで今取り組む施策を作りKGIやKPIを決めます。実際に実行してモニタリングし修正を行うサイクルを繰り返していきます。
このようにトランジションデザインの理論から実施しているプロセスとその事例について今後公開できるようになった際にはお伝えしたいと考えています。
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