昔から物を作るのは好きだった。
イタリアから戻り、私はなんだか行く前とは別人の様に。覇気のなかった私は何からやろうかとやる気の塊に。でも、これがまた意外と難しくて、半端にできてても凄くできるわけではなく、とてもとても仕事にできるほどのものではない感じで、これではいけないなと思い、まず何をどの様な形で仕事にしていくかをもう一度考えてみることにした。
そして、私のしたいことは大会社をつくることではなく(今更、とても無理そうだし)システム的なものを売るのでもなく、実体のある物を己の手で作り伝え、人の手元に届けたいということ。それが、更に私の中にある文化伝承に基づく物であり、一から初めてては間に合わないので今ある程度の知識と技術のあるものから選び、事業として作り上げることであると結論がでた。
私の持つ技術と知識は大まかに二つしかない。
一つは証券投資であり、もう一つは食である。そして、そこに文化伝承となると、食であり更に少し嗜んだこともある茶道に関連するもの。
茶道も今更精進したところで、沢山の人がもうやっていて、事業にまではできそうもない。そこで考えたのが茶会や茶席で供される茶懐石料理である。
料理は栄養士ということもあり、少しは人よりも知識も技術もある。
よし!これにしよう。
私の茶懐石の師匠選びが始まる。
地元福岡でも調べたが、なかなか自分の納得のいく師は見つからず、最終的に京都におられるすばらしい師匠のところに縁あって通うことになった。
師匠は庵を構えておられ、そこで実際に行われる茶席の料理を出されるのだが、その厨房に入り師の弟子として見て覚えていくわけだ。詳しいレシピなどないし、初めのうちは出汁を煮たたせてしまい、激昂され出汁はすてられてしまうし、飯蛸はヘナヘナにしてしまうしで、栄養士だの既婚で毎日料理もしてることさえ恥ずかしくて言いたくないほどだった。
私以外にも毎回数人の弟子がおり、それぞれに言われたことを担当するわけだが、来られるお客様にとってはその一回が、貴重な一回なので、緊張度はかなりのものだった。