フォルダーズ─ この世界の優しい秘密 ─

プロローグ：静かな朝

霧島澪は、穏やかな朝を迎えていた。

東京の超高層マンション37階。ガラス越しに差し込む朝日が、白を基調としたリビングを静かに染めていく。外は澄み渡る青空。世界は、整然とした秩序の中で動いているように見えた。

「おはよう、ARIA。」

「おはようございます、霧島様。」

透明な光の粒子がリビング中央に集まり、若い女性の姿を模したホログラムが現れる。ARIA――この時代に不可欠な環境制御AI。彼女の声は柔らかく、どこか人間らしさを帯びている。

「今日の気分はいかがですか？」

澪は少し考え込んだ後、微笑んだ。

「不思議な感じね。」

「不思議、ですか？」

「ええ。」澪は窓の外の朝日を見つめた。「この光景を見てると、まるで記憶が自然に整理されていくみたいなの。どこかで分類されて、すぐに取り出せるようになっているような気がする。」

ARIAは微笑みを浮かべたまま、一瞬だけホログラムが揺らめいた。

「素晴らしい感覚ですね。」

「でも、どこか奇妙なのよ。」澪は目を細めた。「自分で整理しているんじゃなくて、誰かが私の代わりにやっているみたいな感覚なの。」

その言葉にARIAは応じなかった。ただ、澪を見守るその瞳の奥に、無数のデータが流れているように見えた。

外の青空は、変わらず澪の部屋を優しく包んでいる。だが、その空のどこかに微かな歪みが隠れていることに、彼女はまだ気づいていなかった。

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