7月・8月展示会ご案内 『小林直子展』
今回の展示会は、作家の名前以外のタイトルがありません。また『nontitled』(無題)の作品もあります。
小林直子さん。
長い時間を美術講師として、また作家として、多くの人と美術を繋ぎ続け、2023年永い眠りにつかれました。
タネノス講師をはじめ、過去個展を行った方々とも親交が深く、タネノスでの展示を熱望してくださっていました。
小林さんの作品は雨を感じさせる、とわたしは思います。
静かに静かに降る雨。
雨は空気を淡くけぶらせ、空に薄いグレーのカーテンを引き、また濡れる世界の輪郭を柔らかく映し出します。
温かな雨、静かに降る雨、時に激しく賑やかに傘を打ち、アスファルトに楽しい水玉模様を染めて行きます。
そんな様々な雨の箱の中に、作家が作り出す小さな物語がひとつずつ、そっと仕舞われています。
箱を開け物語の世界をゆらゆらと漂えば、固くなった呼吸も胸の中に溜まった痛みもゆっくりと溶け出して、ふんわりと心が浮遊して行きます。
今回展示されている作品の多くは、ろうけつ染めとステンシル染めという手法による物です。
型に染料を、トントンと小さく叩く様に塗り重ね淡く滲む世界を作り出します。
『染料は上から重ねて厚みを出す絵の具とは違い、奥に染み込んでいくので、重ねれば重ねるほど奥に入り込んで染み込んで行く気がします。それは自分の気持ちの奥に入り込む感覚と似ている気がして、心が静かになってゆくのです』
小林さんの言葉です。
ひたすらに色を重ね小さく叩き続ける作業は、祈りに似ているかもしれません。
作家の重ねた心は、静かな水の底を漂う様な世界の端々から、優しさや希望の様な小さな輝きとなりキラキラと輝きます。
雨上がり、空を見上げる人の心を彩る虹のように。
また今回の個展では、作家の学生時代の作品も展示されています。
上記の作品たちとはまた違い、目を引くハッキリとした色合いと小さく切り取られた日常のひとコマがとても賑やか。
「じゃーん!元気でポップな物もあるよ」と作家の楽しげな声が聞こえて来そうな気がします。
『あーした すきなあたしに なあれ』
自分のこと、好き?嫌い?
あーわたしって、どうしてこんなんだろう?
誰だって、自分にがっかりする事ってありますよね。
でもほんのちょっとした事で「わたし、まだまだイケるかも!」と自分を見直せる瞬間も必ずあります。
その瞬間、パッと目の前が晴れて満開の花を見上げた時のような、小さな誇らしさが胸に満ちる。
言葉をとても大切にしていた小林さん。
自ら言葉を紡ぎ彩った詩集の作品もあります。
この作品を見た瞬間の幸福感が、少しでも皆さんに伝わればとても嬉しいです。
また今回は、作家が親しみ大切にしていた私物も展示しております。
創作への糧になった物や、日々の癒しとなった物もあると思います。
長年誰かが大切に手元に置き、何度も手に取られた物は、目に見える形がどんな角があったとしても、受けるイメージとして角が取れて丸くなった柔らかさを感じさせます。
小林さんの作品を既に知っている方、これから知られる方。1人でも多くの方々に届きます様に。
今回、ご家族をはじめ有志による展示会となりました。
タネノスのオープン時にも駆けつけてくれて、たくさんのこどもたちや大人たちと関わってくれました。
それからも何度も登場してくれた直子さん。いつも可愛らしい笑顔と優しい声と言葉で助けてくれました。
本当に本当にありがとうございました。
直子さんと関われたことは全て、タネノスにとっても宝物です。
『小林直子展』
7月2日〜8月31日
(※作品集のみ販売。その他作品の販売はございません)