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「言葉が7%」という誤解とコミュニケーションの真実
メラビアンの研究と「7-38-55の法則」の誤解
アルバート・メラビアンの研究、特に「7-38-55の法則」は、感情を伝えるコミュニケーションにおいて言葉(7%)、声のトーン(38%)、そしてボディーランゲージ(55%)がどのように作用するかを示すもので、多くの人々に広く知られています。
しかし、この研究結果は特定の状況下で実施されたものであり、日常のコミュニケーションにおいては、研究の条件でもあった、言葉の意味や声のトーン、ボディーランゲージが不整合な場面はほとんど存在しません。このため、メラビアンの研究は過大評価され、単純化され、しばしば誤解されることが多いのです。
研究の特殊性と日常のコミュニケーション
メラビアンの研究は、特定の実験条件の下で行われました。彼は、感情的なメッセージが不整合な場合に、聴き手がどのように反応するかを探求しました。このような条件下では、聴き手は言葉の意味よりも非言語的な要素を重視する傾向があることが示されました。しかし、日常生活では、言葉と非言語的な要素が一致することが一般的であり、この不整合が生じることは稀です。したがって、メラビアンの法則が示す状況は、通常のコミュニケーションを過度に単純化したものと言えます。
言葉の重要性と心理学的知見
言葉の重要性を無視することは、コミュニケーションの質を損なうリスクがあります。心理学者のジョン・メディナは、言葉が持つ情報量や感情の表現力が、非言語的な要素に勝ることがあると述べています。日常のコミュニケーションにおいては、状況や関係性によって言葉が持つ意味や響きが変わります。社会心理学者のウィルフレッド・ビオンは、対話における「感情の共有」を重視し、相手との関係性がコミュニケーションの質に大きく影響を与えることを示しています。これは、言葉、声のトーン、ボディーランゲージが一致することで、相手との理解や共感が深まることを意味します。
誤解と信頼の形成
「7%」という数字はインパクトのある数字として、記号として広まっています。言葉が持つ力を軽視し、声のトーンやボディーランゲージのみに注目することで、誤った印象を与えたり、相手との信頼関係を築く機会を逃す可能性があります。心理学者のロバート・チャルディーニは、コミュニケーションにおける信頼の重要性を強調しており、言葉を通じて形成される信頼関係が、相手との関係性を構築する上で欠かせない要素であることを指摘しています。
結論:コミュニケーションの複雑さを理解する
結論として、メラビアンの研究から得られる教訓は、コミュニケーションの複雑さを理解する手助けであり、言葉の重要性を過小評価すべきではないということです。コミュニケーションは多面的であり、言葉、声のトーン、ボディーランゲージが調和しているとき、初めて効果的なコミュニケーションが成り立ちます。聴き手との信頼関係を築くためには、言葉、声のトーン、ボディーランゲージの整合性が重要です。
このように、メラビアンの研究は特定の条件下での結果に過ぎず、言葉が7%しか影響していないというのは誤りで、さらに、その誤った解釈を日常のコミュニケーションに当てはめることは、さらに誤解を招くものです。
私たちのコミュニケーションの質を高めるためには、言葉を大切にし、その力を最大限に引き出すことが不可欠です。
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